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百年の恋も冷めた時から
百年の恋も冷めた時から
こま
恋愛現代恋愛
2024年12月12日
公開日
5.3万字
完結済
主人公には中学の時から好きな男の子が居た。
だけど、その時は名前も他校だったため、名前も知らないままで時間だけが過ぎて行った。
大学生になって彼氏も出来、その男の子の記憶もいつか風化していくんだろうと思った。彼氏に友人だと紹介されたのは中学の時に好きになった人だった。
その人たちは学部が違ったから全然知らなかったけれど、それはどうやら自分だけだったみたいでその人は有名カップルだった。
美人の彼女にイケメンの組み合わせ。そりゃ話題にならないはずはないよねと主人公は恋を諦めて自分の彼氏との時間を楽しむことにする。
主人公の彼は少し俺様なところはあるものの、主人公のことは気に掛けてくれているので悪い人ではないと考え付き合っていた。
だけど、段々とその関係も変わって来た。
 好きな人とその恋人が近づいてきたから。
主人公はそのことに困惑していたが、彼氏はどんどんと仲良くなって行く。同じサークルに入る。主人公はその状況に困惑していたが、なんとか冷静を装っていた。
ある日あの二人は異性避けで付き合ってる振りをしていて、彼女の方が主人公の彼氏のことを好きで告白している場面を見てしまう。偽装恋人もその時知ってしまう。
主人公の彼氏も満更ではなさそうな態度にさらにショックを受けてしまい。その場に行って恋人をひっぱたき、好きな人の彼女にもひっぱたいてその日は終わった。
恋人からも好きな人の彼女からもたくさんのメッセージが入っていたが、それを黙殺し、サークルも退部していた。主人公だけ学部が違っていたから大学で彼らを避けるのは簡単だった。
だけど、三人は主人公のことを探しているらしく、同じ学部の友人から聞かれたりするとのこと、好きな人の彼女と自分の元彼が自分を探しているのは分かるけど、過ぎない人までもが自分を探しているのまでは理解出来ずに困惑していた。
だけど、あの三人に会いたくはなかったので、サークルを辞めた後は大学以外はバイト漬けにして家にもあまり帰らないようにしていた。
お陰で結構稼げたので引っ越しも視野に入れようかなと思って歩いていたら好きな人が目の前に現れた。
思わず逃げようとしたら向こうから話がしたいと言われて渋々とだけど、話をすることにした。
あの二人とはこの人は関係ないと思おうとしたからだ。
だけど、彼が言うのは元彼と彼女の話で君を怒らせてまですることじゃなかったと後悔した

第1話 美野里さゆ

 それは一瞬の出来事だったけれど、あたしの中に今でもずっと胸の一番あたたかい場所で輝き続けている。


 あたしの初恋は中学の時だった。


 中学の時、友達の試合の応援に他校に行くことになり、試合会場の学校で迷子になってしまった。


 学校の造りなんてどこも同じだろうとタカを括っていたのが悪かった。


 それに、いくつかの学校が集まるから人が多いからすぐに分かるでしょと考えていたのに、その学校につけば何故か人がいなくて、どこに行けばいいのか分からなくなってしまって困った。


 あたしは迷子になってしまって、どこに行けばいいのか分からないし、絶対に見に行くって友達に約束したのに、このままたどり着けなかったらどうしようという焦りから泣き出してしまっていたらあたしに声を掛けてくれる人がいた。


 その人はあたしに何で泣いているのか聞いて、体育館への行き方を教えてくれただけじゃなく、実際に案内までしてくれた優しい人。


 その時、お礼を言ってそのまま別れて、彼のことを忘れるはずだった。


 それなのに、その時見た彼の顔に時間が止まったような錯覚に胸が高鳴り、あたしはあの時の男の子のことを忘れられなくて、あたしはその時の感情が一時の気の迷いだったのか、それとも本当に恋をしてしまったのか、確認したくて何度か彼がいた中学に行ってみたことがあったけど、残念ながら彼に会うことはなかった。


