目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第2話 超人大戦で激減したままだからな、日本のスーパーヒーローとスーパーヴィランの数は

「ま、でもドラゴンに襲われてる国に比べりゃ、日本はマシだろ。インフレと物不足程度で、済んでるんだから」


 寧人から見て右隣のテーブル型筐体で、古いシューティングゲームを楽しんでいた、青いトレーニングパンツにTシャツという出で立ちの、体格の良い青年が、会話に参加してくる。


「ドラゴンに襲われた国々では、トータルで数百万人、死んでるって話っスからね……。で、モアイ先輩……注文どうします?」


 眼鏡をかけた青年が、メニューを見ながら、対面に座っている、体格の良い青年に問いかける。

 Tシャツにカーゴパンツ、かぶっているキャップまでもが迷彩柄の、細身の青年だ。


 モアイというのは、体格の良い青年、茂藍しげあい宗助そうすけの徒名である。

 顔立ちがモアイ像に、どことなく似ているのと、苗字の茂藍の「しげ」を、「」と読むと、「茂藍もあい」と読めることから、そんな徒名がついた。


 宗助は大学三年生であり、自分勝手でいい加減なところもある、トラブルメーカー的な人物といえる。

 だが、人望もある為、現在の土曜会のリーダー格といえる一人となっている。


 会長は社会人なのだが、社会人は参加できないことも多い。

 故に、実質的には大学生メンバーがリーダー的な立場となるのが、土曜会の伝統なのだ。


 レトロに入店するなり、宗助はメニューで注文を選びもせず、ゲームを始めてしまった。

 宗助はゲーム中でメニューが見れないので、メニューを手にした眼鏡の青年は、注文を訊いたのである。


「カツカレーとカレー、幾らになってる?」


 問いかける宗助に、眼鏡の青年が答える。


「カツカレーは三千円、カレー二千円」


 答を聞いて、宗助は渋い表情を浮かべる。


「今週はカレーにしとくか……青天目なばためは?」


「俺もカレーっス」


 眼鏡をかけた青年、青天目なばため友介ゆうすけは、答を返しつつ、メニューを閉じてテーブルの脇に置く。


「日本にもドラゴン……来るのかな?」


 清音はテレビ画面に映したされた、ドラゴンの映像を眺めながら、誰にという訳でもなく、問いかける。


「軍事大国じゃない日本は、襲われないって噂だから、大丈夫なんじゃない。在日米軍基地も、空っぽなんだし」


 気楽な口調で、百虹架は答える。

 日本人の多くは、百虹架に近い認識であり、日本がドラゴンに襲われるとは、思っていない。


 ドラゴンが最初に出現し、襲撃したのは、ノルウェー海で演習中だったNATO軍。

 その後、欧州の英仏に続いてロシアと中国、アメリカという順に襲い始めた。


 ドラゴンの襲撃を受けたのは、核武装している軍事大国ばかり。

 欧州でも、核武装している英仏が被害の中心で、他の国々では、NATO軍施設を除けば、現状では余り被害が出ていない。


 世界の覇権をアメリカと争う存在となった中国は、アメリカ同様に、ドラゴンによる熾烈な攻撃を受けている。

 インドやパキスタンなどの他の核武装国家は、通常戦力が強大と見做されなかったせいか、まだ探りを入れる程度の小規模な攻撃を受けているだけである。


 アメリカがドラゴンの襲撃を受けて以降、在日米軍基地に配備されていた米軍の大部分は、本国防衛の為にアメリカに戻ってしまった。

 結果、在日米軍基地は、空っぽに近い状態だ。


 それ故、核武装している軍事大国ではなく、米軍基地も空っぽの日本は、ドラゴンの襲撃の対象にはならないのではと、多くの日本人は考えている。


「ま、でも……日本がドラゴンに襲われたら、あっという間に終わりだろうね。スーパーヒーローの数が、少ないっスから」


 友介の言葉を聞いた、その場にいた者達は頷く。


「超人大戦で激減したままだからな、日本のスーパーヒーローとスーパーヴィランの数は」


 宗助の言う「超人大戦」というのは、二千十二年に起こった、超常的な力を持つ超人同士の大規模な戦いだ。

 新世紀が始まった頃に現れた、カリスマ的なスーパーヴィラン、ベルウェザーXが、日本中のスーパーヴィラン達を集めて、「人類先導戦線」を組織し、日本中を荒らし回った。


 日本経済を破綻させかねない程の被害を出した、人類先導戦線に対し、日本政府は無力であった。

 日本で活動するスーパーヒーロー達も、個々の能力では、スーパーヴィラン達に負けていなかったのだが、組織化された人類先導戦線に、敗北を続けたのだ。


 故に、日本のスーパーヒーロー達も、「超人連合」を組織し、集団として人類先導戦線に対抗する道を選んだ。

 結果、二千年代の後半、超人連合と人類先導戦線の戦いは、「超人大戦」と呼ばれる程の激戦となったのである。


 超人大戦は二千十六年の終わりに、超人連合側の勝利で終わった。

 だが、超人大戦を通じて、数多くのスーパーヒーロー達とスーパーヴィラン達が死亡し、日本の超人の数は激減してしまった。


 あれから十年が過ぎた二千二十六年現在、日本のスーパーヒーローの数は激減したまま、余り増えていない。

 激し過ぎた超人大戦の被害のせいで、超人という存在自体が、ネガティブな見方をされるようになってしまい、スーパーヒーローになろうという超人の数が、減ってしまったせいだと言われている。


 スーパーヒーロー達がいなければ、日本はスーパーヴィラン達に支配された、超人達による独裁国家と化していた可能性が高い。

 それにも関わらず、スーパーヒーロー自体も、非難の対象となってしまったのである。


 超人大戦において、自分達を遥かに上回る能力を見せつけた、超人達への恐れや嫉妬は、スーパーヴィラン達だけでなく、スーパーヒーロー達にも向けられた。

 激戦による被害の原因の一端は、戦いの当事者の一方である、超人同盟側のスーパーヒーロー達にもあるというのが、批判者達の主張だ。


 人ならざる力を持つ人間が生まれる確率が、下がった訳ではないので、超人としての力を持つ日本人達は、生まれ育っている筈。

 でも、その多くは超常の力を使わず、普通の人間として生きる道を、選択するようになってしまったのである。


 ただ、スーパーヒーローとは違い、スーパーヴィランの数は微増を続けていた。

 故に、ドラゴンが現れる前から、日本では社会不安が徐々に増大を続けていたのだ。




コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?