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五十三、血を流しても 

 五十三、血を流しても 


 顎の下からの出血はおさまらない。でも姉の痛みはこんなものではなかったはず。真心は必死で舌を動かして声を出す。


「あなたたちは……被害者なんでしょう? 苦しみを知っているはずの被害者が人を苦しませて楽しいですか?」


 銃声に気をとられていた黒服たちが再び真心に目をやる。


 この島は恨みの成分でできている。土、コンクリート、無理やり植樹された森もすべての材料が恨みで加工されている。こんな島はあってはならない。


「おばあちゃんが言ってました……。人を恨んではならないと。恨みの感情からは何も生まれない……」


 こんな島に来てしまったことを後悔した。早く帰りたかった。でも帰ってこの島のことを知らんぷりして生きていくのは辛かった。


「その辺にしといたら、出血で死ぬわよ」


 一人の黒服がそう言うがもう、構わない。その時、突然食堂のドアが蹴破られた。


「全員手をあげろ」


 男の人の声だ。真心は首を動かすことができないから誰かわからない。


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