目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第46話 身分証だけでなく、ドッグタグみたいなことにも使われるのか

「アガルタに下りる時は、絶対に首に下げるなどして携帯して下さい。アガルタ内でパブリックハウスの拠点を利用する際に、タグメダルが必要となります」


 カティアは続ける。


「それに……冒険者がアガルタ内で死亡した時、他の冒険者がタグメダルを死体から回収し、死亡者の確認をする為にも使いますので」


(身分証だけでなく、ドッグタグみたいなことにも使われるのか)


 受け取ったタグメダルを弄りながら、寧人は心の中で呟いた。

 メダルには顔だけでなく、名前やカンパニー名、そして一つの星のマークが刻み込まれていた。


「星はスターレートのレートですか?」


 寧人はカティアに、そう訊ねる。

 スターレートとは、冒険者を星の数で、レーティングする制度である。


 実績を積み実力を評価されると、星の数が増えて、スターレートが上がる制度なのだ。

 冒険者を始めた時は、皆が一つ星だが、星は最大で、七つまで増える。


 星の数が多いと、様々な利点があるので、冒険者は大抵、スターレートを上げて、星の数を増やしたがるのだ。

 スターレートを決めるのは、パブリックハウスである。


「はい」


 寧人の写真を書類と共に、ファイルにまとめながら、カティアは返事をする。

 そして、ファイルをカウンターの引き出しにしまうと、一冊の文庫本サイズの青表紙の本と、雑誌風の本を取り出す。


「これは青本、冒険者活動に役立つ、色々な基本的な情報が載っています」


 青表紙の本を寧人に手渡し、カティアは続ける。


「これはパブレティン、冒険者向けの情報誌で、ほぼ毎日発行されていて、アガルタの出入り口付近や、パブリックハウス関連の各施設で、無料で配布しています」


 カティアは寧人に、紙束……パブレティンを手渡す。

 パブと広報を意味する、ブレティンという言葉を組み合わせたネーミングだ。


 ちなみに、クルサードの言語は、旧世界で使われていた様々な言語が、最終戦争後に混ざり合い、生み出された統一言語である。

 それ故、旧世界の言語の様々な言葉が、大量に含まれている。


 異世界の中では、近い世界同志であるせいか、旧世界の様々な言語は、寧人が生まれ育った世界の様々な言語と、よく似ている。

 パブリックハウスやブレティンは、旧世界における英語に相当する言語であり、武仙幇が使う多くの言葉は、中国語に日本語が混ざったような言語である。


「アガルタに関する最新の情報や、パブリックハウスからの伝達事項がメインの冊子ですが、普通のニュースも載っています」


 雑誌風のパブレティンを、カティアは開いて、中身を寧人に見せる。

 多数の地図が、紙面には載っていた。


「パブリックハウスと契約している冒険者により、常にアガルタのマッピングが進められていますし……」


 カティアは言い足す。


「パブリックハウスの調査員達もマッピングを行っているので、パブレティンには最新のアガルタの地図が載っています」


 多数の地図は、アガルタの地図だった。

 出現したガーディアンや、発見されたトラップに関する情報など、様々な情報が地図には記載されていた。


「最新の情報では、今回の冒険期間の二十二日目である昨日の内に、第三十階層まで冒険者達が辿り着き、複数のパーティが、第三のロードガーディアンと四度……戦闘を行ったようですが、倒せていません」


 アガルタは六十の階層に分けられていて、十階層ごとにロードガーディアンと呼ばれる、強力なガーディアンが配置されている。

 ロードガーディアンを倒さなければ、その下の階層に進むことはできない。


 第十階層から第五十階層までのロードガーディアンは、倒されても数時間で復活する。

 だが、第六十階層のロードガーディアンの場合は、復活の仕方が異なる。


 第六十階層のロードガーディアンが倒されると、その七十二時間後に、アガルタのリセットが開始するのだ。

 リセットとは、アガルタの地下迷宮が、造り替えられることであり、第六十階層のロードガーディアンは、この時に復活する。


 アガルタが造り替えられる数日間は、再生期間と呼ばれている。

 冒険者は再生期間中は、アガルタに下りることはできない。


 そして、再生期間が終わってから、次の再生期間が始まるまでの期間を、冒険ができる冒険期間という。

 要するに、今回の冒険期間が始まってから、今日は九十七日目なのだ。


 アガルタはリセットの際、失われた魔石やお宝を補充を行う。

 つまり、アガルタがリセットされ続ける限り、魔石やお宝が尽きることはないのである。


 失われなかったお宝に関しては、リセットの後も存在し続けるが、配置される場所は変更される。

 発見されぬまま、数百年前から存在し続けているお宝も、存在するといわれている。


 ちなみに、冒険期間が始まり百日が過ぎると、アガルタはリセットを開始する。

 最下層のロードガーディアンが倒されずとも、定期的にリセットは行われるのだ。


 アガルタのリセットは、世界と世界の間に満ちた膨大なエネルギーを、利用していると言われている。

 フェルサの塊である魔石などのアガルタイズや、様々なお宝の大部分も、この膨大なエネルギーにより作り出されている。


 世界と世界の間に存在する空間を漂う貴重な物を、アガルタはお宝として取り込む場合もある。

 これらはアガルタが作り出すお宝と違い、レア度が桁外れに高い。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?