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第10話『後悔と願望』

 ギャルを怒らせるととんでもなく怖い。

 小谷は落胆した様子で、その場に膝から崩れ落ちた。


「俺……もうダメだよな、沢辺を怒らせちゃって……こんなんじゃ温かい家庭なんて作れないよな……」


 女漁りをしてからの、小谷の幸せな家庭像が僕には想像できない。かける言葉が見つからない。


「うっ、ううっ……ゲボ、カハッ、おえっ……グズ……」 


 嗚咽しながら泣き始めた小谷の背中を擦る。


 「俺もあの時手挙げてたら良かった」と泣きながら後悔をし出す小谷。肝心なことを忘れていそうなので、一応伝えてみる。


「手挙げてもどうせ、僕と相田さんしかいないんだけど? 沢辺さんじゃなかったら、小谷のパートナーは相田さんになるよ?」


「はあ? んなの分かんねぇじゃん! 相田はイヤだけど……もしかしたら……ほら、他にもいるかもじゃん!?」


 沢辺さんでも相田さんでもなく、他の女子がいてくれることを願う小谷。つくづくどうしようもない。


「誰でもいいんなら、国が決めた人となら温かい家庭を作れるんじゃない?」


 それはイヤなのか、小谷は「頑張って仲直りするから、矢野と飯倉協力して」と、僕たちに協力するよう求めた。


 矢野まで巻き込むのかよ……

 ちらっと矢野を見てみると、あからさまに面倒くさそうな表情をしていた。


 そうだよな、矢野は絶対嫌がるって分かってた。


「てめぇが撒いた種だろうが、飯倉なんとかしてやれよ」


 そう吐き捨てて、矢野は教室から出て行ってしまった。


 ……いや、なんとかしてやれって言ったって。女子とまともに話したことない僕に、なにをどうしろと?



「もう泣くなってば、ほら、肉まん奢ってやるから」


「肉まんごときで俺が釣られるか!」


 あんまり話したことなかったけど、小谷って面倒くさい……


「じゃあ、ほら……えーっと……飲み物も奢ってやるからさ」


「……牛丼」


「え?」


「牛丼食べたい! 汁物付き!」


 ……ええっ。牛丼!?


 すかさず自分の鞄の中の財布をチェックする。2000円はある。今月はあと2000円で乗り切らなきゃいけなかったのに……


 キツイなあ。でも奢ってやるって言ったしなぁ……


 中身をチェックをした後、財布を閉じ、小谷に目を向ける。小谷の元気がなくなって、学校来れなくなったりしたら本末転倒だもんな。


「分かった。奢る!」


 こうして僕は小谷に牛丼セットを奢るハメになった。

 沢辺さんと上手くいくように説得して、牛丼まで奢るって……くそう。この借りはいつか絶対に返してもらう。




 牛丼屋に着き、小谷が先ほどのように急に泣きだしても良いように人目がつかない席へと座った。料理を注文して、運ばれてきた牛丼を食す。


「は~生き返る~!」


 もりもりと牛丼定食の大盛を食べる小谷。

 食べっぷりの良い小谷を見ながら、僕も並の牛丼を食べる。


「……あのさ、小谷、ちゃんと相田さんにも謝ってよ?」


 忘れていそうなので大事なことを伝えると、小谷は汁物を一口すすり僕を見た。


「はあ!? なんでだよ!」


「なんでって、小谷が悪いからだろ。それに僕、相田さんと隣の席だし。相田さんが機嫌悪かったら僕もその……居心地悪いんだからな」


 相田さんが機嫌悪かろうが今までも特に困りはしていないけれど、小谷は僕のことを「ビビりだなー」と小心者扱いしながらもうんうんと頷いた。


 恐らく反省はしていなさそうだ。


 さっき相田さんに怒鳴られて泣いてたくせに。小谷も十分小心者だろうが。


「ちゃんと僕の話聞けってば。相田さんに謝らないなら、もう、沢辺さんとの仲取り持ってやらないからな!」


 小谷はええーと不満気な声を出しながらも最終的には分かってくれた。


 だが、翌日、学校に行くと小谷と沢辺さんの姿がなかった。

 二人だけではない。隣の席の相田さんもいないし、矢野もいない。というか、一定数の、昨日揉めた人間がごっそりいない。


 もしかして先生に呼ばれてる?

 問題起こしたから謹慎とか? 嫌な予感しかない。というか、普通に席に座っていいんだろうか、職員室に行った方がいいんだろうか。


 分からないので、困惑しながらもイスに座ると、僕が避ける前はずっと一緒に行動していた前田が僕の席へとやってきて話しかけてきた。


「おはよ」


「ああ……うん、おはよう……」


 喧嘩したわけでもないのに変な緊張感が体中を巡る。


 あれ……今まで前田とどういう風に接してたっけ。そんなことを頭の中でぼんやりと考えていると、前田はもう一度口を開いた。


「担任から一階の空き教室に来いって伝えてくれって言われて……」


「え?」


「飯倉に言ったら分かるからって。それだけ、じゃあ……」


 前田は必要最低限な連絡事項を僕にそう伝えると、気まずそうに僕の席から離れてしまった。


 ……なんだ。頼まれたからイヤイヤ話しかけてくれたわけで、僕と話したくて来てくれたわけじゃないのか……


 前田の背中を見ながら、そのまま教室から出て1階の空き教室へと向かう。


 恐らく昨日呼ばれた空き教室で合っているだろう。多少の恐怖を抱きながらドアを開ける。そこには担任と向かい合う形で相田さん、小谷、沢辺さん、そして矢野と柊さん、同じクラスではない橋本くんが何故か一列に並べられたイスに座っており、橋本くん含め皆の視線が一斉に僕に向いた。


「……す、すみません、遅くなりました」


 あらかじめ「ここに来い」と言われていたわけではないけれど、空き教室と聞いたら自然とここに足が向いた。そして、遅刻したわけでもないのに「すみません」と言わなければいけない雰囲気だった。


 僕はいったい、何回視線を浴びせられればいいのだろう。


 橋本くんは僕にひらひらと手を振ってくれていて、僕も小さく振り返す。この瞬間だけ橋本くんがいてくれてよかったと感じてしまった。

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