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第38話 高速道路のパーキングエリア風だけど、働いてる人の格好は、コスプレしてるみたいだな

 クルサードの様々な地域から、人々が流れ込んできては、様々な地域のスタイルの建物を建てたので、統一性が欠け過ぎている。

 元々は西洋といえる地域なので、中心近くの主要な建物には、西洋風の建物が多いとはいえ、その他のエリアは、東西南北……様々な文化の要素をバックボーンに持つ、様々なデザインの建物が、雑然と建ち並んでいる。


 煉瓦造りや木骨造、石造りやコンクリートの建物など、様々な建材の建物が入り混じった状態で、町並を作っている。

 そんなサウダーデの町並は、洞天福地から見下ろすと、モザイクのように見える。


 冒険者達や採掘者達が莫大な富を稼ぎ出す、サウダーデの西部でも有数の豊かな都市なのだが、人口は十万程度で安定していて、そこから増えない状態が続いている。

 自由に建物を建てて住んでいい上、豊かな富を生み出すのに、人口が一定以上に増えないのは、危険な土地だからだ。


 実は、アガルタが存在する地域は、モンスターが数多く出現するので、基本的には危険なのである。

 護衛を請け負う業者もいるとはいえ、モンスターから自分の身を守れる程度に強くなければ、サウダーデなどのアガルタがある地域には、住み難いといえる。


 アガルタを冒険する冒険者達が、強力な戦闘能力を持つのは、当たり前の話なのだが、一般的な住民も、大抵は何らかの戦闘技術を習得している。

 弱者はアガルタがあるサウダーデには住めないので、人口は簡単には増えず、安定している状況が続いている。


 そんなサウダーデの、低い雑居ビル風の建物が立ち並ぶ、無国籍感の強い外周部の手前で、ヘルガはスピードを落として立ち止まる。

 大型トレーラーや装甲車を思わせる大型トラックが、三十台ほど停車している、巨大な駐車場のようなエリアだ。


 停車している大型トラックや、その周囲で積み荷の上げ下ろし作業などに励む人々を見て、ヘルガは感想を口にする。


「朝から賑やかだね、コンボイの連中は」


 鉄道が通らない都市に、物資を届ける大型トラックの旅団……コンボイが、外縁部周囲に作られたレストエリアに停車し、運転手達が作業したり、談笑したりしているのだ。

 レストエリアは、日本で言うところの、パーキングエリアに似た施設で、コンボイ向けの様々なサービスを提供している。


 装甲車風の大型トラックがあるのは、モンスターや盗賊対策の為だ。

 高い戦闘力を持つ冒険者達が、モンスターや盗賊の襲撃から、旅団を守る為、大型トラックに乗り、コンボイに同行するのである。


 コンボイを構成する大型トラックは、交通の邪魔になり過ぎるので、サウダーデには入れない。

 それ故、サウダーデの東西南北に、それぞれ一か所ずつ、コンボイ向けのレストエリアが作られている。


 レストエリアにおいて、大型トラックから小型トラックに荷物を移す。

 そして、小型トラックでサウダーデの集荷センターに荷物を運ぶのだ。


 ちなみに、大型トラックの牽引車は、フェルサ機関を搭載している。

 大型シリンダーや、煙を輩出する煙突が装備されているので、蒸気機関車と似た印象の見た目なのである。


 コンボイやレストエリアに関する話は、サウダーデに関する話として、寧人は武仙幇の皆から話を聞いて、多少は知っていた。


(高速道路のパーキングエリア風だけど、働いてる人の格好は、コスプレしてるみたいだな)


 大型トレーラーの周囲で作業したり、装甲車の近くで武器の手入れをしたりしている人々を眺めながら、寧人は呟く。

 人々の多くが、ゲームやアニのキャラクターのコスプレでもしているかのような格好をしているように、寧人には見えたのだ。


 黒や白のローブを身に纏っているのは、魔術を得意とする者達。

 黒いローブが魔術を得意とする魔術師、白いローブは魔術の一種である、聖術を得意とする聖術士の冒険者達である。


 カーゴパンツやジーンズ風のパンツと、フィールドジャケットを組み合わせた、標準戦闘服スタンダードと呼ばれるスタイルの戦闘服姿の者達も多い。

 標準戦闘服姿の者達は、奥拉戦技オーラコンバットという種類の武術を得意とする、冒険者達なのだ。


 奥拉戦技とは、氣と同様の生体エネルギーである奥拉オーラを使う、戦闘技術……武術であり、様々な流派が存在する。

 武術なので、奥拉戦技の使い手の冒険者は、武術家となる。


 武術家には剣士や槍使いなど、様々な武器の使い手達もいるし、格闘家など……徒手空拳で戦う者達もいる。

 魔術師達や聖術士達……武術家達が、それぞれ様々な道具や武器を携帯しているのだから、日本人の寧人の感覚で言えば、コスプレに見えてしまうのは、当たり前といえる。


 だが、すぐ近くにいる、メイド服姿のヘルガを見て、寧人は気付く。

 メイド服姿のヘルガや、功夫服姿の自分も、日本でならコスプレをしているようにしか、見えないだろうことに。


(功夫服着てる俺も、人のこと言えないや。この手の格好が、当たり前の世界なんだよ、ここは……)


 自分が日本ではなく、異世界に来ていることを、改めて自覚した寧人に、懐中時計で時間を確認してから、ヘルガが問いかける。


「屋根の上を走って行く方が速いんだけど、初めてサウダーデに来たのに、それじゃ味気ないだろうから、サウダーデの街の中を行こうか?」


 ヘルガは駐車場の近くに停車している、ボンネットバス風の乗り物を指差しつつ、言葉を続ける。


「ちょうど、コンカーも停車中だし」


 コンカーというのは、サウダーデの道路を走る、路面鉄道である。

 フェルサ機関が動力なので、車体の前の部分にシリンダーがあるので、寧人からすると、ボンネットバス風に見えてしまうのだが。


 サウダーデの重要拠点を繋ぐコンカーは、利用料は無料であり、サウダーデ内での主力といえる交通機関となっている。

 最初の頃、コンテナを流用して車体を作ったとか、コーンを輸送するトロッコを流用したとか、名前の由来に関する説は複数あり、はっきりしていない。


 コンカーに関する、そういった基本的な知識は、寧人はヘルガ達に教えられている。




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