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第23話 仙人となり、人を超えた力を得た者が、その代償に身に受ける呪いだよ

「俺のより小さいし、俺のと違って胸元に現れるんだ」


 夢琪の胸元の陰陽寶珠を観察しつつ、寧人は続ける。


「性能とかも違うのかな?」


「お前さんや弾の陰陽寶珠は零式れいしき、あたしのは壹式いちしきと呼ばれている。試作品の零式をベースに開発され……量産されたのが壹式なんだが、殆ど性能に差はないから、気にする必要はない」


「試作品だったんだ、俺と爺ちゃんの奴……」


 寧人の言葉に、夢琪は頷く。


「陰陽寶珠を身体に取り込んだ、百八人の武仙を中心とした、神龍を倒し得る戦力により、最終戦争と呼ばれる龍の軍勢相手の戦争に、この世界は何とか勝利し、生き残ることができたんだ」


 陰陽寶珠に右手の指先で触れつつ、夢琪は懐かし気に続ける。


「あたしは最終戦争の生き残りさ。最終戦争には、百八人の武仙が参戦したんだが、生き残ったのは数人の仙女に過ぎない」


「最終戦争って、三百年前だよね? その生き残りってことは……」


 寧人は仰天し、目を丸くする。

 夢琪本人から、不老不死と聞いていたし、祖父の弾の師匠なのだから、見た目通りの年齢でないのは、既に寧人にも分かっていた。


 その上、三百年前の最終戦争の生き残りだと、夢琪が言い出したので、寧人は更に驚いたのだ。

 夢琪の発言が事実なら、夢琪の年齢は三百才を超えていることになってしまうので。


「さっきも言った通り、仙女や仙人は不老不死でね、老化しないんだよ。不死身ではないから、戦いで殺されることはあるけどね」


 だからこそ、百八人いた仙人や仙女の殆どは、最終戦争で死んでしまったのだ。


「え? じゃあ、俺が本当に仙人になったのなら、俺も不老不死になってるの?」


 寧人に問われた夢琪は、当然だと言わんばかりに頷く。


「氣の力が強くなったり、不老不死になったり、仙人になるといいことだらけだね」


 夢琪は複雑な表情を浮かべ、言葉を返す。


「……基本的には、いいことの方が多いんだが、そればかりでもないんだ」


「何か、問題になるような悪いことも?」


「そうだね、色々あるんだが、一番問題になるのは、超人詛咒ちょうじんそじゅだろうね」


「何ですか、それ?」


「仙人となり、人を超えた力を得た者が、その代償に身に受ける呪いだよ」


 げんなりとした表情を、寧人は浮かべる。

 呪われると言われたも同然なのだから、いい気分がする訳がないのだ。


「実は仙人にならずとも、陰陽寶珠を受け継いだ者も、人を超えた力を得るので、軽めの超人詛咒を身に受けることになる」


 夢琪は続けて、寧人に問いかける。


「お前さんも陰陽寶珠と共に、超人詛咒を受け継いだんじゃないのかい?」


 思い当たる節が、寧人にはあった。

 生前の弾は、度重なる浮気問題を引き起こしては、その理由を子供時代の寧人に語っていたのだ。


「婆さんには悪いと思っちゃいるんだが、陰陽寶珠を受け継いだせいで、呪われちまってな、女の人に誘われると断れんのだよ」


 当時の寧人には、弾の話の意味は、よく分かってはいなかった。

 でも、初めてガールフレンドができた頃、弾の話が事実であるのを、寧人は身をもって思い知ったのだ。


 女性からの性的なアプローチを、決して断れないことに、寧人は気付いてしまったのである。

 寧人は真面目な人間であり、浮気は大嫌いなのだが、何故か誘いを断れず、交際相手と揉める経験を何度も繰り返した。


 寧人が浮気を繰り返した話は、母親の耳にも届いてしまった。

 そして、寧人は呆れ顔の母に聞かされたのだ、弾が同じようなことを繰り返し、その理由が陰陽寶珠による呪いのせいであることを。


 母の話を聞いた寧人は、子供の頃に弾から聞いた話を思い出した。

 そして、弾の話が事実であるのを知ったのである。


「……別に、浮気したくてしてる訳じゃないんだけどな。女に誘われると、断れない呪いを、爺ちゃんから受け継いじまったせいなんだし……」


 百虹架と清音に、浮気に関して責められた時、そんな風に寧人は愚痴っていた。

 ふざけた誤魔化しの言葉として、受け取られてしまっていたのだが、愚痴の内容は事実だったのだ。


 実は、初めてのガールフレンドができる前にも、寧人は年上の女性から、何度も誘いを受けていた。

 そういった時、よくはないのではないかと思いながら、断れずに受け入れる経験をしていた。


 ただ、交際相手がいなかった頃は、女性に対する好奇心のせいで、断れなかったのだろうと思い込み、弾の話を思い出さなかったのだ。

 無論、基本は真面目だったので、行為をしてしまった後に、酷い罪悪感に苛まれたりはしていたのだが。


「思い当たる節が、あるようだね」


 寧人の渋い表情を見て、夢琪は察する。


「陰陽寶珠には、それぞれ特有の超人詛咒がある。お前さんの超人詛咒も、弾と同じ……女性の誘いを断れないという奴なんだろう?」


 夢琪の問いに、寧人は頷く。


「陰陽寶珠の所有者であった人が、後に仙人になった記録は過去にはないので、断定はできないんだが……」


 前置きをした上で、夢琪は続ける。


「人よりも仙人の方が、強力な超人詛咒を身に受けるから、仙人になったお前さんは、これまで身に受けてた超人詛咒が、より酷くなる可能性が高いのではないかな」


「……その呪いのせいで、俺……結構酷い目に遭ってきたんだけど、呪いがより酷くなるって、どんな風に?」


「それは、まだ分からないね」


 慧眼鏡を、夢琪は指差す。


「もう暫くすれば、この様々な情報を見通す寶貝……慧眼鏡で確認できるようになるかもしれないんだが」


 夢琪の返答を聞い寧人は、残念そうに溜息を吐く。




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