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第4話 地中に隠されていたもの


 城から出た俺は、吹き付けてくる風に目を細めた。


 我が居城、紅竜城は紅の大地のほぼ中央に鎮座している。そそりたつ山の中腹に築かれた、天然の要害だ。これまで幾多の勇者たちを、この地で退けてきた。


 眺めがすこぶる良い。

 だからこそ、軽く絶望した。


「改めて見ても……本当に何もないのだな。我が領地は」

「はい。そうです」


 間髪入れずフィアが頷く。俺は密かに傷ついた。


 見渡す限りの荒野、昼夜問わず空を覆い続ける灰色の雲。

 とても人間が暮らせる土地ではない。

 乾いた風でたなびく髪を押さえながら、フィアが言う。


「加えて、紅の大地全土の情報も不足しております。ダンジョン、地下資源、ヴェルグ様の支配下にない野良魔物。どこになにが、どのくらいあるのかさっぱり把握できておりません。なにせ人手不足ですので」

「お前、そこまでバッサリ言わなくていいだろ……」

「領地再建計画、第一段階からわりとお手上げです」

「もしや俺を精神的に殺しに来ているのではあるまいな?」


 俺が恨みを込めて呟くと、フィアは小さく微笑んだ。


「ですが、逆に言えばどのように開拓するかは自由ということです。ヴェルグ様であれば、どんなことだって成し遂げられるでしょう。私はそう信じております」

「……ふん」


 ばつが悪くなって空を見上げる。


 まさか早々に部下から励まされることになるとは。

 先代魔王陛下が見たら失笑されるだろうな。

 しかし、フィアの言うとおりだ。何もない? 上等だ、俺がゼロから創り上げてやろうじゃないか。理想の街、理想の国を。


「突っ立っていても仕方ない。フィア、城下に降りるぞ。まずは城周辺の調査だ」

「人間どもをたぶらかしには行かれないので?」

「言い方。……その人間どもが暮らせる環境を用意するのは、俺たちの役目だろう」

「かしこまりました」


 フィアとともに、目の前の崖を飛び降りる。一応、城までの道は造られているが、この方が早い。

 生身の人間なら間違いなくミンチになるだろう高度を、軽やかに降りる。


「ふむ。この辺りは比較的平坦で開けているな」


 城からほど近い場所にやってきた俺は、辺りを見回しながら頷いた。フィアに尋ねる。


「ここに人間用の畑を作るべきだろうか。どう思う、フィア」

「家畜用ですか?」

「人間用だ。お前、もしやわざととぼけているのではあるまいな」

「そんなまさか」

「……」

「……」


 こいつ、浮かれている?

 俺の冷ややかな視線でさすがに「まずい」と思ったのか、フィアは小さく咳払いをした。


「我々魔族であれば大地に溢れる魔力だけでも生きていけますが、人間はそうはいきません。よい考えだと思います。ただ」


 フィアがその場にしゃがんだ。細い指で地面をなぞる。


「このように乾ききった土地では、人間用の作物はまず育たないでしょう。何より水が足りません。人間でも飲用可能な清らかな水が必要です」

「水か……」


 城に井戸はあるが、あれだけで大勢の人間をまかなうわけにはいかないだろう。そもそも人間が口に出来るかわからない。


「地下に水源が眠っていればよいのだが」


 そう呟いたときである。

 突如、視界がモノクロに変化した。


『【貪欲鑑定】が発動しました』


 フィアのときと同じ、周囲の時間経過がひどく緩やかになる。大地から巻き上げられた砂埃が、白黒の世界でほぼ制止していた。

 まさかこのタイミングで発動するとは。


 視界に複数の光点が浮かぶ。それらは地面の一角に集まり、一つの映像を映し出した。

 それは、地中に眠る聖なる力の塊。それと、その力で守られるようにして浮かぶ、植物の種だ。


 光点がメッセージを紡ぐ。


『地中に隠された聖魔の力、テリタスの種を発見しました』

『さらに数メートル下に水源あり』


(テリタス……間違いない。先王陛下が愛されていた花の名だ)


 赤と白の鮮やかな色合いを持つ種皮。水晶のような美しい形。植物の種ではとても珍しい外見のテリタスを、俺が見間違うわけはない。

 かつて先王陛下が愛し、聖剣をいただく聖地だった名残だ。


(聖なる魔力に、種、そして水。まだ紅の大地は死んでいない)


 鼓動が高鳴る。

 同時に【貪欲鑑定】が解除され、世界に色と時間が戻る。

 フィアが怪訝そうに首を傾げ、すぐに何かに気付いて声をかけてきた。


「ヴェルグ様。もしや今しがた、【貪欲鑑定】を発動されたのですか?」

「ああ。おかげで面白いことがわかったぞ」


 俺は【貪欲鑑定】で得た情報をフィアに伝えた。彼女は感じ入ったように呟く。


「ヴェルグ様のスキルに、そのような使い方があるとは」

「まったく、嬉しい発見だ。これはますますこのスキルを極めていく必要があるな」


 にやりと笑った後、俺はふとフィアに言った。


「フィア。お前、花は好きか?」

「え?」

「花があれば、お前は嬉しいか?」

「え、えええっ!?」

「ならばここに、花畑を作るのもよいかもしれないな」


 俺はひとり頷く。

 最初の一歩として、先王陛下の愛した花を復活させる。うむ、悪くない。

 俄然やる気が出てきた。

 こうなるとますます、土属性魔法の遣い手が欲しくなる。


「ヴェルグ様が私のために……?」などとブツブツ言いながら頬を押さえていたフィアが、ふいに後ろを振り返った。


「ヴェルグ様」

「どうした?」

「たった今、人間の魔力を感知しました。紅の大地に踏み入り、こちらに向かっている者たちがいるようです。無謀にも」

「無謀? ……ああ、なるほど」


 フィアの言いたいことがわかった。

 よくよく注意しなければわからないほどの微弱な魔力。このような歯牙にもかけない程度の力で、紅の大地にのこのこやってくるとは。

 確かに無謀である。


「数は3。うちひとつに土属性の魔力を感じます」

「よし、でかした。そいつらと接触しよう」

「しかし、ヴェルグ様ともあろうお方が、このような弱く愚かな輩に頼らなくても」

「本当に雑魚で大馬鹿者かどうかはこの目で確かめる。行くぞ、フィア」


 かしこまりましたと頷くフィアを引き連れ、俺は跳躍した。




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