クルサードとは本来、世界最大の大陸の名を示す言葉であった。
今でも、大陸名を示してはいるのだが、異世界の存在が確認されたことを切っ掛けに、クルサードが存在する世界自体の名称が、クルサードと定義されたのだ。
三百年以上前、クルサードは異世界の一つから、侵攻を受けた。
崑崙と呼ばれる異世界から送り込まれた、ドラゴンや龍と呼ばれる、強力な戦闘能力を持つ生物達の軍勢に、クルサードは滅ぼされかけた。
だが、事前に得られた侵攻に関する情報を元に、様々な術の使い手達が、あらゆる手段を尽くした結果、クルサードはドラゴン達に対抗できる戦力を揃え、ドラゴン……龍の軍勢を迎え撃つことができた。
今では最終戦争と呼ばれている激戦の結果、戦力の殆どを失う大きな犠牲を払いながらも、クルサードは崑崙の軍勢の撃退に、成功したのである。
最終戦争以前の体制の殆どは壊滅、クルサードの世界は刷新され、新暦の時代を迎えた。
その後は平和で豊かな時代が、クルサードでは長きに渡り続いている。
六十数年前、そんなクルサードの西部にある、最大の迷宮都市……サウダーデに、別の世界から一人の若者がやってきた。
その名は神志南弾、この世界からすれば異世界の人間……日本人である。
最終戦争で使用された、
陰陽寶珠を入手した弾は、その使い方を習得する為、陰陽寶珠に標準装備されている歸來符籙を使って、サウダーデ郊外にある洞天福地に、転移してきたのだ。
洞天福地は最終戦争に、多大な貢献をした武仙幫の本拠地である。
弾は最終戦争の生き残りであり、武仙幫を率いる仙女にして武仙の、梁夢琪の弟子となった。
陰陽寶珠は様々な言語を操る能力を、所有者に与えてくれる。
それ故、異世界であっても、弾は言語に困ることは殆どなく、夢琪だけでなく、その仲間である仙女の指導を受けることができた。
仙術と武術を融合させた、武仙の為の戦闘技術……震天動地の指導を、弾は夢琪達に受けた。
そして、洞天福地で指導を受けるだけでなく、サウダーデにある巨大地下迷宮……アガルタにおいて、数多くの実戦を重ねたのだ。
様々な物が発見されるアガルタには、ガーディアンと呼ばれる、強力なモンスターのような存在が、出現し続けている。
ガーディアンはアガルタを侵入者から守る為に、アガルタにより作り出され続けている存在である。
最終戦争後、危険なアガルタの中を冒険し、様々な貴重な物を手に入れる者達が増加した。
そういった者達の職業は、冒険者と定義され、アガルタの周囲には冒険者を中心とした人々が住み着き、迷宮都市と呼ばれるようになった。
サウダーデはクルサード西部、最大の迷宮都市であり、最大級のアガルタを持つ迷宮都市の一つである。
弾は冒険者としても活動し、数多の強力なガーディアンが出現するアガルタにおいて、数多くの命がけの実戦を経験し続けたのだ。
夢琪などの仙女達による、厳しくも優れた指導と、アガルタで積んだ数多の実戦経験により、いつしか弾は最強の冒険者と呼ばれる程の存在となった。
夢琪達……武仙幫の仙女達も実力を認め、弾は洞天福地での修行を終えた。
仙女に匹敵するとも言われた、高度な実力を、数年の修行で身につけた弾は、洞天福地を……クルサードを去って日本に帰り、かって敵わなかった宿敵を倒した。
そして、表向きは古道具屋として働きながら、裏ではスーパーヒーローとして活躍する生活を、昭和から平成に渡り続けることになった。
戦後の日本を代表する、日本最強のスーパーヒーロー……インヤンマスクとして大活躍した弾も、歳には勝てず、その力は衰えを見せた。
故に、二千年代に入った頃、スーパーヒーローとしての現役を、弾は一度は退いたのだ。
ところが、スーパーヴィラン……ベルウェザーXが引き起こした超人大戦は、インヤンマスク……弾を、超人同士の激戦の最前線へと、引き摺り戻してしまった。
そして、度重なる激戦の
陰陽寶珠を受け継いだ、弾の孫の神志南寧人が、洞天福地に送られて来たのは、その約十年後、二千二十六年の七月四日のことである……。
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