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第5話 ドラゴンの東京襲撃を防ぐ為、入間基地と朝霞駐屯所より、ミサイルによる迎撃が行われます!

 ドラゴンの身体にダメージを与えて倒し得るのは、氣や魔力……超能力を使用した攻撃を行える者達だけ。

 つまりは、スーパーヒーローやスーパーヴィランだけなのである。


 ドラゴンは超高度な対レーダーステルス能力を持っている為、雲に姿を隠されてしまうと、発見するのは難しい。

 今回のドラゴンも、雲に隠れて移動してきていた。


 東京に向かって飛行していることから、ドラゴンの目標は東京と予測される。

 隠れていた雲が、東京の数十キロ北を通ることになったので、ドラゴンは雲を出て南進を開始したのだろうと、防衛省は分析していた。


 テレビではアナウンサーによる、そういった解説が放送される。


「ドラゴンの東京襲撃を防ぐ為、入間基地と朝霞駐屯所より、ミサイルによる迎撃が行われます!」


「入間のPAC3と、朝霞の中SAM改で落とす気か」


 友介のいうPAC3と中SAM改は、どちらも自衛隊が保有する対空ミサイルのことである。


「確かに、ドラゴンを撃ち落とすのは可能だから、地上戦に持ち込んで動きを止めつつ、エネルギー不足に追い込む気だろう」


 ミリタリーファッションを好んでいるだけのことはあり、軍事については詳しい友介が、テレビの放送内容を補足する。

 自衛隊や他国軍隊の兵器は、ドラゴンを倒すことはできない。


 ただ、軍隊は飛行中のドラゴンを撃ち落とせるし、徹底した攻撃を行えば、動きを封じられる。

 攻撃から身を守る為、ドラゴンはエネルギーを消耗するらしく、エネルギーが不足した状態になると、エネルギーを回復させる為に撤退する場合が多い。


 ドラゴンを倒すのは、超人達の役目、移動を制限しエネルギーを消耗させるのが、軍隊の役目といえる。

 軍隊の兵器では倒せなくても、氣や魔力というエネルギーを消耗すると、超人達相手の戦いが不利になるので、ドラゴンは撤退を選ぶ場合が多いのである。


 初めてのドラゴンによる襲撃に対し、まずは自衛隊が対空攻撃で撃ち落とし、地上戦に持ち込む。

 その上で、地上でも攻撃を仕掛けて行動を阻害しつつ、エネルギーを消耗させるつもりなのだろうと、友介は推測したのだ。


「その間に、超人連中が駆け付けて、何とかしてくれる可能性もあるしな」


 友介の言う通り、ドラゴンを倒すのは、スーパーヒーロー達やスーパーヴィラン達……超人達の役目なのだ。

 自衛隊が足止めをしつつ消耗させておけば、超人達が駆け付け、倒してくれる可能性がある。


 スーパーヒーローやスーパーヴィランが激減した日本とはいえ、全くいなくなった訳ではない。

 敵対する両者も対ドラゴン戦では、手を組んで戦うと決まったことが、マスメディアを通して報道されている。


「政府はドラゴンの落下予測地域及び、ドラゴンとの地上戦が行われる可能性がある、日高市、川越市、飯能市、茶山市、入間市を、警戒区域に指定しました!」


「おい! 茶山市も入ってるじゃねーか!」


 自分達がいる地元である茶山市が、警戒区域に指定されたことに、宗助は驚きの声を上げる。

 無論、宗助以外の者達も驚き、店内は騒めく。


「警戒区域への立ち入りは禁止され、警戒区域の住民達は、可能な限り速やかに、警戒区域外に退避して下さい!」


「退避って、どうすりゃいいんだよ?」


「東京目指してるってことは、南には逃げない方がいいだろ! ふじみ野か三芳みよしに逃げりゃいいんじゃないのか?」


 ふじみ野市と三芳町は、どちらも茶山市の東側にある自治体だ。

 同じ東側でも、ふじみ野市の方が北にある。


「俺、車出せるぞ!」


「車は絶対に渋滞に巻き込まれる! 自転車やバイクの方がいい!」


 皆が上げる様々な声を聞いて、リーダー格である宗助が即断する。


「都合がいいことに、自転車で来てる奴が多いから、ふじみ野に自転車で逃げるぞ! 歩きや車の奴は、自転車の奴の後ろに乗せてもらえ!」


 宗助の判断は妥当だと考え、皆は頷くと、すぐに行動を起こし始める。

 マスターやウェイトレスの女子大生、他の客達にも、宗助の言葉は届いていたので、行動を共にし始める。


 レトロから出た者達は駐輪場に向かい、自転車に乗り始める。

 茶山市の市街地の外縁部、茶畑の近くにあるレトロに来るには、自転車が都合が良い為、客の多くが自転車で来店していたのだ。


「大通りは、たぶん混むから……」


 駐輪場から出た直後、宗助が発した言葉が、耳をつんざく程の爆発音に、かき消される。

 皆が空を見上げると、高くはないビルの合間から見える青空で、炎と煙をまき散らしながら、大爆発が起こっていた。


 南から飛来したミサイルが、次々と爆発の中に飛び込み、続けざまに爆発を起こした。

 その爆発音のせいで、皆が声を張り上げているが、何も聞こえない。


 聞こえるようになったのは、爆発が収まり、恐竜の背に翼が生えた感じの姿をした、暗青灰色スチールブルーのドラゴンが、落下してくるのが視認できるようになった段階になってから。


「やばい! こっちに落ちてくる!」


 誰かの叫び声の通り、数発の迎撃ミサイルを食らったドラゴンは、寧人達がいる辺りに向かって、多数のミサイルの破片群と共に、墜落してきていた。

 落下速度は速く、通りにいる土曜会の面々や、他の人々には、逃げおおせるだけの時間は、残されてはいない。


 このままでは、多数の死傷者が出るのは確実、もうどうしようもないといえる状況に、恐怖と絶望で、皆はパニック状態に陥る。

 だが、ただ一人……寧人だけは、例外であった。


 落下して来るドラゴンに対し、恐怖してはいたのだが、まだ寧人は、どうしようもないといえる状況だとは、考えてはいなかった。

 まだ寧人には、できることがあったのである。




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