「驚いてちゃいけない。お前さんだって、そのくらいまで氣級を高めなければ、元の世界に戻れないし、龍……ドラゴンに勝てはしないよ」
突如、夢琪がドラゴンの話題を持ち出したので、寧人は戸惑う。
「さっきの話だと、お前さん達の世界は、既にドラゴンに襲われているようだね?」
夢琪の問いに、寧人は頷く。
「そのドラゴン達には、普通の武器による攻撃が殆ど通じず、氣や魔力、聖なる力などによる攻撃しか、まともには通用しなかったりするんじゃないのかい?」
「そうですけど……何で知ってるんです?」
ヘルガ達の発言から、洞天福地にいる者達が、ドラゴンを知っているのは明らか。
でも、寧人が知るドラゴンと、洞天福地にいる者達が知るドラゴンが、同じではない可能性もある。
だが、夢琪の発言は、寧人が知るドラゴンと、洞天福地にいる者達が知るドラゴンが、同じである可能性が高いことを示していた。
少なくとも、寧人はそうだと感じたのだ。
「昔、この世界……今はクルサードと呼ばれている世界も、同じドラゴン連中に襲われたからさ」
「この世界も、あのドラゴン連中に?」
夢琪は頷き、言葉を返す。
「三百年程前に、ドラゴンの大群の襲撃を受け、この世界は滅ぼされかけたんだ。今は最終戦争と呼ばれてる戦いに勝利し、何とか撃退に成功したので、こうしてクルサードは、栄え続けているんだが」
「撃退に成功したって、一体どうやって?」
自分達の世界が、ドラゴンに制圧され続けているのを知っている寧人は、ドラゴンを撃退する方法に、強い興味を惹かれたのだ。
「この世界には、魔力や
クルサードでは一般的に、龍ではなくドラゴンという言葉が使われているのだが、龍という言葉の方が、夢琪には慣れている。
寧人がドラゴンという言葉を使ったので、それに合わせて夢琪はドラゴンという言葉を使っていたのだが、すぐに使い慣れた龍という言葉を、使い始めてしまったのだ。
話の流れで、夢琪が言う龍とドラゴンが同じであるのは、寧人には理解できていた。
「でも、龍の中でも最強といえる
「神龍って?」
「龍の軍勢には、龍の軍門に下り、龍の力を得た人間……
(龍の力を得た人間?)
寧人の頭の中に、自分を殺した謎の女の存在が浮かんで来る。
(真の奴は、確かドラゴンメイドとか呼んでいたな……)
「神龍となると、龍の戦闘力は急上昇し、一時的にではあるんだが、普通の龍の中では最強といえる
「……俺はドラゴンと戦っていた時、ドラゴンメイドとか呼ばれていた、龍と人が混ざったみたいな奴に、殺されたんだけど……」
「ドラゴンメイドと龍人は、同じものさ。あたし達は龍人と呼ぶんだが、クルサードでは普通、ドラゴンメイドと呼ばれているよ」
答を返した後、夢琪は言い足す。
「そうか、お前さんは龍人に殺されたんだね」
「俺達の世界では、コルベット級と呼ばれてる、小さなドラゴンと戦って、何とかダメージを与えた後、ドラゴンメイド……龍人にやられたんだ」
「目立たない小型の龍と龍人が、密かに人の陣地に侵入し、そこで神龍と化し、強力な戦力で奇襲を仕掛けるというのは、龍の軍勢共が使う戦術の一つなのさ」
(成程、あの時のドラゴンとドラゴンメイドは、目立たないように東京まで移動して、東京で神龍になって、破壊するつもりだったんだな)
寧人の推測は、正しかった。
あの時、目立たずに雲に隠れて移動し易い、コルベット級のドラゴンを、ドラゴンメイドと共に東京に向かわせ、東京で神龍と化した上で、東京を破壊するというのが、ドラゴン側の目論見だったのだ。
「実は……最終戦争が始まる十二年前、龍共に滅ぼされた異世界から、この世界に逃れてきた人々がいてね、彼等からの情報により、当時の戦力では、神龍を倒せないことは、最終戦争の前から分かっていたんだ」
夢琪は話を続ける。
「故に、龍共の襲撃に備え、この世界の様々な術者達は、総力を挙げて、半端ではない戦力……神龍を倒し得る戦力の開発を目指したのさ」
壁にかけられている地図に、夢琪は目をやる。
十字型の巨大大陸……クルサードの地図であり、夢琪が見たのは、その東側だ。
「今じゃ消え去ってしまったが、昔……クルサードの東部地域にあった、あたし達の国……
自分の胸元辺りを、夢琪は指差す。
「震天動地の使い手こそが武仙であり、武仙の為に作られた、
すると、夢琪の胸元辺りから、小さな球体が浮き上がるように迫り出す。
その見た目は、陰陽寶珠とよく似ていた。
「夢琪さんも、陰陽寶珠を?」
問いかけながら、すぐに寧人は、夢琪の陰陽寶珠が、自分のとは大きさが異なるのに気付く。
夢琪の陰陽寶珠は、直径が寧人の物の半分程しかないのだ。
無論、胸元に出現する点も、臍の辺りに出現する寧人の物とは異なる。