 あれはやっぱり一時の気の迷いだったんだと思い込もうとしたけど、彼の顔を忘れることが出来なくて、あの時の感情の意味が知りたかったのに、一切出会うことはなく、中学を卒業し、高校に入ってそれなりに人付き合うこともあった。


 だけど、あたしの頭のどこかには彼の姿がいて、付き合った人たちのことをないがしろにしていた罪悪感から付き合っても、すぐに別れるを繰り返してしまってる。


 もしかしたら、もう二度と会うことはない初恋だったのかも。


 初恋は叶わないって言うし、これもあたしの運命って奴なのかなと思っていた。


 だけど、それは違ったって思い知ったのは大学に入ってからだった。


 大学に入ってどのサークルに入ろうかと迷っていたら美男美女のカップルがいると耳にした。


 美男美女のカップルを見たいと思ったけど、その時はその二人の姿を見ることはなくガッカリした。いや、あたしには関係ないんだけどね。ちょっとした興味本意で見てみたかったのよ。


 その後、あたしとは違う学部の男の子に付き合おうと言われ、ちょうど彼氏もいなかったし、初恋は初恋だったから今は関係ないやとその人とお付き合いをさせてもらうことにした後であたしは運命の再会を果たした。




◇◇◇◇◇◇




「こいつは柚木清司」

「どうも」

「で、こっち松葉りささん。二人共美男美女だって入学の時からみんな騒いでたから友達になれて嬉しいよ」

「はは、そう言われて嬉しいよ」

「あたしも! えっと……」

「あ、あたしは美野里さゆです」


 あたしの彼氏の原田良介が紹介する二人は良介の友達とその恋人。 


 二人共、美男美女で噂になるのは納得のビジュアルで、この二人が噂の人たちなんだとすぐに分かった。


 柚木君は金髪に薄茶の瞳。松葉さんの方は薄茶の髪にカラコンでも入れているのか、グリーンの瞳。二人共目鼻立ちがはっきりしていてハーフなんだろうか? それともカラコン?


