「な……!?」
冗談じゃなかったのか!?
僕と相田さんを交互に見た橋本くんは「なるほどねぇ」と意味あり気に頷いた。
「ビックリ。相田さん、こんな芋っぽい童貞野郎がいいんだ?」
橋本くんの質問につい、カチンと頭にくる。
確かに僕は童貞だけど。聞くにしても、もっと言い方あるだろ!
相田さんも相田さんで迷わず頷いている。
そこはもっとこう庇ってほしかった。
「そういうことねぇ。相田さんの好きな人、いつも一緒にいるグループのヤツじゃねぇんだ? ほら、かっこいいで有名な……えーと……」
名前を思い出せなそうなので助け舟を出す。
「……矢野?」
「そうそう! 矢野くんだ!」
相田さんは橋本くんに向かってブンブンと首を横に振った。
「タイプじゃない、無理」
……タイプじゃないって。
矢野ではなく、僕を好きだと言う相田さんの基準が全然分からない。
話の矛先が相田さんに向いている今、僕も橋本くんに便乗して矢野のことを聞いてみる。
「でもいつも一緒にいるじゃん」
「まあ、友達だから」
「僕、女の子の友達とかいたことないけど。そういうのって仲間内でどうかなるもんなんじゃないの? 矢野のパートナーが柊さんってことを抜きにして、相田さんの本音を言ってほしい」
「はあ? あたしは本音言ってるし。あ、やば。もうこんな時間……バイトに遅れる!」
相田さんは「バイトバイト」と、急ぎながら荷物を持って帰る支度をし出した。
「飯倉! アンタ、柊が好きとか言っておきながら、あたし以外のパートナー作ったら許さないからな!」
女子がときめいてしまうような捨て台詞を吐いて、かっこよく去って行ってしまった。
少しだけドキッとしてしまったことは内緒にしておこう。
相田さんがいなくなってしまったので、この場には僕と橋本くんのみになった。
――き、気まず!!
「ごめん、僕も帰る。ちょっと……今日はもう疲れた……」
頭を抱えながら、もう疲れたアピールをすると、橋本くんは「待って待って」と立ち去ろうとする僕を引き止めた。
「キミがいらないなら俺に相田さんちょうだいよ」
「……は?」
「矢野くんを選ばずにキミを選ぶって正直意味分かんないし、顔だけで男を見ない純粋な子じゃん、俺、相田さん見直したわ。他の女みたく女々しくなさそうだし、性格も面倒そうでもないし?」
「ーーちょ、ちょうだいって……相田さんは物じゃないだろ」
「分かってるけど、でも、キミがあげるって言ったら相田さんも諦めて解決しそうじゃん。ね、いいでしょ?」
「なんで僕に聞くんだよ! 好きにしろよ!」
どいつもこいつも自分勝手なこと言いやがって! 知るかよ! 当人同士で勝手にしてくれ!
家に帰るなり自室に引きこもる。制服のままベッドにダイブして、今日一日のことを思い返す。
橋本くん……相田さんを狙ってるって本気か?
……いや、相田さんが良ければ良いんだ。僕がとやかく言うことではないし。
けれど、橋本くんが相田さんに近づこうとしている理由は、もっと違う意味なような気がする。
ベッドの上で自問自答を繰り返していると、いつの間にか眠ってしまっており、スマホにはバイトが終わったらしい相田さんからメッセージが届いていた。
内容を読んでみる。
【言っとくけど、あたし遊んでないからな!?】
…………は? なんの話?
というか、相田さんが遊んでようが遊んでいまいがどうでもいいし!
訳が分からず額の皺ができるほどに眉を歪ませる。
【別に遊んでてもいいけど?】
そう送ると秒で返事が返ってきた。
【はあ!? おまえ、遊んでる方がいいの!? 童貞じゃないの? 経験あんの!?】
……ちょっとまって。全く意味わからん。相田さんの話に全くついていけなくて、【なんのこと言ってる?】素直に聞き返した。
【だから、あたし、処女!!】
…………は?
はああああ!? いや、なんでそれを僕に言う!?
相田さんが経験ないのは確かにとても意外だけど……でもそれは僕には関係ない。
返事しなくてもいいかと、スマホを机に置こうとした時、【飯倉は?】とメッセージにて質問された。
女子とまともに話したことないのに、経験なんてあるわけないだろ!
小っ恥ずかしくて相田さんのメッセージを無視し、そのままスマホの電源を切る。
なんてデリカシーの無い人なんだ。もし橋本くんなんかと付き合ってみろ、初日で体要求させるぞ。なんか、それはそれで凄く腹がたつ。
◆
二週間が過ぎた。学校生活を送るについて特に変わりなく過ごしていたが、周りはそんな僕を置いてけぼりにする。
昨日まで彼氏彼女がいなかったクラスメイト。
婚約者ができたことで浮かれているのか、ペアになった者同士が良く一緒にいるところを目にするようになった。
正直、居心地は悪すぎる。
今日は柊さんも矢野達のグループに混ざって楽しそうにしている。
柊さんと矢野……遠目から見てもやっぱりお似合いだ。
柊さんには柊さんの価値と見合う人が結婚相手になってくれてよかった……
少しだけど以前よりもだいぶ客観的に柊さんのことを見れているような気がする。それでも、彼女のことを吹っ切れるには、まだまだ時間が必要なわけで、矢野と一緒にいるところを見るとチクリと胸が痛む。