目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第2話『相田さんのアプローチ方法』

 ちらっと柊さんに視線を向ける。


 何事もなかったかのように、いつも一緒に行動している友人等と喋っていた。


 ーーということは柊さんも矢野のことが好きだったんだろうか。


 矢野は女子から凄くモテる。学年でも上位を争うほどにかっこいい。矢野が別格なことくらい僕にも分かる。でも、だからって、なんで柊さんまで矢野なんだ……


「まあ、相田と頑張れや」


 矢野は僕の肩をポンポンと軽く叩いた。


 自分は柊さんを選べたからって、後はのんきに鑑賞かよ。軽率な態度を取る矢野がムカつく。せめてもの反抗で、


「僕はそんないい加減な気持ちで結婚相手は決めたくないし、ちゃんと好きな相手と一緒になりたい。それに、相田さんには相田さんの意志がある」


 矢野に見せてもらっていた用紙を返し、自分の席へと戻る。


 クラスの一部の視線が未だに僕に向いているのが分かる。昨日まで楽しく話していた前田からも同情するような眼差しが向けられているのが分かった。


 まるで僕がおかしいような、そんな空気に耐え気れなくて、机の上に顔を伏せ突っ伏した。


 仮に、僕も混ざって話し合いに参加できていたとしても、柊さんとくっつくことができない時点で矢野に今と同じことを言っていただろう。


 『結婚相手をそんないい加減な気持ちで決めたくない』だなんて、所詮、だたの綺麗事だ。柊さんのパートナーになれなかった、なりたかった、僕のせめてもの抵抗だ。


「あ……」


 頭上からそう発せられた女子の声でぼんやりと目を開けた。


 視界に入った人物を見て、僕も「あ」と、相手と同じ言葉を発する。


 僕の隣の席へと腰掛けるその人は、遅刻常習犯の相田さんだった。


 いつもは喋りもしないのに、僕が相田さんの方に顔を向けているからか、彼女は「アハハ、同士だねー」と、全て分かっているかのような言葉を口にした。


「……矢野から聞いたよー、このクラス、それぞれ結婚相手が決まっちゃったんだって?」


「うん……僕はハブかれたけど」


 八つ当たりのような、皮肉たっぷりな言葉を吐くと、相田さんはククッと、綺麗な白い歯を見せ笑った。


「まあ、アンタはどんな相手でも大丈夫だろうけどさ、私結構好みのタイプにうるさいから。国に結婚相手を決められたって無理なもんは無理だよね〜」


 彼女のケラケラと笑う声を僕も含め、クラスの皆は黙って聞いているしかなかった。


 なんでそんなに笑っていられるんだよ。僕は相田さんみたいに笑ってなんていられない。――でも、僕も相田さんも、このまま国の言いなりになんてなってはいけない。


 諦めるにはまだ早い。僕らの結婚相手は僕らで見つけることができるはずだ。



「はあ……」


 休み時間を終え、頭を冷やし教室に戻ると、相田さんは矢野の席で矢野達と笑いながら話している姿が目に入った。


 それがいつもの光景すぎて、朝の出来事は嘘だったかのような、ニュースで発表されたことは嘘なんじゃないかというような錯覚さえ起きてしまった。


 けれど僕が今朝見せてもらった紙を見せてもらいながらケラケラ笑う相田さんを見て、やっぱり夢ではないんだな、と、現実に戻されてしまった。


「この二人がパートナー?」


「しゃあねぇだろ、話し合いで決まったんだしよ」


「へー、で、矢野はきっちりマドンナ柊とくっついたわけかー」


 「このこのー」と、矢野の胸を肘で突きながらオヤジ臭い行動をとる相田さん。


 今まで通りと変わらずに矢野と話ができる相田さんは凄いと思う。僕はそんな二人をぼんやりと見ているしかなかった。


 誰が誰とくっつくか。話し合いで決めようと言い出したのは恐らく矢野だ。クラスの皆まで巻き込んで、皆本当に納得しているのか?


 せっかく少しの時間で気持ちをリセットすることができたのに、また心に靄がかかってしまった。これ以上矢野の顔を見たくなくて、僕はまた自分の机に顔を伏せる。


「――くん、飯倉くん!」


 喋りかけられたらドキドキして嬉しいその声に反応して、閉じていた瞼を反射的に開けた。


 顔を上げる。視界に入ったのは矢野のパートナーの柊さん。


 凄く困ったような、困惑しているような、はたまた凄く申し訳なさそうな表情をしていた。


 ……柊さん、なんて顔をしてるんだ。僕に対しての同情心だろうか。それとも、違う理由があるのだろうか。どっちにしたって、「同情してるの?」なんてこと聞けるわけない。


 聞いたって僕にはどうしようもできないんだから。



「――なんか用?」


 柊さんが今まで通り僕に話しかけてくれて素直に嬉しかった。今までもこの、少しの間の二人の空間を大事にしていた。だから、『なんか用?』なんて素っ気ない質問はしたことがない。


 柊さんもいつもと違う僕の態度に困惑しているのが分かる。


 ……ごめん、ごめん、柊さん。どういう態度で接したらいいのか分からないんだ。


「用はないんだけど……その……」


 言葉を詰まらせる柊さんに八つ当たりのように自分の感情をぶつける。


「柊さんは矢野と結婚するんでしょ、僕と話しているところを矢野が見たらいい気はしないんじゃない?」


「……別に、私と矢野くんはそういうんじゃないから」


 煮え切らない柊さんを見ると悲しくなる。


 柊さんが優しいから。優しすぎるから、今まで「もしかしたら僕にも可能性があるのかもしれない」なんて、心のどこかで思ってしまっていた。


 今もそんな態度をとられると、もしかすると僕にも柊さんとどうにかなれる希望がまだあるんじゃないかと期待してしまう。


 ーーそんな可能性、1ミリもなかったのに。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?