 りささんの身長はあたしが158なので、頭半分ぐらい大きい? なら168とかかな。良介よりは頭半分ぐらい小さいけど、それでも背が高く感じる。


 対するあたしと良介は、二人共染めてない艶のある黒髪に黒目と焦げ茶の瞳でザ日本人といった風貌だ。


 良介の方はイケメンで意見もはっきりというタイプだからモテる。


 あたしも何人かと付き合ったことがあるからそんなに悪くはないとは思う。でも、教室の片隅で本でも読んでいそうなタイプって言われたこともある。

 だけど、今はそれどころじゃない。 


 柚木君はあたしが中学生の時に助けてくれた男の子にそっくりだった。そっくりというか多分本人が成長したらこんな風になるだろうっていう見た目だ。


 柚木君のことを知れば知る程、あの男の子にしか見えない。


 確かにあの男の子もハーフなのか、どこの国の人だろう? とかこんな綺麗な人間がいるのかと驚いたものだった。


 試しに声を掛けてみたかったけれど、さすがに何年も前のことなんてあたしじゃないんだからたった一日会っただけの女の子なんて覚えている訳じゃないでしょう。


 でも、気になる。


 柚木君にあの時の男の子か聞きたいけど、何となく聞くときは柚木君だけの時がいい。


 そう思うのに、中々二人っきりになるチャンスがない。


 というか、そもそも学部が違うからかそんなに見かけないし、柚木君は松葉さんと大体一緒だから話しかける勇気がないというか。


 人の彼氏に声を掛けるのは何か違うような気がして声を掛け辛い。


 柚木君がせめてフリーだったら……あたしが良介と付き合ってなかったら破れかぶれで聞きに行くのにと思うが、良介がいなければ二人のことも全然知らなかったかもしれない。


 だから、良介がいなければだなんて考えるのは違う。


「あたしには良介がいる……」


 口にすれば、ちょっとだけ気分が落ち込んだような気もしなくはないが、それは気のせいだと、その思考は頭の隅に追いやって考えないようにする。


 いっそのこと中学の時のことは忘れて、柚木君のことも近寄らなければいいだけなんだからと自分に言い聞かせていたら、その内忘れられるはずだもん。


 それまでは、例え胸が痛んだとしても、気のせいだと思おう。


 大学に入ってすぐ、思わぬ出会いがあったけれど、あたしの生活はそう変わらないだろうと思っていた。


「えっ、あの二人も演劇部に入るの?!」

「演劇部じゃなくて映画研究部な」

「どっちでもいいじゃない」


 良介がその映画研究部に入るっていうので、あたしも入ると伝えたんだ。


 そしたら良介も講義であんまり会わないことを気にしてたみたいで、これからはもうちょっと一緒にいられると笑っていた。


 学部が違うと中々会えないことも多いから、あたしも同じ方が一緒にいられるから入ろうかなって思っていたのに、あの二人も入るらしい。  


 あたしだけ考古学で三人は経済学部だ。いくつかの講義は同じのを履修してるけど、殆ど交流なんてないのよね。


 他のところは顔を知ってても、名前までは知らない子とかも結構いる。他の学部にまで友達がいるような子もいるけど、そういう子はさっさとサークルに入ったりとかしていたみたい。


 あたしは社交的な性格でもないから、サークルは入っても入らなくてもいいって考えていたから、他の学部までは友達はいないんだよね。 


 良介はその点他の学部とか関係なくぐいぐい行っちゃうから、その行動力は純粋に凄いって思う。


 あたしに声を掛けてくれたのだって、良介の行動力があってこそだもんね。

 だから、この映画研究部とやらで、もうちょっと二人でいられるようにって思ったのに、あの二人も一緒なら話が違う。


 柚木君のことを考えないようにしたいのに、本人が目の前うろちょろしていたら、いつまで経っても柚木君のことが気になっちゃうじゃない。


 良介のことだけ考えたいのに、このままじゃ感情を乱され続けて疲れちゃう。


 どうすればいいのよ。今からでも入部をやめる? 良介と一緒にいたいから入るって言ったのに、入部もせずに逃げるの?  


 それとも、幽霊部員にでもなる? でも、良介と一緒にいたいって言ったのに、あんまり参加出来なかったらよく思われないよね。


 それに、良介には入るって言っちゃったから変に思われるかも、そしたら柚木君の話までしなくちゃいけなくなるかも。そうなったらギクシャクして良介との仲がおかしくなっちゃう。そんなの考えたくもない。


 良介と付き合っているんだから、良介のことを考えると決めたのに、そんな余裕なくなってしまう。


 今は二人揃って入部する旨を伝えに行くところなんだけど、余計なことを知ってしまった。


 柚木君のことはもう考えないようにしようと思っていたのに、タイミングが悪い。


 今は大人しくしておいて、柚木君とはあんまり関わらないようにすればいいよね。


 忘れたいからといってそのことを伝えるのも、自分が女々しくなったみたいで嫌だ。


 だから、びっくりしたものの、それ以上話題を膨らませるようなことをせずにその話は終了させて新しい話題に切り替える。


「入部してから何すんの?」

「知らね。歓迎会に参加して聞けばいいだろ」

「……そうだけどさ」


 ちゃんと答えてよ。 


 良介はこれ以上答えてくれる気配はなかったから、入部届出す時に先輩とかに聞いてみようかな。


 そうこうしている内に部室に近付いて来た。どんな先輩がいるのかな? あたし勧誘が凄かった時は、どこもあんまり見ずにそそくさと帰っちゃったからどこのサークルも見てないんだよね。


「良介! と美野里さん!」


 だから、先輩が優しい人だったらいいなと思いながらも歩いていると、良介と共に声を掛けられてビックリして振り返ったら柚木さんと松葉さんだった。


 ……あたしは良介のおまけなんだ。


 二人からしたら良介と親しいのだからそうなんだろうけど、ちょっとだけ胸が痛んだ。


 でも、あたしのこと覚えていたんだ。おまけ扱いに胸が痛んだけど、名前を覚えていてくれてちょっとだけ嬉しくなった。


 だって、友達の恋人、しかも一回しか会ったことのない人の名前なんて有名人でもない限り覚えてられないよ。あたしなんて二人に忘れられているのかと思ってた。というか、忘れてて欲しかったよ。


「二人も入部届け出すとこ?」

「そうなんだよ。お前らもか?」

「もちろん! 美野里さんもよろしくね~」

「よ、よろしく」


 松葉さんの明るさに圧倒されている間に、四人で入部届けを出す流れになってしまった。


 今から用事があるからと言って、一人だけ別に出したいですとか言ったら変人扱いされちゃうかな?


