「命がけで戦って、日本を救ってくれたスーパーヒーロー達を、社会に迷惑をかける危険な連中だと、叩きまくるような真似したんだ」
皮肉っぽい口調で、寧人は続ける。
「日本でスーパーヒーローになろうって奴が減るのも、当たり前の話さ」
「……でも、そんなこと言ってる寧人先輩自身は……超人的な力を持っていたら、スーパーヒーローになるタイプなんじゃないかな?」
清音に問われて、寧人は意外そうな顔で訊き返す。
「何で?」
「困ってる人見かけると、助けちゃうじゃないですか。そのせいで結構、色々と面倒なことになったりしてるのに」
百虹架が、清音の話を受け継ぐ。
「あたし達を助けた時も、そのせいで停学になったんだもんね……後で取り消されたとはいえ」
清音の言う通り、寧人は困っている人を見かけると、つい放っておけずに助けてしまい、そのせいで後で面倒なことになってしまう場合が多い。
そして、百虹架と清音が中学生の頃、不良少年達に絡まれていたのを、寧人は助けたことがある。
相手が暴力を
結果として、寧人は高校で、停学処分を食らってしまったのだ。
清音と百虹架は、自分達を助けてくれた寧人が、彩武学園高等学校の生徒であるのを突き止め、礼を言う為に彩武学園高等学校を訪れた。
その際、寧人が停学処分を受けたのを知った二人が、学校側に経緯を説明し、停学処分の取り消しを求めたので、寧人の停学処分は取り消しになった。
この時の経緯から、清音と百虹架は寧人と親しくなり、後に彩武学園高等学校に入学し、電子遊戯部の部員になったのである。
同じ学校の生徒となってからも、困っている人を助けては、その後に面倒なことになる寧人の姿を、二人は何度も目にしている。
そういった経緯があるからこその、二人の発言だった。
「いや、幾ら超人的な力を持ってたとしても、スーパーヒーローになんかならないって!」
冗談めかした口調で、寧人は清音達の主張を否定する。
「困ってる人を見かけたら、助けられる余裕がある場合は、助けろってのが、爺ちゃんの遺言だったから……助けることもあるけど、世の為人の為に、命がけで戦うなんて……御免だよ」
そう言いながら、寧人は立ち上がると、近くに設置されている、アップライト型のゲーム筐体の前に移動する。
二十年以上前に発売された、寧人が好きな格闘ゲームの筐体だ。
「戦うのは、ゲームの中だけで十分さ」
フリープレイモードになっているので、スタートボタンを押すだけで、ゲームをプレイすることができる。
寧人はスタートボタンを押すと、好んで使う中国武術使いのキャラクターを選び、遊び始める。
プレイを始めると、すぐに寧人の後ろに、ジーンズにエプロンという出で立ちの、ボーイッシュな女性が現れる。
この店でウェイトレスとして働いている、マスターの従妹の女性だ。
土曜会の面々から注文を取りつつ、店内を移動していたウェイトレスが、ようやく寧人の所に来たのである。
「神志南君、ご注文は?」
「ナポリタン!」
「いつも通りね」
ウェイトレスは言葉を返しつつ、ゲーム画面を覗き込む。
「やっぱリアルで中国武術の経験があると、ゲームでも使い易かったりするの?」
寧人に中国武術の経験があると思っているウェイトレスは、寧人が中国武術系のキャラクターを使っているのを見て、そんな疑問を抱いたのだ。
「そんなことはないんだけど、キャラの動きに親しみがあるから、使ってて楽しいってのはあるかな」
功夫服を身にまとう、老人のキャラクターを操作しつつ、寧人は続ける。
「このキャラは、爺ちゃんに似てるってのもあるし」
「中国武術は、お爺さんに習ったんだっけ?」
「俺がガキの頃に死んじまったから、基本しか習ってないんだけどね」
より正確に言えば、中国武術と似た何等かの武術らしく、中国武術には含まれない動きや技が、数多く含まれている。
ただ、説明すると面倒なので、寧人は中国武術ということにしているのだ。
「そのわりには、かなり強いって聞いたけど」
「誰から?」
「君が昔、助けた二人に」
ウェイトレスは寧人に助けられた時の話を、清音と百虹架から聞いていたのだ。
「あいつらの話だったら、話半分に聞いといた方がいいって」
寧人の言葉の後、マスターが口を挟んで来る。
「……スーパーヒーローの話の後で、中国武術と聞いて思い出したんだが、インヤンマスクも酷く叩かれてたよなぁ。ベルウェザーXを相打ちで倒し、超人大戦を終わらせた功労者だってのに」
インヤンマスクという言葉を耳にして、寧人は表情を曇らせる。
中国武術風の武術や仙術を使って戦うインヤンマスクは、かっては日本最強のスーパーヒーローだと言われていた。
超人大戦の最後、ベルウェザーXを相打ちで倒して、インヤンマスクは死亡した。
その後、マスターの言う通り、超人同士の激戦の被害に対する責任を問われ、インヤンマスクは超人批判者達による批判の対象となったのだ。
「元気なさそうですけど、どうかしましたか?」
寧人の表情が曇ったのに気付いた、清音の問いかけに、寧人が答えるよりも前に、友介が答えてしまう。
「寧人は振られたばかりで、落ち込んでるんだよ」
「その話すんなって!」
強い口調で、寧人は友介を制止する。
表情を曇らせたのは、別の理由だったのだが、彼女に振られたばかりで落ち込んでいたのも、事実だったのだ。
「あ、やっと振られたんだ!」
百虹架は嬉しそうに声を上げるが、嬉しそうなのは百虹架だけではない。
「寧人先輩と三年も続くとか、仏のように慈悲深い人でしたけど、ようやく愛想を尽かしたんですね、服部先輩」
清音も笑顔で、寧人が彼女の
夏芽は寧人が一年の頃に三年だった、電子遊戯部の先輩であり、つい最近まで恋人関係は続いていた。