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第4話 埼玉県上空で、ドラゴンの出現が確認されました! 繰り返します、埼玉県上空で、ドラゴンの出現が確認されました!

「人の不幸を、喜ぶなっての! 趣味悪いぞ!」


 不愉快そうに顔を顰め、寧人は百虹架と清音に文句を言う。


「寧人先輩にとっては不幸でも、服部先輩にとっては、幸せなことだから、同じ女としては喜びますよ」


 清音の言葉に、百虹架は頷いてから、寧人に問いかける。


「どうせ寧人先輩の浮気なんでしょ、振られた原因?」


「そ、それは……その……」


 事実なので、返答に困る寧人に、百虹架は追い打ちをかける。


「服部先輩の心が海のように広いからって、寧人先輩みたいに、調子に乗って浮気しまくってれば、何時かは振られると思ってたよ」


「幾らモテるからって、寧人先輩……調子乗り過ぎ」


 清音が言うように、寧人は異性にモテている。

 寧人は少しばかり、口が悪い部分はあるのだが、喋りは達者で人懐っこく、困っている人を見ると助ける、心優しい人物でもあるのだ。


 おまけに、顔立ちも割と整っているし、運動能力にも恵まれている。

 それ故、ゲームオタクというモテない属性でありながら、異性に頻繁に誘いを受ける程度に、モテるのである。


 そして、振られた原因が、寧人自身の浮気というのも、寧人が浮気しまくってきたことも、事実であった。

 夏芽は心の広い女性で、寧人の度重なる浮気を、これまでは許してくれたのだが、今回は浮気の相手が夏芽の親しい友人であった為、さすがに堪忍袋の緒が切れてしまったのだ。


 百虹架と清音、二人がかりで責められた寧人は、小声で愚痴る。


「……別に、浮気したくてしてる訳じゃないんだけどな。女に誘われると、断れない呪いを、爺ちゃんから受け継いじまったせいなんだし……」


「また呪いのせいにしてる……」


 呆れ顔の清音の言葉を、百虹架が受け継ぐ。


「そんな呪い、有る訳ないじゃない! 先輩が浮気性なだけだよ!」


 百虹架の言葉に、その場にいた皆が同意して頷く。

 浮気問題が発覚した際、呪いのせいにする寧人を、主に清音と百虹架が突っ込むというのは、土曜会や電子遊戯部の者達にとっては、何時ものことなのだ。


(ホントなんだけどねぇ、呪いの話は……)


 心の中で呟きつつ、寧人は溜息を吐く。

 信じて貰えないのは、分り切っていることなのだが、女性からの誘いを断れない呪いを、寧人が祖父から受け継いでいるのは、嘘ではない。


「……女の誘いは断るなってのが、爺ちゃんの遺言なんでね」


 呪いだなどと言っても、信じて貰えない場合、何時の頃からか、そんな風な言葉で誤魔化すのが、寧人の癖になってしまった。

 そのせいか、何かと祖父の遺言を持ち出すのは、寧人の癖になってしまっている。


 無論、その殆どは冗談であり、本当の遺言ではないのだが。


「呪いの次は遺言ですか! 何時ものこととはいえ、だいたい寧人先輩は……」


 話を続けようとした清音の声が、けたたましいサイレンの音にかき消される。

 近くにある。聞いた者全てが不快感を覚え、不安感をかき立てられるような、耳障りで嫌な音だ。


 そのサイレンの音が何なのかは、皆が知っていた。

 もしもドラゴンが日本に現れた時、日本でどのようなことが起こるかをシミュレートした、テレビ番組などで紹介され、広く知られるようになったので。


 そのサイレン音は一般的には、国民保護サイレンやJアラート音と呼ばれている。


「ドラゴン出現情報! ドラゴン出現情報! 当地域にドラゴンが出現する可能性があります! 屋内に避難し、テレビラジオをつけて下さい!」


 街の各所に設置されているスピーカーから、淡々とした警報メッセージが流され始めた直後、テレビやスマートフォンからも、警報音が鳴り響き始める。

 警報メッセージが「テレビ」を指定していた影響か、テレビからの情報が、一番詳しそうだと考えた者達が多く、店内の者達の目は、一斉にテレビに注がれる。


 ニュース番組は即座に打ち切られ、テレビ画面は埼玉県の地図と、慌てた風な男性アナウンサーの姿に切り替わる。


「埼玉県上空で、ドラゴンの出現が確認されました! 繰り返します、埼玉県上空で、ドラゴンの出現が確認されました!」


 CGで描かれた地図の上には、埼玉県から東京方面に向かう矢印が描かれ、ゲームに出てくるようなCGキャラクターのドラゴンが、矢印に沿って移動する。

 そして、ドラゴンの進行方向の近くには、「入間基地」や「朝霞駐屯所」と文字で記された場所があり、CGで描かれた迎撃ミサイルの画像が表示されている。


「ドラゴンはW型のコルベット級、東京を目指し、雲に隠れて移動してきたものと思われます!」


 ドラゴンは姿形から、E型とW型の二種類に分けられ、その大きさから、幾つもの級に分けられている。

 E型は東洋の伝説や神話に出てくる、巨大な蛇の如き姿であり、W型は西洋の神話や伝説に出てくる、恐竜に翼が生えた感じの姿である。


 大きさの分類の級は、基本的には軍艦の艦種を流用している。

 かなり小さめの軍艦の艦種である、コルベットの名が級名となったコルベット級は、ドラゴンの中では最小といえる大きさだが、それでもW型であれば、立った場合の全高は、十数メートル程になる。


 世界最強のアメリカ軍ですら、飛行中のドラゴンを倒すことはできない。

 対空ミサイルで撃ち落としたり、地上戦で一時的に動きを止める程度のことしかできないのだ。


 核攻撃を含めた、現代の軍隊が使用する武器は、ドラゴンの身体にまともにダメージを与えることはできない。

 ドラゴンの身体が纏う、……魔力などと呼ばれる、強力な生命エネルギーにより、全ての攻撃が防がれてしまうのである。


 そういった生命エネルギーによる防御を失っても、軍隊が使用する兵器は、せいぜいドラゴンに軽く傷を負わせることしかできない。

 軍隊にはドラゴンは、決して倒せないのだ。




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