 大学入ってすぐに変人扱いされるのは嫌なので、大人しくみんなに着いて行くことにする。


 二人は良介と同じ学部であたしとは違うからそんなに会うことはないんだろうから、このサークルでだけ気をつけていたらいいでしょ。


 だからあたしだけ違うから適当に誤魔化してさっさと帰ってしまおうかなと考えている内に、良介がサークルの部室に入って行っちゃってたからあたしも慌てて着いて行く。


 残された二人と一緒にいたくなくて。というか、あたしのこと置いてかないでよ。


 入部届けだけ出してさっさと帰ろうと思ったけど、先輩たちに歓迎されて中々帰れなくて、そのまま歓迎会となってしまって驚いた。


 思ったより陽気な先輩たちだったみたいで、あっという間に連絡先まで交換。その勢いで松葉さんと柚木君の連絡先までゲットしちゃった。


 けど、これは使うことがないだろうからと、放っておこうとしたが、しばらくはたまにスマホの画面を眺めてはこれが本当に二人の連絡先かと首を傾げていた。


 でも、彼氏の友達と仲良くなる必要ってあったのかな?


 今まで付き合っていた人たちはそんなに深い仲にもならなかったからか、その友人までとはあまり喋ったこともなかったような。 


 まあ、そういうのは人それぞれなんだろうから、あたしが気にする必要なんてないでしょと気にせず過ごしていた。


 だけど、それもあまり長く続かなかった。 


「あれ? 良介は?」


 大学に入学してから一月。


 ようやく大学にも慣れて来たし、新しい生活もなんとかなりそうだと考えながらサークルにやって来たら、まだ壮介が来てなかった。


 さっき講義が終わってあたしがちょっと学生課に用があるって言ったら先に部室に行っていると言っていたのに部室に入ってもいなかった。


 どっかで道草くってるのかなと思ったけど、気になってその場にいたメンバーに尋ねてみたけど、誰も知らないって言う。


 じゃあ、やっぱりどっかで道草くってんだろうな。


 良介のお陰で大学の知り合いが結構増えた。良介はどこに行っても輪の中心にいるような太陽のような人なので、どこに行っても声を掛けられる。


 この間は見知らぬおばあさんと街中でいきなり話だした時にはびっくりしたもん。


 今回もそんな感じで誰かに呼び止められてるんだろう。


 良介に前に貸した講義が被ってる奴のノート返して欲しかったんだけどな。


 あれ提出期限間近の課題があるから帰るまでには欲しいんだけど、探しに行こうかな?


 待っててもその内来るだろうけど、出来るなら早めに欲しい。とりあえず、先輩たちに声を掛けて部室を出る。


 サークルに入って一ヶ月経つけど、先輩たちもいい人たちで何とかやってけそう。


 柚木君のことは意識しないようにって気をつけようとして逆に変な態度取っちゃってないか不安になるけど、誰かに注意されることもないのでそんなに変じゃないんだと思う。そう思いたい。


 喋ることもあるけど、用事がある時だけとかにして、雑談にはあまり入らないようにしているからそんなに関わりがないと思う。


 松葉さんの方はぐいぐい来るから気付いたら松葉さんのペースで話が進んで行くことも多くて毎日びっくりさせれる。


 松葉さんとの関わりをなくせば、自ずと柚木君との関係も全くなくなるんだろうけどなぁ。中々上手くいかないものね。


 そんなことを考えながら歩いていたら良介と誰かが話している声が聞こえて来た。


 誰だろう? 近付きながら聞き耳を立てていたら段々と相手の声が聞こえて来た。この声は松葉さん? 何の話をしているのかな?


