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第48話 風雷旅団、疾風と迅雷……出発するぞ!

 周囲の山々から見下ろすと、サウダーデは盆地の底に置かれた、巨大なドーナツのように見える。

 地下に存在する巨大迷宮アガルタの上には、建築物が存在せず、直径七キロの円形の荒野が広がっていて、それがドーナツの穴に見えるせいだ。


 再生期間に入ると、アガルタの上に広がる荒野の、外縁部分を除いた殆どでは、様々な異常現象が発生する。

 他の場所と入れ替わってしまったり、巨大な竜巻が発生したり、いきなり殆どが水没し、巨大な湖のようになってしまったり……。


 故に、アガルタの上にある地上部分の殆どに、建物はないのだ。

 たまに利用しようとする者達が現れるのだが、毎度のように失敗している。


 この広大な荒野の外縁部分の東西南北には、アガルタに出入り出来る、大きな出入口……エントランスがある。

 そして、円形の荒野の外縁部分には、再生期間でも異常現象は発生しないので、建物が存在する。


 エントランスの周囲には、パブリックハウスの出張所や、冒険者や採掘者向けの様々な店が並んでいる。

 商店街や繁華街のように、賑わっているのだ。


 コンカーの駅も、エントランスの近くの、異常現象が起こらない辺りに設置されている。

 普通のコンカーの駅もあるのだが、採掘されたアガルタイズを輸送する為の、輸送用のコンカーの駅もある。


 冒険者とは違い、採掘者は採掘したアガルタイズを、出入り口付近にある、コーヒーハウスで売却する。

 パブリックハウスの発掘者向けの施設が、コーヒーハウスなのだ。


 コーヒーハウスでパブリックハウスが購入したアガルタイズは、輸送用のコンカーにより、アガルタイズの精製工場へと輸送される。

 精製されたアガルタイズは、グレートウェスタン鉄道やコンボイにより、購入した他の都市や国家などに輸送されるのだ。


 多数の冒険者達と採掘者達、彼等を相手に商売を営む様々な者達により、アガルタの出入り口付近は冒険期間中、常に祭のように賑わっている。

 そんなアガルタの東部エントランスの前に、寧人とヘルガは姿を現した……第一パブリックハウスを出た、数分後のことである。


 甲冑や軽装の鎧、黒いローブにや白いローブ、標準戦闘服スタンダードや民族衣装風のコスチューム……。

 様々な服装に身を包み、武器を携えた人々が数百人、出入り口付近に集まっている。


(まるで、ネトゲのロビーだな)


 ファンタジー系のネットワークロールプレイングゲームで、多数のプレイヤー達が集うロビーのような光景だなと、寧人は思う。

 一部、現代もののシューティング系のゲームや、ギャング系のゲーム風の、銃砲を手にした人々も混ざっている。


 氣や奥拉オーラと呼ばれる力や、魔力や聖力と呼ばれる力を源泉とした防御手段に、銃砲は簡単に無効化されてしまう(氣とアウラは、基本的には同じ存在)。

 そういった力を操る人間だけでなく、殆どのガーディアン相手には、有効とは言えない武器だ。


 それ故、クルサードにおいて銃砲は、弱い部類の武器といえる。

 ただ、浅い階層に出現する、弱い部類のガーディアン相手であれば、一応は有効な武器となる。


 氣や奥拉オーラ、魔力や聖力を操る戦闘技術に比べると、銃砲を操る戦闘技術は、比較的簡単に習得できる。

 だから、浅い階層までしか潜らない採掘者などは、銃砲で武装している場合が多いのだ。


 そして、冒険者や探索者でもなければ、彼等を相手に商売を営む訳でもない者達も、東部エントランス前の群衆達に混ざっていた。


「こんな所にまで……迷惑な連中だ」


 群衆の中で声を張り上げ、ビラを配っている白装束の一団を目にして、ヘルガは忌々し気に言葉を吐き捨てる。

 ヘルガの目線の先には、十字星が印された白装束を身に纏う、十字星教の教徒達の一団がいた。


「愚かなる冒険者達に採掘者達、悔い改めよ! アガルタは本来、十字星教の物である、聖なる場! 十字星教の教徒ではない者達が、踏み込んでいい場所ではない!」


 十字星教の教徒達は十数人でグループを作り、あちこちで声を張り上げ、ビラを配っている。

 だが、冒険者達にも探索者達にも、相手にされていない。


 声を張り上げているのは、十字星教の教徒達だけではない。


風雷旅団ふうらいりょだん、疾風と迅雷……出発するぞ!」


 寧人達の近くに集まっていた、二十人程の集団中で、一人の男が声を上げる。

 風雷旅団というのはカンパニーの名前、疾風と迅雷というのは、風雷旅団の冒険者達で構成される、パーティの名である。


「今日は三番から下りる! はぐれるなよ!」


 東西南北の各エントランスには、それぞれ十本のトンネルが口を開けている。

 トンネルには右から順番に、数字が振られている。


 つまり、風雷旅団の二つのパーティは、右から三番目のトンネルから、アガルタに下りる訳である。

 軽装の鎧の剣士達や黒いローブ姿の魔術士達、白いローブ姿の聖術師達が、右斜め前に向かって移動を開始する。


 ちなみに、戦闘において、主に前線に出て戦う前衛職は、戦闘スタイルの違いにより、更に細かく職種が分類されている。

 剣術で戦うなら剣士、主に素手で戦うなら格闘家といった感じで。


 カンパニー独自の職種も、存在している。

 震天動地という流派の戦闘スタイルで戦う武仙は、カンパニー独自の職種なのである。


 寧人達がいる辺りは、三番と四番のトンネルの近く。

 目の前にある下り坂を、右斜め前に下りて行くと、ちょうど三番トンネルが、左斜め前に下りて行くと、四番トンネルがあるのだ。




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