お願いだ、これ以上僕に関わらないでくれ。その一心で、
「でも、僕が矢野くんの立場ならイヤだけどな……」
矢野を羨ましく思いながらも遠回しに話しかけてほしくないことを伝える。
柊さんは、先ほどより深刻そうな表情になってしまった。
僕だって本当はこんな表情させたくない。
柊さんには申し訳ないが、また顔を伏せてその場をやり過ごす。チャイムが鳴ると同時に柊さんが僕のところを去ったのを雰囲気で感じた。
「はあ……」と、おもわず息を吐く。
僕と柊さんを見ていたであろう相田さんの声が僕に向かって発せられた。
「にしても、暗いなぁ~、顔上げろよ」
どうやら、休ませてはくれないらしい。
「まーだイジイジ悩んでんの? 大丈夫、どうにかなるって!」
「相田さんは人の目とか気になんないの?」
「人の目って?」
「……せっかく柊さんが話しかけてくれたのにそっけない態度取っちゃったんだ。人の目が気になっちゃって今まで通りは無理だよ……」
相談にも近い言葉を投げかけると、相田さんは「うーん」と首を捻った。
「それは飯倉が柊のこと好きだからでしょ。あたしは他のヤツと話しても、どうも思わないから気にならないもん」
「ーーな……そ、それは……」
僕の言葉の節々から勘繰った相田さん。
僕が柊さんを好きだと分かり「しめしめ」とニヤつきながら頷いた。
……ち、ちくしょう……
「そうだよ、好きだよ、悪いかよ……」
「ーーうん、悪いね。だって柊さん、矢野と結婚するんだよ?」
「……そんなこと、分かってるよ」
相田さんは僕の目の前にスマホを差し出した。
「飯倉、スマホ出して。連絡先交換しよう」
「え……?」
「ほら、なんかあったら情報共有しやすいだろ?」
「ああ……うん」
まさか僕が相田さんと連絡先を交換するときがくるなんて思わなかった。
僕のSNSの友達一覧に相田さんが加わった。
猫のアイコンの相田さん。「かわいいっしょ」と微笑みながら僕に自分の家で飼っているのであろう、猫の画像を何枚も送りつけてくる。
白猫と茶猫に癒されていると、次に送られてきた一文に目が止まった。
【ーーんな落ち込まなくても、最悪あたしいるし元気出せよ!】
その一文で僕の胸の鼓動がドキッと高鳴った。
……は!? え、いや……え……!?
ずっと相田さんと話したことがなかったため、これが冗談なのか本気なのかが分からない。
戸惑いはしたけれど、好みが厳しい相田さんが僕に本気なわけないということは数秒で理解できた。
こんな冗談を言わせてしまうほど心配をかけさせてしまっていただなんて。つくづく、自分がイヤになる。
なんと返したらいいんだろう。
文面では表情は分からないけれど、僕はいま、相田さんの表情を確認できる位置にいる。
相田さんは頬を赤くしながらまた、スマホの画面をタップして文字を打っているように感じた。
僕に打っている……? じゃあ、まだ返事しない方がいい?
妙にドキドキしていると、また相田さんからメッセージが送られてきた。
その一文を見てドクンと高鳴る高揚感が押し寄せる。
【こう見えて、あたしアンタのこと好きだったんだよ】
目を疑った。
…………は!?
え……いや、う、うそだろ!?
だって相田さんと普段目も合わないし、こんな機会がなかったら話なんてすることなかった。そもそも、クラスでの立ち位置も違うし……
僕が相田さんの恋愛対象に本気で入っているわけがない。
震える手でメッセージを返す。
【からかうのやめてもらっていいですか】
当然だが、スマホと睨めっこしている相田さんは僕のメッセージを秒で既読にした。
【柊みたいな清楚系がいいなら、結婚したらそうするよ】
な、なんだか分からないけど相田さんの猛アプローチが始まってしまった気がする。
授業中にも関わらず、相田さんからのメッセージ通知が鳴り止まない。
授業中だっての!! いい加減にしろ!
心の中でッツコミながらもメッセージが気になる僕は、画面に目を通した。
相田さんの好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな歌手、好きな芸能人、家族構成、家族の写真……
いや、送りすぎだろ。
「はい、そうですね。結婚しましょう」で、この状態なら頷けるが僕達婚約さえしていないのに、お見合いのテンプレートみたいなことされても逆に重い。