 二人共陽キャだし、同じ学部だから話すことも沢山あるんだろうけど、わざわざ足を止めてまで話すようなことでもあるのかな?


「……あたしね、大学に入ってすぐに清司の友達だって紹介された時に原田君のこと好きになった。だけど、原田君には美野里さんがいるから諦めなきゃって思ってたんだけど……」


 待って何の話?


 聞こえて来た話の内容に思わず足を止める。


 良介の声は聞こえて来ない。でも、松葉さんの声はしっかりと耳に届く。


「え? ああ、清司は、本当は清司とは付き合ってないの。清司は幼なじみでお互いに恋人もいなかったし、清司にも最近気になってる人がいるって言ってたから付き合ってたフリしてたの……あたしが身勝手なのは分かってる。でも、あたしのこの気持ちは原田君に知ってて欲しいの!」

「俺は……急に言われても……」

「分かってる。美野里さんがいるのは……でも、これ以上自分の気持ちに嘘はつきたくなかったの。だからあたしの気持ちを分かって欲しかったし、あたしのこともちょっとでも考えて欲しいの! ちょっとだけでいいから」

「……分かった。すぐに返事を出来るかは分からないけど」


 良介の声まで聞こえて来た。その頃には全身が氷水を掛けられたみたいに冷たくなっていた。だけど、二人の会話は耳に入ってくる。 


 あたしはこれ以上聞きたくない。


 もうやめてくれと二人の前に出る。


「っ!」

「あ……」


 びっくりする二人を見て、本当はここから逃げて聞かなかったフリをするべきだったんだろうと察する。だけど、それはあたしには出来なかった。


 二人はあたしを見て驚いた顔をした後、それぞれ違う反応を示した。良介はすぐにあたしから目を反らし、松葉さんは顔を下に向けた。


 その動きにあたしは反射的に良介の顔をひっぱたいて、その音に反射てきに振り向いた松葉さんは、口をあんぐりと開けたのを両手で隠す姿に松葉さんのこともひっぱたいてその場から走って逃げた。


 逃げたけど、走って逃げたあたしを追う者はいなかった。


 サークルに荷物を置きっぱなしだったからそれだけはと、あわただしくサークルにまた顔を出してその場で退部した。


 先輩たちには理由を聞かれたけど、今口を開いたら泣き出してしまいそうだったから理由は言わず、荷物だけ持ってここも逃げた。


 家に帰って鍵を閉めてすぐに涙が溢れて来た。


 さっきからスマホが鳴りっぱなしだけど、それに出る勇気もない。というか、どんな顔して電話なんて掛けて来ているのよ。


 電話なんて出られる訳がない。スマホの電源を落とし、よろよろと家の中を移動する。


 大学からは一人暮らしするからって家を出てよかった。こんな顔見せたら家族に心配させちゃうところだったんだもん。


「ひっ……くうっ……」


 ふざけないでよ。あたしは柚木君への気持ちに蓋しなきゃいけないって頑張ってたのに、それなのに松葉さんもだけど、良介も良介よ。


 何であの時松葉さんのことはっきり言わないで言いよどんだのよ。あれって松葉さんの言葉で揺れたってことでしょ?


 意味分かんない。


「うわぁぁああ……」


 あの二人にとってあたしなんてどうでもよかったんだ。


 でも、そうよね。あたしも自分で良介に付き合おうって言われてから結構半信半疑だったんだもん。良介も軽い気持ちだったのかもしれない。


 でも、あたしは今胸が痛い。この気持ちは紛れもなくあたしのものだ。


 松葉さんいい人だと思っていたのに、実際は良介のことが好きで、いつも一緒にいたあたしのことなんてどうでもよかったんだ。


 良介も良介ですぐに断るなり、返事するなりしてよ。あたしが聞いてると思ってなかったからああやって気をもたせる言い方をしたの?


