しかも、壊滅した側のカンパニーが、実は十字星教系のカンパニーだったことまで判明した為、冒険者達の多くは、その判断を支持した。
実は十字星教は、冒険者達を批判しながらも、「アガルタを取り戻す為」などと主張してカンパニーを組織し、アガルタに送り込んでいたのだ。
多数の教徒達を、十字星教の教徒達であることを隠させた上で、冒険者として登録させ、カンパニーを組織し、アガルタにおいて十字星教の為に活動させていたのである。
壊滅したのは、そのカンパニーだった。
だが、正当防衛といえる流れであり、潰されたのが十字星教系のカンパニーであったとしても、多数の死傷者が出るような真似をしたのは、やり過ぎではないのかという声が、少なくない数のカンパニーから上がった。
結果として、第八の掟が追加され、カンパニー同士の抗争を、ルールの下で行わせる制度を、導入したのである。
この掟が導入された時、ほぼ同時に、抗争に勝利した側のカンパニーが、アガルタでの活動を五年間、自粛することを発表した。
パブリックハウスのオーナーであるカンパニーの内、六つのカンパニーが、勝利した側のカンパニーに、冒険者活動の自粛を求めたのである。
掟に反していないので、罰することはできない。
だが、サウダーデとパブリックハウスの混乱を収める為、しばらくの間……五年間だけ、自粛して欲しいという求めに、勝利したカンパニーは応じた。
何かと事件が多い自由都市のサウダーデでは、五年も過ぎれば、カンパニー同士の抗争事件は風化され、殆どの人は気にもしなくなるだろう。
それに、そのカンパニーには当時、積極的に冒険者活動を行っている者がいなかったことも、カンパニー側が自粛の提案を受け入れた理由だ。
そのカンパニーは伝統はあったものの、人数が少ない、特殊な性質のカンパニーであり、余り有名とは言えない存在であった。
抗争により、一時的に名前がサウダーデ中に知れ渡ったが、五年間の自粛は長く、事件が風化すると共に、そのカンパニーの名も過去の存在となり、話題にもならなくなっていった。
昨年、自粛期間が明けて、そのカンパニーはサウダーデにおける冒険者活動を、地味に再開したのだが、殆ど話題にもならないままだった。
今では若手の冒険者の中には、そのカンパニーの名すら知らない者が多い。
ちなみに、抗争のもう一方の当事者である、十字星教のサウダーデ支部は、組織したカンパニーと共に、抗争に勝利した側のカンパニーに、壊滅させられていた。
その上、自由都市であるサウダーデでは例外的な措置として、十字星教の本部に対し、五年間の布教が禁止される処分が下された。
名目上は、パブリックハウスから、十字星教本部に対し、サウダーデにおける布教の、自粛要請が行われただけであった。
ただ、十字星教本部側も、支部組織が壊滅させられたダメージは大きかった。
その上、教徒による組織的な八掟破りまでもが明らかになった為、サウダーデにおける評判は最悪となり、布教どころではない状況となった。
結果として、十字教本部はパブリックハウスの要請に、従うしかなかったのである。
過去の事件が風化したと言える状態となった昨年、五年間の自粛期間は終わり、十字星教は再びサウダーデに支部を組織し、布教活動を再開した。
そして、この一年の間に、三堂の教会が建てられ、多くの教徒達が送り込まれたのだ。
ちなみに、カティアの説明の中に、第八の掟が追加された経緯についての話は、含まれてはいない。
さすがに新人相手には、不要な過去の話だと判断したので。
ただ現実問題として、小規模のいざこざまでには、パブリックハウス側の手が回らない。
その上、第八掟は本来の掟ではないせいもあり、冒険者からも軽んじられる傾向がある。
故に、冒険者同士の小規模のいざこざ程度の私闘は、かなり頻繁に起こっていること。
パブリックハウスには、それを取り締まるだけの能力がなく、事実上野放しに近い状態になっていることについては、カティアは正直に話した。
ちなみに、サウダーデは世界の迷宮都市の、中心的な存在であるが故に、冒険者の八掟は、他の迷宮都市にも、ほぼそのまま広まっている。
元々は七掟として広まったのだが、殆どの迷宮都市て、既に八掟に改正済みだ。
冒険者の八掟についての話が終わっても、まだカメラの音が止まず、処理が終わらなかったので、カティアは冒険者の新人が知っておくべき、他の色々なことについて、寧人に説明した。
既にヘルガなどの武仙幇の者達から、教わっているかもしれなかったのだが、念の為に。
そして、その話が終わった頃合に、ちょうどカメラの音が止まった。
処理が終わったのだ。
「……以上、何か不明な点はありますか?」
冒険者の新人、初心者が知っておいた方がいいことについて、話し終えたカティアは、寧人に問いかけた。
「いや、武仙幇で説明を受けた通りなので、特にありません」
寧人の返答を聞いて、カティアは頷くと、カメラの背面のボタンを弄り始める。
すると、背面の引き出しがレジスターのように開く。
引き出しの中から、カティアは写真と銀色のメダルを取り出す。
写真の方は普通だが、メダルの片面には、写真と同じ寧人の顔が、刻まれていた。
(結構凄いんだな、このカメラ)
写真を撮影するだけでなく、メダルに写真と同じ画像を刻まれているのを見た寧人は、素直に驚く。
「これはタグメダル、冒険者としての身分証です」
何時の間にか取り出していた銀色のチェーンを、カティアはメダル……タグメダルの上の方にある穴に通し、ペンダントのようにする。
そして、カティアは寧人に、タグメダルを手渡す。