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第24話 ……最後に、一つ……訊いておくことがある

「まぁ、でも……呪いのことなんて、今はどうでもいいや。もっと重要なことがあるからな」


 寧人は夢琪に、真顔で問いかける。


「夢琪さん、さっき……俺が爺ちゃん並に氣級を高めなければ、元の世界に帰れないし、ドラゴンにも勝てない……みたいなこと、言ったよね?」


「言ったが……それが、どうかしたかい?」


「爺ちゃんみたいに、ここで夢琪さんに修行をつけて貰えば、俺は爺ちゃんみたいに強くなれるのか?」


 寧人は短く、付け加える。


「ドラゴンを倒せるくらいに、強くなれるのか?」


「当然だ!」


 力強い口調で、夢琪は断言する。


「震天動地や陰陽寶珠は本来、仙人の為に開発されたもの。仙人となったお前の方が、弾よりも震天動地や陰陽寶珠との相性がいい筈だから、お前なら弾よりも強くなれる可能性が高い!」


「俺が爺ちゃんよりも、強くなれる……」


 信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながら、寧人は呟く。


「こう見えても、あたしは最終戦争を戦い抜いた、最強の武仙! 仙人であるお前さんが、あたしの指導を受け、震天動地を習得すれば、人であった弾を超える武仙となり、龍共を撃退できるようになるに決まっている!」


 夢琪の言葉を聞いた寧人は、意を決して、深々と夢琪に頭を下げる。


「お願いします! 俺を鍛えて下さい! 俺の家族や友達……俺達の世界の人々を、ドラゴンから守り通せる程に、俺は強くなりたいんです!」


 強い口調で、寧人は言い足す。


「俺は……爺ちゃんみたいな、スーパーヒーローになりたいんだ!」


「構わないよ、あたし達……武仙幫は、崑崙の龍共の脅威から、人間を守る為の組織なんだ! 他の世界の者であろうが、龍共と戦う為の力が欲しいというなら、協力は惜しまない!」