 意味分かんない。 


 のろのろと部屋の中に移動して、電気もつけないままその日は泣き疲れて眠ってしまった。




◇◇◇◇◇◇  




 大学は二週間程サボってしまったけど、最近ようやく大学に行けるようになってきた。


 途中で学部が違うから気をつけていたらあの二人には会うこともないだろうと気づいたから。


 二人のことはブロックした。ついでに柚木君の連絡先もブロックした。柚木君は悪くはないのだろう。 


 でも、松葉さんとも仲がいいのは何度も見ているから知ってるし、二人が元々幼なじみだって言っていたのも聞いた。


 それに松葉さんが柚木君と付き合ってるフリをしていると言っていたからもしかしたら柚木君も共犯の可能性だってある。


 そうだとしたら、二人が柚木君を通して連絡してくるかもしれないので、柚木君もブロックする。


 二人からのメッセージを見れないのに、あの二人と繋がっている柚木君をそのままにしておける訳がない。


 そこにあるのも嫌だけど、後から何が書いてあったと気にするようになる日が来るとは思えないが、もしかしたらいつかはあるかもしれないと考えたら消すまではと考えたら、消せなかった。


 今は見れないけど、いつかは過去のことと処理出来るようになったら、その時は見たくなるかもだし。


 大学に着くと二人のどちらかが待ち構えているかとびくびくしていたのに、二人の姿は見えなかったので安心する。そうだよね。あれから二週間ぐらい経ってるもん。さすがに、あたしのことを待っている訳ないよね。


 もしかしたら何かあるかもと考えていただけに、拍子抜けしたと言えばそうだけど、でも、いたらいたでまた逃げ出すぐらいしか出来ないだろうから、これでよかったのよ。


 ホッとしつつ教室に行けば、友達が待っていたので軽く挨拶して、友達に休みの間のノートを写させてもらってたりしたらあっという間に時間が経ってしまっていた。


 コピーすればよかったかな。でも、地味に量多いからそれなりに散財してしまうよりはいいよね。


 休憩ついでに、カフェでお茶をしていたら友達の一人の幸恵が声を掛けてきた。


「あ、そういえば、さゆの彼氏とその友達が何度か来てたよ」

「え!?」


 その話を聞いてひやりと背筋が冷えた。やっぱりあの二人はあたしのこと探してたんだ。 


 幸恵の話にしばらく大学をサボっててよかったと思わずにはいられない。


 あの二人のことを今日は見てないから安心していたけど、あの場面を見た直後も大学に来ていたら、あの二人の言い訳を見せられていたかもと考えたら気分が重くなった。


「さゆ休んでたから、いないって答えたけど、何かあった?」

「何でもないよ」


 最初はそうやってのらりくらりと話を逸らそうとしたけど、あたしの歯切れが悪かったのか、幸恵は何かに気付いたみたいで、しつこく聞いて来るので根負けしてついことの顛末をかいつまんで話してしまった。


