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第9話『過ちは消えない』

 って……矢野が言い出しっぺだろ!?

 なんで言い出しっぺがのんきに窓の外眺めてんだよ。小谷だけではなく、他の男子も「マジかよー」と落胆している声が多い。


 先生に聞いていた話と違う。

 皆、納得してないんじゃなかったのか?


 まさか小谷のように『不満はない』と答えたがために、先生は『じゃあ、納得もしていないんだな』と、いらん勘違いをしたのだろうか。


 これでいいと思っている人もいるんなら、その人たちは離れ離れにさせちゃダメだ。


 その人達の意志を伝える役割は恐らく僕しかいない。その一心で手を挙げる。


「なんだ、飯倉」


「皆が納得しているならこれでいいんじゃないでしょうか……」


「んんー……でもなあ……」


「じゃ、じゃあ……皆に顔を伏せてもらって、納得していない人達は先生が言った案に賛成するっていうのはどうでしょう!? ね、相田さん!」


 どうしようもなくなってしまい、隣の席の間さんに助けを求める。相田さんはコクリと頷いた。


「あたしは飯倉の意見に合わせるよ」


 ……よし! そんなこんなで僕が申し出た言葉の通り、机に顔を伏せた状態で不満がある人は手を挙げてもらう形式となった。


「それじゃあ、皆顔を伏せろー! 今現在パートナーはいないけど、国に結婚相手を決められたくないヤツは手を挙げろー」


 迷いなく手を挙げる。この質問には相田さんも手を挙げているはず。


「うん、分かった。下ろして良いぞ。今のパートナーと結婚をしたくないヤツは手を挙げろー」


 誰が手を挙げているんだろう。

 この時間がとてつもなく長く感じた。


「……うん、下ろしていいぞ。よし、皆顔を上げろー。以上だ。今手を挙げた者達については、後日集まってもらうとして、今手を挙げなかった者達は卒業までに別れることになったら、強制的に国が決めるからな。悪いが、そういうルールになっている」


「ちょ、ちょっとまってよ先生! 卒業までにパートナーを作ればいいんでしょ!?」


 クラスメイトが意見を述べる。

 確かに言っていた。矛盾する主張に、小谷以外も暗い表情を浮かべる。


「先生! もう一回! もう一回やり直そう! ダメになったとして、別のヤツと交際したらダメとか……そんなの聞いてなかったし……な、皆!」


 小谷の言い分は理解できなくもない。


 けれど、そんなの「今のパートナーとはダメになっても卒業までに新しいパートナー見つけます」と言っているようなもんだ。


 なんにせよ小谷の今のパートナーが可哀想すぎる。誰だっけ、沢辺さんだ。


 廊下側の前方席の沢辺さんに後ろから視線を移す。微動だにしない。後ろからじゃ表情がわからない。


「ダメだ! 二度はない! 以上だ!」


 先生の意思は思ったよりも固かった。

 話し合いが終わった後、案の定小谷はパートナー、沢辺さんに詰められている。


 ……にしても、「パートナーと結婚したくないヤツ」って誰が手を挙げたんだ? 後日、揃って話し合いだなんて。


 その中から、僕らの結婚相手は決まってしまうということなんだ……

 もう何が良くて何がダメなのか、自分がどうしたいのかすら分からなくなってしまう。


 小谷は大声で『飯倉!』と、僕の名を叫んだ。


「な、なに」


「……おまえだろ、先生に変なこと言いつけたの」


 小谷の怒りの矛先が完全に僕に向いてしまった。


「なんのこと?」


「とぼけんじゃねぇよ、おまえだけパートナーいないからって、僻んでるんだろ! 前まで前田達と一緒にいたのに、いつも一人で行動するようになったじゃねぇかよ! 同情してほしいの見え見えなんだよ」


「別に同情してほしいわけじゃない。それに、僕が前田達と一緒にいないのは気を遣わせるの悪いかなって思ったんだよ……」


 僕の言葉に小谷の怒りのボルテージは高まっていく。


「だいたい、お前と相田さんがさっさとくっつけばこんなことになってねぇだろうが!」


 ……な。全部の責任を僕と相田さんに押し付けようとする小谷にイラッときた。


 めちゃくちゃだ。どうしたらいいんだと、肩を落としていると相田さんが小谷に近づき胸倉を掴んだ。


「おい、小谷。てめぇ、何が不満なんだよ。沢辺がいんだろ、そいつを大切にしてやればいいだけだろうが。まさか体の関係になるだけなってポイするわけじゃねぇよなあ?」


 ――っ……や、やばい! どうしよう……


 教室にはまだ数人いる。もちろんさっきまで小谷と言い争いをしていたパートナーの沢辺さんも近くにいる。


 このまま沢辺さんを教室にいさせるわけにはいかない。

 でも僕は柊さん以外の女子と話をしたことがない。


 残っている数人の中に柊さんもいたため、沢辺さんを教室から出すようにお願いする。


「柊さん、ごめん。沢辺さんと一緒に教室を出てほしいんだけど……」


「うん、分かった」


 僕に話しかけないでと言っておきながら、最終的に柊さんを頼ってしまう。とてつもなく情けない。


 柊さんの誘導で、残っている皆が鞄を持って次々と教室を出て行った。


 そして教室に残ったのは小谷と僕と相田さんと矢野。


 こういう状況に出くわしたら絶対に矢野が一番先に帰りそうなのに。

 矢野は相田さんと小谷の相田に入るわけでもなく、二人の様子をただただ眺めているだけだった。


 矢野が仲裁で入ってくれれば事態は治まりそうなのに。



 小谷はまた大きく声を荒げる。


「結婚なんて分かんねぇよ俺! 強制的に結婚だなんて……せめて卒業まで女を漁ったっていいじゃん! 矢野もそう思うだろ!?」


 小谷はふいに矢野に助けを求めた。


「いや、こんな時に女漁りはねぇだろ……」


 矢野に否定された小谷はどこか寂しそうで、さっきよりも覇気がない声で答える。


「矢野はクラスで一番カワイイ柊さんとパートナー組めてるから、そういうこと言うんだろ! 俺だって柊さんと組めてたら……女漁りなんてしない!」


 ――恐らくこれは小谷の本心なのだろう。


 相田さんは小谷の胸倉を離し「キッモ!」と、一言吐き捨てて教室から出て行ってしまった。

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