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第7話『追われなくなると求めてしまう』


 いまいち何を考えているのか分からない橋本くんと一緒に職員室に入り、橋本くんの担任のデスクにノートを置く。


 相田さんはまだ担任の先生と話中だ。ふいに担任の猿渡先生と目が合った。


「おお、飯倉。ちょっと来い!」


 先生から呼ばれたため、橋本くんに先に戻るよう伝える。

 駆け寄ると相田さんの隣に並ぶように言われた。


 ……なんかイヤな予感しかしないな。


「お前たち卒業まであと半年しかないが……どうするつもりだ?」


 国が決めた結婚の制度のことを言っているのだろう。

 先生も僕達がハブられていることに気づいているようだ。


 僕からしてみたら誰も反対する人もいなくて、すんなり受け入れていることの方が異常事態なのに。

 相田さんは黙ったままな為、先生の視線が自ずと僕に向けられる。


「それは……まだ……分かりません」


「まあ、個人間の問題だから先生達は首突っ込むことは、余計なお世話かもしれんがな……国からも協力してくれって通知がきててな。それに、担任としてはおまえ達には幸せになってほしいんだ」


 幸せになってほしいは建前で、国からの要望だから親身になっているのだろうということは分かった。


「……は、はあ……」


「そこで、個別で一人一人面談を取ろうと思っている」


 ……え、面談……?


「いや、でも……皆、パートナーが決まっちゃって。今さら面談なんて……」


「オレは妥協でパートナーになったヤツもいると思うんだがな」


 ――妥協して……

 確かに、皆が皆、自分の好きな人や気になっている人と一緒になれたわけではないと思う。


 だからって、面談で解決できることなんだろうか。


「おまえらの意見を聞きたいんだ。相田と飯倉はどう思う?」


 そんな事を言われても……


「あ……相田さんはどう思う?」


 僕には決められないので、責任の半分を相田さんに押し付けるように聞いてみた。


「私はよく分からないから先生と飯倉くんで決めていいよ」


 だが、相田さんは僕の策には動じなかった。

 相田さんに決めてほしいという僕の心は見透かされているのだろうか。


 どこかうんざりしている相田さん。

 心なしか「いいから早く終わってくれ」というような感情が読み取れる。


 もしかして先生はずっとこの話を相田さんとしていたのだろうか。相田さんは先生の机を見るなり、


「……一人一人面談を取るのなら、柊さんの意見も聞けるかもね」


 思い出したように口にした。

 ボソッと吐かれたその言葉に、僕の背筋がピンと伸びた。


 ――相田さんもしかして嫉妬してくれている? それならちょっと嬉しいかも…なんて自惚れてしまった。


 面談関係なしに、僕もあの話し合いにおいて伝えたいことがあった。


「あのクラスの話し合いは……公平ではないと思います。矢野は1限目は今後どうするかの話し合いだったと言っていました。矢野が言い出しっぺだと思います。僕たちのクラスは矢野に逆らえるヤツはいません。理由は矢野が一番かっこいいから……かっこいいヤツの言う事には皆、従わされてしまうんです……」


 クラスの女子も絶対に「私も矢野くんのことが好きだったのに!」という人はいたと思う。

 僕も柊さんが好きだった。


 恋愛において、皆が皆幸せになるなんてことはないことは分かるけど、顔が良いヤツは人生を思い通りになっていることが気に入らない。


「誰と誰がくっつくかを強制的に話し合いさせられて……好きでもないのにパートナーにされた人たちは可哀想だと思います


 そうぽつりと呟く。相田さんは何か言いたげな様子で僕を見ていた。


「な、なに、相田さん……」


「……いや、やっぱり私も飯倉くんの意見に賛成です。一人一人面談をした方がいいと思います」


 相田さんは僕の意見に賛同した。


 びっくりして言葉を詰まらせる。


 先生は「だよなあ」と言いながら、うんうんと頷き僕らに教室に戻るように促した。


 『公平ではない』と言いはしたが、余計なことを言ってしまったような気もする。

 普段、あまり意見することがないため、こんなとき、不安で不安で仕方ない。


「相田さん……これで良かったのかな」


 不安になって隣を歩く相田さんに質問をする。相田さんは首を傾げて「なにが?」と聞き返した。


「僕たち二人だけの意見で決まっちゃって……」


「今のパートナーに不満があるかの面談でしょ、いいんじゃない?」


 相田さんの軽い返事が、僕の心を軽くさせる。


「僕は……分からない。最近特に自分に自信がないから……自分の発言や行動に自信が持てないんだ」


「いいじゃん? 面談の結果、パートナー決めのやり直しになったとしたら、柊との可能性が出てきてアンタは友達といれるようになるんじゃない?」


 どこまでも僕を肯定してくれる相田さん。

 でも僕は、自分の意見が肯定されることが怖くて怖くて仕方がないんだ。

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