「──という訳であたしはあの人たちに会いたくないの」

「なにそれあり得ない!」

「あたしたちが追い返してあげるわ!」

「いや、ここは徹底的にやり込めちゃう?」

「賛成!」


 だけど、あたしの予想とは違って幸恵たちは二人を追い払ってくれるだけじゃなくて、ぎゃふんと言わせてやると息巻き出した。


 その姿に最初あっけに取られていたけど、勇ましい友人たちの態度に笑ってしまった。


 恋人には恵まれなかったけれど、あたしにはこんなに優しい友達には恵まれたみたいで嬉しくなる。


「みんな落ち着いて。ほどほどにしないとあたしたちが悪者になっちゃうよ」

「あら、さゆはそれぐらいやっていい権利があるんだから」

「そうだよ。あたしだったら両方とも百発ずつ殴ってるわよ」


 過激な発言だったけど、思わず笑ってしまった。この子たちがいなければ、馬鹿みたいにびくびくと大学生活を送っていたかもしれない。


 あたしが悪い訳じゃないんだし、そこまで気にする必要はないんだろうけど、あの二人を見てしまえば、自分がどういった反応をするか分からない。


 あまり過激なことはしないでねと伝えたけど、みんなのお陰で気持ちは大分と落ち着いたし、彼らと共通の授業以外は過ごしやすかった。


 問題は学部の関係ない選択授業。これはあの三人も取っている講義がいくつか被っているのがある。


 講義が始まるギリギリに入室して一番後ろに座って、終わるなり教室を出て行くを繰り返しているけど、結構大変。


 ちょっとでももたもたしていたら三人に見つかってしまう可能性もあるというか、実際に捕まり掛けた。


 その時は、みんなが足止めしてくれたお陰で、何とか逃げ切ることが出来たけど、いつまでも逃げ切れる訳がないのは分かってる。


 ただ、今は心が落ち着くまでは良介たちとは会いたくないというか、関わりたくもない。


 講義が終わるといつまでも大学にいても仕方ないので、早く家に帰るんだけど、でも、それだと鬱々した気持ちがいつまでも続きそうで、家に帰りたくなくてバイトを始めることにした。


 最初は慣れないことばっかりだったけど、慣れたら楽になったので、コンビニと配達の掛け持ちでバイトすることにした。


 配達はダイエットになるしと始めたけど、自転車を漕ぐからか三人から逃げる時に逃げ足もはやくなった。


 これは思わぬラッキーだったし、よく動くようになったお陰か体重もちょっとだけだけど、減っていいことばかりだ。


 そんなことをしている内に一月ぐらいが経っていて多分そろそろ大丈夫かなって頃、良介と松葉さんが付き合い出したという噂を聞いた。


 あの二人が付き合い出した噂はあっという間に広がった。そりゃ、松葉さんは美人だし、柚木さんと付き合っていたから美男美女のカップルだって注目されていたもん。


 学部の違うあたしのところまで耳に入ってもおかしくはない。


 幸恵はこの噂に怒っていたけど、あたしとしてはまだあまり触れたくもないことなのでスルーしていた。だけど、一月ってあんまりにも短い期間じゃない?


 そりゃ、あたしが逃げ回っていたのが悪いかもしれないけど、あんな場面見たら誰だって逃げたくなるでしょ。


 もし、逃げずにあの二人にどういうことだと問い詰められる人がいたらかなりのメンタルお化けよね。


 あの時ひっぱたいただけでもあたしにしてはかなりやった方だ。というか、ひっぱたいたことだけで言ったらあたしが悪いと言われてしまう可能性だってあったんだから気をつけなきゃいけなかった。 


 あの二人が付き合ったことはちょっともやもやしたけど、もう自分には関係なくなったと気持ちを落ち着けている間に事件が起きた。


 もうあの三人と関わることはなくなって平和に過ごせると思っていた。それなのに、何故か柚木君があたしの前に現れたの。


「久しぶり」

「……そうですね」

「同い年なんだから敬語使わなくていいよ」

「ソウデスカ」


 警戒しているのが分かっていて無視しているのか、分かってなくてやってるのかは、柚木君の表情からは読めないけど、あたしはあなたとはあなたたちとはもう関わり合いになりなくないという意味を込めて、そのまま敬語でジリジリと距離を取るが、すぐに柚木君が近付いて来るので、逃げれない。


「あのさ、リサと良介のことは──」

「あの、その話は聞きたくありません!」


 思ったよりも大きな声が出てしまって、自分でもびっくりしてしまったが、言ってしまった以上は仕方ない。まだ教室に残っていた人たちの視線が痛い。


 その視線に恥ずかしくなって、俯けば、頭上からふっと笑うような声が聞こえてきて、何事かと顔を上げたら柚木君が笑っていた。


 その顔はあたしが中学の時に見た男の子がいた。


 思わずその笑みに見惚れてしまいそうになって慌てて、視線を反らす。確か柚木君ってどこかとのハーフって聞いたことがある。


 だから、容姿が整っているのかとあの時は納得した。


 本当ならこの場を離れた方がいいのは分かっている。


 だけど、あの二人がくっついたのならば、この人があたしに構う必要はないはずなのに、ここでこの間のことを話そうとする。でも、あたしはあの二人のことはまだ聞きたくない。


 良介と別れたっていう実感もまだないので、人から聞きたくないのよ。


「あの、あの二人がくっついたのは噂で聞いています。ので、別に聞きたくはないので」

「うん。そのこともあったけど、別の用もあって」

「別の?」


 今さらあの時のノートを返してくれるというのだろうか? でも、それでこの人がわざわざ来るの?


