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第11話 罪の証人

「し、失敬だぞ貴様! 王女殿下の御前で何を申すか!」


「宰相とて、口にしてよいことと悪いことがあるぞ!」


「聞き捨てなりませぬな、モーラン殿」


 周囲の重役たちが、王女派・宰相派を問わず口々に声を上げ、法廷内は一気に緊迫した空気に包まれた。そのざわめきを、モーランは薄い笑みを浮かべながら一瞥する。


「ふむ、みなさま随分と感情的ですなー。しかし、ボクは当然の問いを投げかけただけですよ? 王女殿下も、きっと答えをお持ちでしょう?」


「……あなたは私に何を求めているのかしら?」


 敵対の姿勢を崩さないモーランは、不敵な笑みを浮かべて王女を追求する。


「ミルネシア王女。あなたが愚かではないことをボクは存じています。ならば彼女の危険性に気付いているはず。もし彼女が再び裏切ったら、どうするおつもりで?」


 その視線を真っ直ぐに受け止め、ミルネシアは静かに口を開く。


「確かに、あなたの問いは正しい。そうね、ライラが再び裏切れば、その責はすべて――この私が負います」


 ミルネシアを援護しようとライラも前のめりになり反論する。


「ミルネシア様の言うとおりです! 私はもう、絶対裏切ったりしません!!」


「ははは、口ではなんとでもいえますとも」


「いいえ、私の知っているライラはそんな事をしないわ。それに、もしも、もしも彼女がまた裏切ったら……今度こそ私の手で決着をつけるわ」


 モーランは薄く笑いながらも、王女の覚悟に僅かな驚きを隠せなかった。


「……それでしたら、なんの問題もありませんな。出過ぎた真似をしてしまいました――と言いたいのは山々なのですが、国の将来を憂う宰相としては、もうひと声欲しいですね」


「……私たちに言いたい事があるならはっきり発言したらどうかしら? グラウド卿」


 モーランは冷笑を浮かべ、さらに続けた。


「では証明していただきましょうか。言葉ではなく、行動で。例えば、王女殿下に忠誠を誓う証を――血の誓約として立てるなど、いかがです?」


 一瞬、場が静まり返る。血の誓約とは、命をかけた誓い。もし誓いを破れば、誓約者の命を落とす魔法が発動する契約である。


 ライラはその提案に驚きながらも、迷いなく答え、小指を突き出した。


「……いいですよ。私のすべてを懸けて、ミルネシア様に忠誠を誓います」


 ミルネシアは驚きと悲しみの混じった表情でライラを見つめたが、やがて彼女の覚悟を感じ取り、自身の小指を彼女の小指と絡ませ、多くの人の見ている前で呪文を唱え、契約を行った。その瞳には決意の光が宿っていた。


「ライラ……」


 モーランは面白そうに笑みを深めた。


「よろしい。では、裁判長。これで彼女の命は王女殿下に委ねられたも同然ですな。ボクも安心するというものです」


 法廷内は再びざわめき、査問会は新たな局面を迎えることとなった。


 モーランはさらに挑発的な視線をライラに送る。


「さて、あなたの誓いが本物かどうか……試されるのはこれからですよ」


 ライラはその挑発を正面から受け止め、静かに答えた。


「何度でも証明します。私の命を懸けて、必ず」


 裁判長が静かに木槌を打ち鳴らし、法廷は次の段階へと進んでいった。


「こほん。では続いての審問に移ろう。貴殿は我が国から持ち出した宝具やその類をどこに……」

「はい。それは……」


 審議は続き、ライラの罪状が一つずつ列挙されていく。その間、ミルネシアはずっと彼女の隣に立ち続けて、ライラの手を握っていた。


 そして査問会も終盤に差し掛かかった頃。


「ライラ・ルンド・クヴィスト。最後に、何か言いたいことはあるか?」


 審議を取り仕切る老人が尋ねた。


 ライラはしばらく沈黙した後、口を開いた。


「私はどのような処罰も受け入れる覚悟です。ただ、もし許されるなら、ミルネシア様のためにこれからの人生を捧げたい。たとえ地下牢で朽ち果てることになっても、我が知恵を惜しみなく披露することを誓いましょう。この命が王国の役に立つのなら本望です」


 その言葉を聞いたミルネシアが一歩前に出る。


「ライラの罪が重いことは私も認めます。しかし、彼女にはまだ贖罪の機会を与えるべきだと考えます。私は彼女を信じたいのです。それが私にとっても、父と兄、そして失った多くの命への償いとなると信じています」


 その言葉を受けて、裁判長である老人は深く息をつき、厳かな声で告げた。


「王女殿下のお考え、確かに承りました。これより評議に入り、最終的な判決を下します。まずは上階にいる市民の皆様には、速やかに退廷を願います」


 裁判長が兵士たちに指示を出そうとしたその瞬間、法廷内にドンっと鈍い音が響き渡った。


「――茶番ですな! まったくの茶番だ」


 一人の男が立ち上がり、机を強く叩いて声を荒げた。その人物とは、宰相モーラン・グラウドだった。


「彼女は、ライラ・ルンド・クヴィストは何も反省していませぬっ!! こちらにはその証人がおります!」

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