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第3話 いや、幾ら超人的な力を持ってたとしても、スーパーヒーローになんかならないって!

「命がけで戦って、日本を救ってくれたスーパーヒーロー達を、社会に迷惑をかける危険な連中だと、叩きまくるような真似したんだ」


 皮肉っぽい口調で、寧人は続ける。


「日本でスーパーヒーローになろうって奴が減るのも、当たり前の話さ」


「……でも、そんなこと言ってる寧人先輩自身は……超人的な力を持っていたら、スーパーヒーローになるタイプなんじゃないかな?」


 清音に問われて、寧人は意外そうな顔で訊き返す。


「何で?」


「困ってる人見かけると、助けちゃうじゃないですか。そのせいで結構、色々と面倒なことになったりしてるのに」


 百虹架が、清音の話を受け継ぐ。


「あたし達を助けた時も、そのせいで停学になったんだもんね……後で取り消されたとはいえ」


 清音の言う通り、寧人は困っている人を見かけると、つい放っておけずに助けてしまい、そのせいで後で面倒なことになってしまう場合が多い。

 そして、百虹架と清音が中学生の頃、不良少年達に絡まれていたのを、寧人は助けたことがある。


 相手が暴力をふるってきたので、寧人は反撃したのだが、警察沙汰の暴力事件となってしまった。

 結果として、寧人は高校で、停学処分を食らってしまったのだ。


 清音と百虹架は、自分達を助けてくれた寧人が、彩武学園高等学校の生徒であるのを突き止め、礼を言う為に彩武学園高等学校を訪れた。

 その際、寧人が停学処分を受けたのを知った二人が、学校側に経緯を説明し、停学処分の取り消しを求めたので、寧人の停学処分は取り消しになった。


 この時の経緯から、清音と百虹架は寧人と親しくなり、後に彩武学園高等学校に入学し、電子遊戯部の部員になったのである。

 同じ学校の生徒となってからも、困っている人を助けては、その後に面倒なことになる寧人の姿を、二人は何度も目にしている。


 そういった経緯があるからこその、二人の発言だった。


「いや、幾ら超人的な力を持ってたとしても、スーパーヒーローになんかならないって!」


 冗談めかした口調で、寧人は清音達の主張を否定する。


「困ってる人を見かけたら、助けられる余裕がある場合は、助けろってのが、爺ちゃんの遺言だったから……助けることもあるけど、世の為人の為に、命がけで戦うなんて……御免だよ」


 そう言いながら、寧人は立ち上がると、近くに設置されている、アップライト型のゲーム筐体の前に移動する。

 二十年以上前に発売された、寧人が好きな格闘ゲームの筐体だ。


「戦うのは、ゲームの中だけで十分さ」


 フリープレイモードになっているので、スタートボタンを押すだけで、ゲームをプレイすることができる。

 寧人はスタートボタンを押すと、好んで使う中国武術使いのキャラクターを選び、遊び始める。


 プレイを始めると、すぐに寧人の後ろに、ジーンズにエプロンという出で立ちの、ボーイッシュな女性が現れる。

 この店でウェイトレスとして働いている、マスターの従妹の女性だ。


 土曜会の面々から注文を取りつつ、店内を移動していたウェイトレスが、ようやく寧人の所に来たのである。


「神志南君、ご注文は?」


「ナポリタン!」


「いつも通りね」


 ウェイトレスは言葉を返しつつ、ゲーム画面を覗き込む。


「やっぱリアルで中国武術の経験があると、ゲームでも使い易かったりするの?」


 寧人に中国武術の経験があると思っているウェイトレスは、寧人が中国武術系のキャラクターを使っているのを見て、そんな疑問を抱いたのだ。


「そんなことはないんだけど、キャラの動きに親しみがあるから、使ってて楽しいってのはあるかな」


 功夫服を身にまとう、老人のキャラクターを操作しつつ、寧人は続ける。


「このキャラは、爺ちゃんに似てるってのもあるし」


「中国武術は、お爺さんに習ったんだっけ?」


「俺がガキの頃に死んじまったから、基本しか習ってないんだけどね」


 より正確に言えば、中国武術と似た何等かの武術らしく、中国武術には含まれない動きや技が、数多く含まれている。

 ただ、説明すると面倒なので、寧人は中国武術ということにしているのだ。


「そのわりには、かなり強いって聞いたけど」


「誰から?」


「君が昔、助けた二人に」


 ウェイトレスは寧人に助けられた時の話を、清音と百虹架から聞いていたのだ。


「あいつらの話だったら、話半分に聞いといた方がいいって」


 寧人の言葉の後、マスターが口を挟んで来る。


「……スーパーヒーローの話の後で、中国武術と聞いて思い出したんだが、インヤンマスクも酷く叩かれてたよなぁ。ベルウェザーXを相打ちで倒し、超人大戦を終わらせた功労者だってのに」


 インヤンマスクという言葉を耳にして、寧人は表情を曇らせる。

 中国武術風の武術や仙術を使って戦うインヤンマスクは、かっては日本最強のスーパーヒーローだと言われていた。


 超人大戦の最後、ベルウェザーXを相打ちで倒して、インヤンマスクは死亡した。

 その後、マスターの言う通り、超人同士の激戦の被害に対する責任を問われ、インヤンマスクは超人批判者達による批判の対象となったのだ。


「元気なさそうですけど、どうかしましたか?」


 寧人の表情が曇ったのに気付いた、清音の問いかけに、寧人が答えるよりも前に、友介が答えてしまう。


「寧人は振られたばかりで、落ち込んでるんだよ」


「その話すんなって!」


 強い口調で、寧人は友介を制止する。

 表情を曇らせたのは、別の理由だったのだが、彼女に振られたばかりで落ち込んでいたのも、事実だったのだ。


「あ、やっと振られたんだ!」


 百虹架は嬉しそうに声を上げるが、嬉しそうなのは百虹架だけではない。


「寧人先輩と三年も続くとか、仏のように慈悲深い人でしたけど、ようやく愛想を尽かしたんですね、服部先輩」


 清音も笑顔で、寧人が彼女の服部夏芽はっとりなつめに振られたことを、祝福する。

 夏芽は寧人が一年の頃に三年だった、電子遊戯部の先輩であり、つい最近まで恋人関係は続いていた。




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