  あの二人はブロックしてるから仕方ないとしても、たった一日分のノートがなくたって、後で誰かに借りればいいだけじゃないの?


 実際あたしはあの日のノートと課題は諦めた訳だし。


「うん。ここじゃなんだから移動しよう」

「は?」


 移動? どこに? というか、教室で出来ない話なの?


 ついて行っていい話なのか分からないけど、気付いた時には手首をしっかりと握られて、大学の隅の方に連れて来られてしまった。


「何の話ですか? あたしこの後バイトなので」

「ああ、うん。手短に放すよ。あのさ、リサが良介に告白した時に話を聞いていたらしいじゃん」

「盗み聞きしたの責めてます? あんなところで話してたら誰だって聞いてしまいます!」


 あたしだってあんなシーン見つけたくなかった。


 でも、聞いてしまった以上仕方なくない? それに、これはあたしとあの二人の問題なのに、何で柚木君まで出てくるの? 関係なくない?


「違う。そうじゃなくて、俺とリサが付き合っているふりしてたのも聞いてたってことだよね?」

「え? ええ」


 あんまり大事なことじゃなかったから、すっかり忘れていた。


 さっきまでカッとなって柚木君のこともひっぱたいて逃げようかと思っていたのに、何が言いたいのか分からなくなって、曖昧に頷く。


 これは、柚木君の主張を一回聞いてからの方がいいやつかもしれない。黙って聞いてから返事をしよう。


「実は俺、君のことが好きなんだ」

「は?」 


 何を言ってんだこの人は──


「君は良介と付き合ってたから諦めないといけないと思ってたら、リサが良介のことが好きになったって言うから」

「……何それ」

「ん? あ、俺は二人がくっつけばいいとは思ってたけど、君の気持ちが分からなかったから二人のことは放っておいて協力はしなかったよ」

 違う。あたしの言いたいことはそうじゃない。

「実は俺、中学の時から君のこと知ってたんだ。だけど、別の学校だったのか全然会えなくて、大学で再会出来た時に」

「──もういい!」


 それ以上聞きたくない。


「えっ、でも……」

「聞きたくない。聞きたくないの!」


 だって、柚木君もあの時にあたしのこと覚えていてくれたってことでしょ?


 しかも、両想いだったって普通なら喜ぶところなんだけど、あたしが感じたのは違った。


 だって、柚木君はあの二人とは関係ないかもと思いたかったのに、あの二人がくっつくのを黙って見ていただけじゃなく、今さらあの時のことを持ち出すなんて嬉しくない。


 あたしのこと覚えてたのなら、最初から言ってくれていた方がよかった。それだったら良介のことで悩む必要もなかった。


 もう何も知りたくない。


 柚木君と再会なんかするんじゃなかった。そしたら今も中学の時のいい思い出になってたはずだもん。


 それなのに、どうして今さら言うの? あたしは最初に言って欲しかった。 


 もう自分の感情が分からないぐらいぐちゃぐちゃで、わめき散らしたいぐらいだったけど、それをするのには自分のちっぽけなプライドが許さなかった。 


 でも、このまま柚木君と話を続ける気になれなくて、よろよろとしながらこの場を去ろうとしたけれど、もう一度柚木君に手首を掴まれた。


「何? あたしもう戻りたいんだけど……」

「俺は美野里さんのこと諦めたくないんだ。ここでさよならなんて言わないよね」

「……知らない。勝手にすればいいよ」


 あたしはもう何も考えたくないの。


 だから、離して欲しくて適当に返事をしたんだけれど、柚木君はそれでもよかったみたいで、手を離してくれたからあたしはその場を足早に立ち去った。


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