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第42話 ま、そんなに多い訳じゃないけど、冒険者を殺すような冒険者もいるってことは、頭の中に入れておいた方がいい

「これが第一掲示板」


 ヘルガは一番右側の掲示板の前に移動し、掲示板を指差す。


「パブリックハウスからの告知伝達事項が、ここに貼り出されるから、ここに来たら、これは見た方がいい……いや、見ないと駄目だね」


 次に、右から二番目の掲示板の前に移動し、ヘルガは説明する。


「これが第二掲示板。パブリックハウスが指名手配中の、賞金首の連中が告知される掲示板」


 写真と共に、名前や賞金額、様々な情報が記載された紙が、掲示板に十数枚、貼り出されている。


「パブリックハウスが指名手配? どういうこと?」


「冒険者の八掟はっていについては、教えただろ?」


 ヘルガの問いに、寧人は頷く。

 冒険者の八掟とは、冒険者に課せられる、八つの掟のことだ。


 国家に属さない自由都市であるサウダーデには、自治議会と自治政府が存在し、法律も存在する。

 冒険者の八掟は法律ではなく、あくまでもパブリックハウスという組織が、冒険者に課す掟……規則に過ぎない。


 だが、自治政府や議会以上の影響力を持つパブリックハウスの規則は、サウダーデの事実上の法律のような存在といえるのだ。

 元々はパブリックハウスを設立した者達が、冒険者達が守るべき七つの掟として始まったもので、パブリックハウスが決めた掟ではない。


 ただ、とある大事件を切っ掛けとして、パブリックハウスが一つだけ、例外的に掟を追加した。

 その結果、冒険者の八掟となったのだ。


「冒険者の八掟を破ると、パブリックハウスが指名手配して、賞金首になり、この掲示板に情報が出るんだよ」


 紙の一枚を見ると、「殺人」という文字が書かれていたので、寧人は驚きの表情を浮かべる。


「ま、そんなに多い訳じゃないけど、冒険者を殺すような冒険者もいるってことは、頭の中に入れておいた方がいい」


 深刻な面持ちで、寧人は頷く。


「第三掲示板は、仕事募集用。パブリックハウスは、冒険者向けの色々な仕事の紹介もやっていて、それ用の掲示板なんだ」


 冒険者の主な仕事は、アガルタで様々な物を手に入れることである。

 だが、冒険者は、他にも様々な仕事をする場合がある。


 強力な戦闘員である冒険者に、仕事を頼みたがる者達は多い。

 そういった者達からの仕事の依頼を、パブリックハウスが冒険者に斡旋する為に、第三掲示板を使うのだ。


 寧人が第三掲示板に掲示された紙を見ると、コンボイを警護する仕事などに関する情報が、書き込まれていた。

 危険な場所を通るコンボイや、グレートウェスタン鉄道の警護の仕事は、第三掲示板に掲示される、定番の仕事なのだと、寧人はヘルガから説明される。


「第四掲示板は、パーティメンバー募集用」


 ヘルガが言うパーティに関しては、寧人は既に説明を受けていた。

 パーティはアガルタに下りる際に組む、チームのことなのだと。


「大きなカンパニーなら、カンパニー内部でパーティメンバーを揃えられるけど、そうじゃないカンパニーもあるし、カンパニーに入りたがらない冒険者もいるからね」


 ヘルガは言い足す。


「そんな冒険者達が、パーティを組む冒険者を募るのが、この掲示板なのさ」


 ヘルガが言う通り、求める冒険者のカテゴリーや実力レベルなどを指定した、様々なメンバー募集用の紙が、第四掲示板に掲示されているのを、寧人は目にした。

 冒険者は、戦闘スタイルや能力スタイルにより、様々なカテゴリーの「職業」に分類される。


 冒険者自体も職業名なのだが、その中で更に細分化されているのだ。

 大きく分けると、前面に出て敵と戦う前衛職と、後方から遠距離攻撃や支援などを行う後衛職に分類される。


 寧人の場合は、「武仙」という、かなりレアな職業に分類される。

 武仙は前衛も後衛も務められるのだが、基本的に単独行動が多い為、どちらにも分類されていない。


「まぁ、これは寧人には縁がないとは思うんだけどね」


 そんな風にヘルガが言ったのは、夢琪が寧人に、アガルタには一人で下りるように、命じていたのを知っているからだ。

 普通の冒険者の場合、新人は上級者のパーティに参加したり、サポートを受けたりする形で、アガルタでの活動を始める場合が多い。


 だが、寧人の場合は、普通の冒険者ではない。

 寧人は強くなる為に、実戦経験を積む修業の場として、アガルタを利用するだけなのだ。


 しかも、寧人を育てる武仙幇も、普通のカンパニーではない。

 冒険者を育てる為の組織ではなく、本質的にはドラゴン……龍すら倒せる、強力な武仙を育てる為の組織なのである。


 崑崙の龍は大群で押し寄せるのだが、龍と戦える人間側の戦力は少ない。

 故に、龍と戦う為に作り出された存在である武仙は、少数どころか、場合によっては、一人で龍と戦って倒せるだけの、圧倒的な強者とならなければならない。


 集団戦闘を行わない訳ではないのだが、基本的には一人で戦うのが、武仙の戦闘スタイルなのである。

 戦いにおいて、数が重要なのは言うまでもないが、弱者が集うより強者が集った方が、より強いのが道理というもの。


 対龍戦闘術といえる、震天動地の使い手である武仙は、一人で戦っても圧倒的に強い存在となるのを目指すのだ。

 故に、新人が実戦修業を始める場合でも、一人で戦場に放り込まれるのが、基本なのである。


 ただし、実戦に放り込む前の段階で、武仙幇は新人を徹底的に鍛え上げる。

 実戦を積み重ねるアガルタで、あっさり死ぬような、生半可な鍛え方など、武仙幇はしないのだ。


 実戦に送り込む前に、普通の冒険者の新人、新人とは次元が違う力と技を身につけさせるからこそ、一人で実践の場に放り込むような真似ができるとも言える。

 普通のカンパニーとは目標や目的が、根本的に異なっているので、やり方が違うのである。




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