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第11話 先に逝って……あの世で先生から、叱られるんだな

 真は寧人より少し年上なのだが、まだ子供であった頃に超常の力を得て、スーパーヒーローとなった。

 インヤンマスクを尊敬していた真は、インヤンマスクの弟子を自称していた程であり、コスチュームが似ているのも、似せたからなのだ。


 インヤンマスク……つまりは寧人の祖父も、活動エリアが近い……住んでいる場所が近い、後輩のスーパーヒーローである真を、何かと可愛がっていた。

 関わったのは、祖父が死ぬ前の一年程であるが、事実上の弟子とでも言うべき関係だった。


 それ故、真と寧人は、互いに顔見知りといえる存在であったのだ。

 祖父の指導を受け、共に氣を操る修行をしたりも、していたので。


 祖父の死後、陰陽寶珠を受け継ぎはしたが、スーパーヒーローを目指さなかった寧人と、スーパーヒーローとしての活動を続けた真の距離は、遠ざかった。

 それでも、真は時折、寧人の元を訪れては、スーパーヒーローになるように誘っていたし、ならないにせよ修行は続けるように言い続けた。


 でも、寧人は真の誘いを断り続けた。

 修行の方も、たまに隠れて申し訳程度に行いはしたが、最低限の氣の力を保つ程度でしかなかった。


 寧人がスーパーヒーローにならなかった最大の理由は、母親の大反対である。

 母親からすれば、父親がスーパーヒーローとしての戦いで命を落とした上、多くの日本人から批判までされてしまったのだ。


 そんなスーパーヒーローとしての道を、息子である寧人が進むのに、母親が反対するのは、当たり前といえる。

 母親を心配させたくない寧人は、スーパーヒーローとしての道を選ばず、普通に生きる道を選んだ。


 陰陽寶珠は、所有者の氣の能力が落ち過ぎて、一定のラインを下回ると、「ちょっとしたトラブル」を起こすことがあると、祖父が話していたのを、寧人は覚えていた。

 故に、最低限の氣の能力を保つ為の修行を、たまに行ってはいたのである。


 その間、スーパーヒーローとして生きた真は実力を上げて、世に名を知られる存在となっていった。

 今ではデュアルウィールドは、日本ではトップクラスのスーパーヒーローとして、名前を挙げられる存在なのである。


「悪いが看取ってやる暇もなさそうだ、ドラゴンメイドの相手をしなきゃならないんでな」


 真の目線は、攻撃を放つべく身構え、全身から光を放ち始めている、謎の女の方を向く。

 デュアルウィールドとして、謎の女と戦わなければならない真は、死にゆく寧人を看取ることはできないのである。


 謎の女が真に向けで、数十条の光線を放つ。

 全身から放っていた光を、数十条の光線にして、誠に向けて放ったのだ。


 襲いくる光線の雨を、真は両手の刀を素早く動かし、全て刀で受け止め、弾いてしまう。

 寧人に致命傷を与えた攻撃を、真は余裕を持って、防ぎ切ってしまった。


 視界が掠れる中、その光景を寧人は目にして、真と自分の圧倒的な実力差を、思い知らされる。


「先に逝って……あの世で先生から、叱られるんだな」


 光線を防ぎ切った真は、そう言い放つと、寧人に背を向け、謎の女の方に向かって、疾風の如き速さで駆け出す。

 輕身功を使った寧人を、遥かに超える速さで。


(凄いな、真……俺なんかじゃ、足下にも及ばない)


 既に殆ど、寧人の目は見えなくなっていた。

 だが、それでも一瞬で真の気配が消え去り、遠くから剣と刀が激しく激突する音が聞こえてきたので、真が自分以上の速さで移動したのが、寧人には分かったのだ。


 自分に致命傷を与えた光線を、余裕で受け止め、弾き返していた姿も、薄れゆく視界の中に、寧人は捉えていた。

 真の実力が、自分を遥かに上回っているのを、寧人は見せつけられた気分だった。


(俺も……スーパーヒーローとして生きていたら、ちゃんと修行を続けていたら、真みたいに……強くなれたのかな?)


 心の中で、寧人は自問する。


(そうしていれば、俺はこんなとこで……死なずにすんだのかもしれない。俺は選択を、間違ったみたいだ)


 激しい後悔の念に、寧人は苛まれる。


(母さんが反対しても、俺は……スーパーヒーローを目指すべきだったんだ、爺ちゃんみたいな……スーパーヒーローを)


 そんな寧人の頭に、家族や友人達……別れた恋人の顔、人生で経験した様々な場面が、次々と浮かんでは消える。


(これが、走馬燈とかいう奴か……そろそろ、死ぬみたいだな)


 走馬燈として現れる記憶の中に、清音や百虹架が現れたのを見て、自分が友人達を助けられたことを、寧人は思い出す。


(ま、あいつらを助けられたんだ……悪い死に方じゃないか)


 無論、死にたくなどないのだが、どうせ死ぬのであれば、せめて何かを成した上で死んだと、寧人は思いたかったのだ。


(でも、ドラゴンが日本に現れたから……助けたとはいっても、一時しのぎにしか、ならないのかな)


 多数のスーパーヒーローやスーパーヴィラン達がいるアメリカですら、ドラゴン達相手に劣勢の状況なのだ。

 超人戦力が衰えたままの日本は、アメリカよりも簡単に、ドラゴン達に追い込まれてしまう可能性が高い。


 この場から逃がすのに成功した友人達も、逃げている筈の家族達も、このままでは遠からず、ドラゴン達にやられてしまうに違いない。


(爺ちゃんが生きていたら……いや、俺がちゃんと修行して、強くなっていたのなら、家族や友達を……もっと多くの人達を、守れたかもしれないのに……)


 友人達を逃がせた僅かな達成感など、結局は大きな後悔の念に、かき消されてしまう。

 家族や友人達に、もう会えない悲しさと、大事な人達を守れる可能性を、祖父から受け継いでいながら、それを無駄にしてしまった後悔に苛まれながら、寧人の意識は途絶えた。


 身体の五か所を光線に撃ち抜かれ、穴を穿たれ、寧人は激しく出血し、着衣は血塗れになっていた。

 激痛のせいか、それとも悲しみや悔しさのせいか、涙に頬を濡らしたまま、寧人は事切れていた。


 西暦二千二十六年七月四日、神志南寧人は死亡した。十九才になる、二カ月と十七日前のことであった。



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