 スーパーヒーローという言葉に関しては、弾に聞いたことがあったので、夢琪は意味を知っていた。


「有難うございます!」


 夢琪の返事を聞いた寧人は、嬉しそうに礼を口にしする。

 だが、そんな寧人の頭に、一つの疑問が浮かぶ。


 その疑問を口にする為、寧人は顔を上げて、夢琪に訊ねる。


「ところで、今の……コンロンというのは、何のことなんですか?」


 寧人は質問を、補足する。


「実は、そんな感じの言葉を、確か俺が殺される直前、龍人が言っていた気がするんです」


 陰陽寶珠は、様々な言語を操る能力を、所有者に与えるのだが、その翻訳能力は完全ではない。

 所有者が普段使っていなかったり、知らなかった言葉に関しては、上手く翻訳できないのだ。


 あの時、謎の女が口にした「崑崙」という言葉が、それに該当する。


「この世界にも、昔……そんな名の仙境があったらしいんだが……龍共を作り出し、他の世界に送り込んでいるのが、崑崙という名の異世界なのさ」


 崑崙について、夢琪は説明する。


「他の様々な世界に龍共を送り込み、その世界が崑崙が否定する方向に進化をしている場合、龍共に攻撃させて滅ぼす……という真似を、崑崙は長きに渡り、続けているらしい」


 夢琪が語る情報は、最終戦争当時に捕獲したドラゴンメイド……龍人を尋問し、得られた情報だった。


「あたし達の世界も、お前さん達の世界も、崑崙が否定する方向に、進化していたってことなんだろう」


「身勝手にも程がある連中だな、その崑崙って奴は」


 不愉快そうに、寧人は言葉を吐き捨てる。


「……ところで、お前さん達の世界にドラゴンが現れてから、どれくらいの月日が過ぎている?」


「三カ月くらい……だったかな」


 四月の初頭に、ドラゴンはノルウェー海で初めて確認され、寧人がドラゴンとドラゴンメイドと交戦し、殺されたのは七月四日。

 つまり、ほぼ三カ月が過ぎていたことになる。


「……だとしたら、修行に使えるのは、最長で九カ月弱といったところか」


 深刻な表情で、夢琪は続ける。


「これまで龍共に襲われた世界の情報が、この世界には色々と入ってきているんだが、大抵の世界は、一年が過ぎた直後に追い込まれている」


 ドラゴンは様々な世界に現れ、襲撃している。

 その多くは滅ぼされたか、それに近い状態まで追い込まれてしまっていた。


 過去に尋問したドラゴンメイドや、他の世界から流れ着いた異世界人達から、そういった情報を夢琪達は得たのだ。


「最初に世界に現れる龍共は、ただの先遣隊だ。先遣隊は本気で世界を滅ぼす気はない、ある程度まで勢力圏を広げつつ、敵戦力を分析するのが役目だからね」


「あれだけの戦力が、ただの先遣隊……」


 驚きの表情を浮かべ、寧人は呟く。


「勢力圏を確保し、敵戦力の分析を終えた一年後、龍共は多数の神龍を出現させられる本隊を呼び寄せ、短期間で本格的な世界の殲滅を行い、その上で自分達に都合がいいように、世界を創り直してしまうのさ」


 夢琪は言い足す。


「だから、可能な限り……お前を早く元の世界に帰してやりたいんだが、神龍を倒せる実力に達しない限り、元の世界に帰すことはできない。死ぬ為に帰るようなものだからね」


 寧人としても、早く元の世界に帰りたいのだが、最強のドラゴン……神龍を倒せる実力がないまま戻っても、無駄死にするだけなのは分かっていた。

 故に、寧人は夢琪の言葉に、素直に頷く。


 修行に使える最長期間が九カ月弱である理由も、寧人は理解する。

 龍の軍勢の出現から一年が過ぎると、すぐに本隊による殲滅が始まるので、その前に元の世界に帰れなければ、寧人は世界を救えないのだ。


「修行には最短でも、半年はかかるだろう。元の世界のことは気になるだろうが、焦っちゃいけないよ」


 夢琪の言葉に、寧人は威勢よく言葉を返す。


「はい!」


「……それじゃあ、これからあたしとお前さんは、師弟の関係になる。あたしのことは、そうだね……」


 少しだけ思案してから、夢琪は言い足す。


「梁師とでも呼びな」


「分かりました、梁師」


 ヘルガが同じ呼び方をしていたのを、寧人は思い出す。


「この家は、寧人……お前さんが好きに使っていい」


 そうするつもりで、夢琪は寧人を、弾が住んでいた家に連れてきたのだ。


「弾が修業や学習の為に使った、道具や資料が色々とあるから、これからのお前には、色々と役立つ筈だ」


 夢琪と弾に感謝しつつ、寧人は頷く。


「……最後に、一つ……訊いておくことがある」


「改まって、何ですか?」


「……修行は厳しく、命の危険もあるし、力を得て元の世界に帰っても、お前さんは命懸けの戦いの日々を、続けることになるだろう」


「分かってますよ、そんなこと」


「お前さんには、元の世界に帰らずに、クルサードで命の危険を冒さず、生きて行く道もある。それでも、修行と戦いの道を選ぶのかい?」


(そんな道も、選ぼうと思えば選べるんだな)


 考えてもみなかった選択肢を提示され、寧人は一応、その選択肢を選んだ場合、自分がどうなるかを考えてみる。

 その上で、寧人は夢琪に答を返す。


「……殺された時、俺は物凄く後悔したんです。ちゃんと修行していたら、スーパーヒーローになって、もっと多くの人達を守れたのかもしれないって」


 死んだ時に覚えた後悔は、寧人の心の中から、決して消えはしない。

 甦る後悔の念のせいで、寧人は辛そうに顔を顰める。


「この世界で……安全に生きる道を選べば、この先……俺はずっと後悔し続けることになると思います! そんな生き方をする気は、俺にはありません!」


 強い口調で、寧人は続ける。


「ドラゴン共を倒し、家族や友達を……もっと多くの人達を助けなければ、あの時と同じ後悔をすることになる! だから、俺が進むべき道は、修行と戦いの道に決まっています!」


 更に、寧人は短く付け加える。


「それに、負けっ放しのまま、逃げるってのも……しょうに合わないし」


 寧人の返答を聞いて、夢琪は満足気な、それでいてどことなく懐かし気な笑みを浮かべる。


「……だったら、遠慮はしないよ。崑崙の龍共など圧倒できる程に、お前を徹底的に鍛え上げてやるから、覚悟しな!」


 夢琪の言葉に、寧人は威勢よく答える。


「望む所です!」


 こうして、寧人は夢琪の弟子となり、武仙幫に所属する、洞天福地の住民となった。

 クルサード新暦三百三年、七月四日のことである。



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