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第9話 逃げるのが無理なら、戦うしかないじゃないか!

(逃げるのが無理なら、戦うしかないじゃないか!)


 寧人は即座に、戦う覚悟を決める。

 無論、戦っても勝ち目が、殆どないことくらい、寧人にも分かっている。


 それでも、このまま黙ってやられる程に、寧人は諦めがいいタイプではないし、戦って勝てる可能性がゼロだとも、思ってはいなかったのだ。

 假面武仙としての必殺技の一つを、未熟なりにも使えるので、それをドラゴンに食らわせれば、何とかなるかもしれないと、寧人は思ったのである。


 インヤンマスクとして活躍していた祖父は、様々な必殺技……絕招ぜっしょうを使うことができた。

 その殆どは、祖父が修行の末に習得したり、開発していたのだが、例外と言える絕招も存在した。


 陰陽寶珠は常時、所有者の氣を、僅かずつ貯め込んでいる。

 この貯め込まれた膨大な氣を費やして攻撃する、武仙としての決め技が太極絕招たいきょくぜっしょう


 假面武仙に變身できた者であれば、強力な氣を練り操る能力がなくても、爆裂踢ばくれつてきという太極絕招なら、一度だけは放つことができる。

 寧人は祖父から、そのように聞いていたし、爆裂踢を放つ方法を、教わっていたのだ。


 実際に放った経験は、一度も無いのだが。


(頭か胸を潰せば、倒せるか……倒せないにせよ、あのブレスを放てないようにできる筈だ!)


 ドラゴンの急所がどこなのか、寧人は知らない。

 だが、ドラゴンが生物である以上、頭部や胸部に急所が多い筈だと、寧人は考えた。


 頭を潰せは思考能力を奪えるし、ブレスを放つ口を潰せる。

 それに、大抵の生物は、頭部を潰せば死に至る。


 胸部は心臓や、ブレスを放つ為の肺がある可能性が高い。

 胸を潰せば、心臓を潰して殺せるか、肺を潰してブレスを放てなくできるのではないかと、寧人は考えた。


 故に、頭か胸を狙うべきだと、寧人は判断したのである。


(胸の方が、的がでかくて当て易い! 狙うのは胸だ!)


 そう決断しながら、寧人はしゃがみ込むと、ハイカットのバスケットシューズを思わせるデザインの、白い靴の甲に印されている太極図に、右手で触れた後、そのまま右手で陰陽寶珠に触れる。

 すると、陰陽寶珠が、白い光を放ち始める。


 白い光……つまり氣は、コスチュームの表面に記されている、陰陽寶珠と右足の甲の太極図を繋ぐ黒いライン……光經絡こうけいらくを伝わって移動。

 氣が流れたことにより、黒かった光經絡が、白い光を放つ状態になる。


 すぐに陰陽寶珠の光が消え、続いて光經絡の光も消える。

 代わりに、膨大な氣が移動してきた右足が、白く光り輝く始める。


 寧人は立ち上がって身構えると、既に二十メートル程の距離まで突進してきている、ドラゴンの胸を狙って跳躍。

 輕身功により、強力な跳躍能力を得ているので、寧人は迫り来るドラゴンの元に、一瞬で辿り着く。


 足先を先端にして、ミサイルのようにドラゴンに向かって跳んだ寧人は、そのまま太極図が印された右足先で、ドラゴンの胸を蹴る。

 足先は甲だけでなく、その裏側にも太極図が印されていて、両者は繋がっているのだ。


爆裂ばくれつ!」


 寧人が声を上げると、右足先の裏に印された太極図から、ジェット機の噴射音の如き音を響かせながら、爆発的な勢いで、白く光り輝く氣が噴射される。

 輕身功では脚力が異常に強化されるので、放つ蹴りの威力は強烈なのだが、爆裂踢はただの蹴りではない。


 攻撃対象に足先の太極図が触れた際、まさに爆発的な勢いで、太極図から氣が噴射され、対象物を破壊し尽くすのである。

 物体を破壊する能力も高いが、それ以上に生物の体内を流れる生命エネルギー……氣の流れを、ズタズタにしてしまう効果があるので、生物相手の方が効果が高い攻撃だ。


 爆裂踢を食らった攻撃対象は、爆裂してしまう程の蹴りなので、爆裂踢という名が付いた。

 心の中で「爆裂」と命じるだけで、足先の太極図からの氣の噴射は始まるのだが、声に出した方が確実に放てるので、実戦で爆裂踢を放つのが初めてである寧人は、声に出したのだった。


 凄まじい勢いの氣の噴射を、ゼロ距離で胸に食らったドラゴンは、砲弾どころかミサイルの直撃ですら、傷付かない防御能力を持つ、氣により守られた皮膚に、穴を穿たれた。

 超常的な存在である、氣や魔力に護られたドラゴンには、氣や魔力などの超常的な力による攻撃は、通用するのだ。


 氣や魔力による攻撃に対しても、高い防御能力を持つドラゴンもいるのだが、雑魚といえるコルベット級には、そういった高い防御能力を持つドラゴンは少ない。

 寧人が爆裂踢を食らわせたコルベット級ドラゴンは、数少なくない側ではなかった。


 白く光り輝く蹴りで、胸部に穴を開けられたドラゴンは、凄まじい勢いの氣の奔流に、体内を破壊されてしまう。

 寧人は心臓がありそうな左胸を狙ったのだが、狙いが少しズレてしまい、実際に爆裂踢が当たったのは、ドラゴンの心臓ではなく左肺となった。


 左肺をズタズタにされたドラゴンは、前のめりに転倒する。

 幾ら爆裂踢が強力な蹴りでも、突進するドラゴンの勢いを止めるのは無理なので、ドラゴンは前向きに倒れたのだ。


 寧人の方は、ジェット噴射の如き氣の噴射の反動で、背後に数十メートル吹っ飛ばされたので、前のめりに倒れるドラゴンの下敷きになることはなかった。

 着地に失敗して、地面の上を転がった後、すぐさま寧人は立ち上がり、ドラゴンの様子を確かめる。


 ドラゴンは地面の上を、苦し気にのたうち回っていた。

 左胸に穴を開けられ、左肺をズタズタにされた程度で、ドラゴンは死にはしない。


 生命力も再生能力も、常識からかけ離れた存在であるドラゴンは、この程度では死なないどころか、いずれは傷も治ってしまう。

 だが、いくらドラゴンであっても、片肺を破壊された状態から回復するには、それなりの時間はかかるし、寧人の狙い通り、ブレスを放つのは不可能になっている。




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