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第25話 三百年以上前、クルサードは異世界の一つから、侵攻を受けた

 クルサードとは本来、世界最大の大陸の名を示す言葉であった。

 今でも、大陸名を示してはいるのだが、異世界の存在が確認されたことを切っ掛けに、クルサードが存在する世界自体の名称が、クルサードと定義されたのだ。


 三百年以上前、クルサードは異世界の一つから、侵攻を受けた。

 崑崙と呼ばれる異世界から送り込まれた、ドラゴンや龍と呼ばれる、強力な戦闘能力を持つ生物達の軍勢に、クルサードは滅ぼされかけた。


 だが、事前に得られた侵攻に関する情報を元に、様々な術の使い手達が、あらゆる手段を尽くした結果、クルサードはドラゴン達に対抗できる戦力を揃え、ドラゴン……龍の軍勢を迎え撃つことができた。

 今では最終戦争と呼ばれている激戦の結果、戦力の殆どを失う大きな犠牲を払いながらも、クルサードは崑崙の軍勢の撃退に、成功したのである。


 最終戦争以前の体制の殆どは壊滅、クルサードの世界は刷新され、新暦の時代を迎えた。

 その後は平和で豊かな時代が、クルサードでは長きに渡り続いている。


 六十数年前、そんなクルサードの西部にある、最大の迷宮都市……サウダーデに、別の世界から一人の若者がやってきた。

 その名は神志南弾、この世界からすれば異世界の人間……日本人である。


 最終戦争で使用された、対龍戦用神器級寶貝たいりゅうせんようじんききゅうほうばいである陰陽寶珠が、どういう訳だか、異世界の日本に流出していた。

 陰陽寶珠を入手した弾は、その使い方を習得する為、陰陽寶珠に標準装備されている歸來符籙を使って、サウダーデ郊外にある洞天福地に、転移してきたのだ。


 洞天福地は最終戦争に、多大な貢献をした武仙幫の本拠地である。

 弾は最終戦争の生き残りであり、武仙幫を率いる仙女にして武仙の、梁夢琪の弟子となった。


 陰陽寶珠は様々な言語を操る能力を、所有者に与えてくれる。

 それ故、異世界であっても、弾は言語に困ることは殆どなく、夢琪だけでなく、その仲間である仙女の指導を受けることができた。


 仙術と武術を融合させた、武仙の為の戦闘技術……震天動地の指導を、弾は夢琪達に受けた。

 そして、洞天福地で指導を受けるだけでなく、サウダーデにある巨大地下迷宮……アガルタにおいて、数多くの実戦を重ねたのだ。


 様々な物が発見されるアガルタには、ガーディアンと呼ばれる、強力なモンスターのような存在が、出現し続けている。

 ガーディアンはアガルタを侵入者から守る為に、アガルタにより作り出され続けている存在である。


 最終戦争後、危険なアガルタの中を冒険し、様々な貴重な物を手に入れる者達が増加した。

 そういった者達の職業は、冒険者と定義され、アガルタの周囲には冒険者を中心とした人々が住み着き、迷宮都市と呼ばれるようになった。


 サウダーデはクルサード西部、最大の迷宮都市であり、最大級のアガルタを持つ迷宮都市の一つである。

 弾は冒険者としても活動し、数多の強力なガーディアンが出現するアガルタにおいて、数多くの命がけの実戦を経験し続けたのだ。


 夢琪などの仙女達による、厳しくも優れた指導と、アガルタで積んだ数多の実戦経験により、いつしか弾は最強の冒険者と呼ばれる程の存在となった。

 夢琪達……武仙幫の仙女達も実力を認め、弾は洞天福地での修行を終えた。


 仙女に匹敵するとも言われた、高度な実力を、数年の修行で身につけた弾は、洞天福地を……クルサードを去って日本に帰り、かって敵わなかった宿敵を倒した。

 そして、表向きは古道具屋として働きながら、裏ではスーパーヒーローとして活躍する生活を、昭和から平成に渡り続けることになった。


 戦後の日本を代表する、日本最強のスーパーヒーロー……インヤンマスクとして大活躍した弾も、歳には勝てず、その力は衰えを見せた。

 故に、二千年代に入った頃、スーパーヒーローとしての現役を、弾は一度は退いたのだ。


 ところが、スーパーヴィラン……ベルウェザーXが引き起こした超人大戦は、インヤンマスク……弾を、超人同士の激戦の最前線へと、引き摺り戻してしまった。

 そして、度重なる激戦のはて、二千十六年の終わり頃、弾はベルウェザーXと相打ちになり、この世を去った。


 陰陽寶珠を受け継いだ、弾の孫の神志南寧人が、洞天福地に送られて来たのは、その約十年後、二千二十六年の七月四日のことである……。



   ♢     ♢     ♢



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