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第22話 そうか、お前さんは龍人に殺されたんだね

「驚いてちゃいけない。お前さんだって、そのくらいまで氣級を高めなければ、元の世界に戻れないし、龍……ドラゴンに勝てはしないよ」


 突如、夢琪がドラゴンの話題を持ち出したので、寧人は戸惑う。


「さっきの話だと、お前さん達の世界は、既にドラゴンに襲われているようだね?」


 夢琪の問いに、寧人は頷く。


「そのドラゴン達には、普通の武器による攻撃が殆ど通じず、氣や魔力、聖なる力などによる攻撃しか、まともには通用しなかったりするんじゃないのかい?」


「そうですけど……何で知ってるんです?」


 ヘルガ達の発言から、洞天福地にいる者達が、ドラゴンを知っているのは明らか。

 でも、寧人が知るドラゴンと、洞天福地にいる者達が知るドラゴンが、同じではない可能性もある。


 だが、夢琪の発言は、寧人が知るドラゴンと、洞天福地にいる者達が知るドラゴンが、同じである可能性が高いことを示していた。

 少なくとも、寧人はそうだと感じたのだ。


「昔、この世界……今はクルサードと呼ばれている世界も、同じドラゴン連中に襲われたからさ」


「この世界も、あのドラゴン連中に?」


 夢琪は頷き、言葉を返す。


「三百年程前に、ドラゴンの大群の襲撃を受け、この世界は滅ぼされかけたんだ。今は最終戦争と呼ばれてる戦いに勝利し、何とか撃退に成功したので、こうしてクルサードは、栄え続けているんだが」


「撃退に成功したって、一体どうやって?」


 自分達の世界が、ドラゴンに制圧され続けているのを知っている寧人は、ドラゴンを撃退する方法に、強い興味を惹かれたのだ。


「この世界には、魔力や聖力せいりょく、氣の使い手が、元から多かったんでね、普通の龍であれば、使い手の数を揃えて対処できたんだ」


 クルサードでは一般的に、龍ではなくドラゴンという言葉が使われているのだが、龍という言葉の方が、夢琪には慣れている。

 寧人がドラゴンという言葉を使ったので、それに合わせて夢琪はドラゴンという言葉を使っていたのだが、すぐに使い慣れた龍という言葉を、使い始めてしまったのだ。


 話の流れで、夢琪が言う龍とドラゴンが同じであるのは、寧人には理解できていた。


「でも、龍の中でも最強といえる神龍しんりゅうには、半端な戦力を数揃えても、太刀打ちできないことが分かったんだ」


「神龍って?」


「龍の軍勢には、龍の軍門に下り、龍の力を得た人間……龍人りゅうじんという連中がいる。この龍人を取り込んだ龍が、神龍なのさ」


(龍の力を得た人間?)


 寧人の頭の中に、自分を殺した謎の女の存在が浮かんで来る。


(真の奴は、確かドラゴンメイドとか呼んでいたな……)


「神龍となると、龍の戦闘力は急上昇し、一時的にではあるんだが、普通の龍の中では最強といえる甲龍こうりゅうを、遥かに超える強力な力を得るんだ」


「……俺はドラゴンと戦っていた時、ドラゴンメイドとか呼ばれていた、龍と人が混ざったみたいな奴に、殺されたんだけど……」


「ドラゴンメイドと龍人は、同じものさ。あたし達は龍人と呼ぶんだが、クルサードでは普通、ドラゴンメイドと呼ばれているよ」


 答を返した後、夢琪は言い足す。


「そうか、お前さんは龍人に殺されたんだね」


「俺達の世界では、コルベット級と呼ばれてる、小さなドラゴンと戦って、何とかダメージを与えた後、ドラゴンメイド……龍人にやられたんだ」


「目立たない小型の龍と龍人が、密かに人の陣地に侵入し、そこで神龍と化し、強力な戦力で奇襲を仕掛けるというのは、龍の軍勢共が使う戦術の一つなのさ」


(成程、あの時のドラゴンとドラゴンメイドは、目立たないように東京まで移動して、東京で神龍になって、破壊するつもりだったんだな)


 寧人の推測は、正しかった。

 あの時、目立たずに雲に隠れて移動し易い、コルベット級のドラゴンを、ドラゴンメイドと共に東京に向かわせ、東京で神龍と化した上で、東京を破壊するというのが、ドラゴン側の目論見だったのだ。


「実は……最終戦争が始まる十二年前、龍共に滅ぼされた異世界から、この世界に逃れてきた人々がいてね、彼等からの情報により、当時の戦力では、神龍を倒せないことは、最終戦争の前から分かっていたんだ」


 夢琪は話を続ける。


「故に、龍共の襲撃に備え、この世界の様々な術者達は、総力を挙げて、半端ではない戦力……神龍を倒し得る戦力の開発を目指したのさ」


 壁にかけられている地図に、夢琪は目をやる。

 十字型の巨大大陸……クルサードの地図であり、夢琪が見たのは、その東側だ。


「今じゃ消え去ってしまったが、昔……クルサードの東部地域にあった、あたし達の国……扶桑ふそうでは、武術家と仙人達の協力により、武術と仙術を統合した、究極の戦闘技術……震天動地しんてんどうちが開発された」


 自分の胸元辺りを、夢琪は指差す。


「震天動地の使い手こそが武仙であり、武仙の為に作られた、対龍戦用神器級寶貝たいりゅうせんようじんききゅうほうばいが陰陽寶珠なんだ」


 すると、夢琪の胸元辺りから、小さな球体が浮き上がるように迫り出す。

 その見た目は、陰陽寶珠とよく似ていた。


「夢琪さんも、陰陽寶珠を?」


 問いかけながら、すぐに寧人は、夢琪の陰陽寶珠が、自分のとは大きさが異なるのに気付く。

 夢琪の陰陽寶珠は、直径が寧人の物の半分程しかないのだ。


 無論、胸元に出現する点も、臍の辺りに出現する寧人の物とは異なる。





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