今日、結婚についての法律が大幅に改変されたらしい。
テレビから流れる音声が他人事のようだった。朝のニュース番組を見終えた母さんが僕に険しい視線を向けている。そんなことはもちろん気づいていたが、知らん顔で目の前に置かれてある朝食に視線を向ける。
僕の家の朝食は毎朝同じメニューで、お弁当の残り物、みそ汁・麦ごはんの他に、小さめパックのヨーグルトと牛乳が用意される。
今日も変わり映えのしない朝食をもくもくと食べる僕に、
「アンタ、恋人は?」
母さんは眉間に皺を寄せ一言だけ質問をした。なので僕も一言だけ言葉を返す。
「いない」
「どうするの?」
「分からない」
「そう、まあ、アンタの人生だしね。好きにしなさい」
諦め半分に答えるとズズッと音を立てながらコーヒーを口にする母さん。
なんだか母さんの一言一言によって、心の中のモヤモヤが蓄積されていくのを感じる。
少子化すぎる今、このままではこの国の未来が危ういと話し合いの末に成された改変。以前より噂はされていたが噂だけで終わるのだろうと甘く考えていた。
ーー今年度より高校卒業時までに恋人がいない者のみ、国が強制的に結婚相手を決定するという内容だ。詳細は都度、発表されたりされなかったりするらしい。
あと半年で結婚相手になり得る存在を見つけなければいけないなんて、どうにかしていることを『アンタの人生だし、好きにしなさい』と、無責任に見放す母もどうにかなってしまったのだと思いたかった。
でも、どうにかしなくてはいけないのは僕だけではない。僕の同年代も皆、高校卒業までにどうにかしなくてはいけないわけで。決して僕だけが不利なわけではない。
母さんからのいつもの「行ってらっしゃい」の言葉はこの日は言われることはなかった。
◆
バスに乗り遅れた僕は久しぶりに遅刻した。
1限目が終わるだろう頃に学校へ着き、そのまま職員室に行き遅刻届を提出する。教室のドアの前に着いたのは休憩時間のタイミングだった。
遅刻している罪悪感からか、今朝のニュースが気になっているからか、皆の反応が気になるからか。緊張しながらドアに手を伸ばし、教室の中へと入る。
いつもは誰かが教室のドアを開けると、その一人に皆の視線が集中しがちだが今日は違った。
クラスのリーダー的存在、
何をしているんだろう、僕も混ざってみようかな。
自分の机の上に鞄を置いて、皆の様子を背後から覗き見るていると、紙の束で机の上をタンタンと叩く音が聞こえた。
「よし、これで決まりだな。じゃあ解散」
矢野の言葉と同時に皆の視線が僕一人に集中した。
「……お、おはよ……」
皆に向かって挨拶をしてみるけれど、全員が気まずそうに僕から視線を反けた。
……なんだ? 皆にそんな態度を取られる心当たりはない。矢野が原因だろうか。気になった僕は矢野の席へと向かう。
矢野と僕は一緒にいるグループが違う。普段は全然話さないためか、足が矢野の席へ向いているという事実だけで、何故か妙に緊張してしまう。
落ち着け。大丈夫、大丈夫……
当たり障りなく過ごしてきたし、嫌われるようなことはなにもしていない。普通にしていれば大丈夫だ。
矢野はかっこいい。耳にはピアスを数個つけていて、ダークブラウンの髪色が羨ましく思う。髪型はワックスで整えられており、常に身だしなみに気を遣っている印象だ。
ピアスもワックスもしておらず、髪の毛はクシで整える程度の小心者の僕は、普段、矢野を「くん」付けにして呼んでいる。
「あ、あのさ、矢野くん……」
「……あ? あー
矢野は僕を見るなり面倒くさそうに返事をした。
できることなら僕だって早急にこの場から立ち去りたい。むしろ、話しかけることができた勇気を褒めてほしいくらいだ。
「いや、皆で矢野くんの席で何してたのかなって思って」
てっきり「おまえには関係ないだろ」とでも返されるとばかり思っていたけど、矢野は一枚の紙を僕に見せてくれた。
「……ほら」
「あ……ありがとう……?」
用紙に目を通す。クラス皆の名前が書かれてあり、男女一人一人に番号が振られていた。そして、なぜか僕の名前にはバツが付けられている。
まだ詳細を聞いたわけではないのに、嫌な予感が半端ない。
ドキドキと高鳴る鼓動を落ち着かせながら、また矢野に質問をする。
「……な、なに、これ」
「クラス全員で話し合って決まった」
「き、決まったって…なにが?」
「ああ? 見れば分かるだろ。その番号同士がカップルになったんだよ」
……は? カ、カップル……? 何言ってんだ?
「今朝のニュース……知らないわけじゃねぇだろ。国が決める見ず知らずの赤の他人より、知ってるヤツの方がよくね? ってことでそうなった」
「そ、そうなったって……僕は? なんで僕だけ参加できてないの」
「おまえが遅刻してきたからだろ。それに、バツついてるのはてめぇだけじゃねぇだろ、ほら」
よく見ると僕以外にもバツがついている人がもう一人いる。
隣の席の
僕はバツが付けられてしょうがないにしても、相田さんがハブられる理由が分からないので、再度矢野に問いかける。
「矢野くん……相田さんと仲良かったじゃん、なんで……」
「俺含め、誰も相田をそういう相手に選びたくなかったんだからしゃあねぇだろ」
……そんな。僕は矢野みたいに男女通して仲がいいわけではない。なんなら女子は片想いをしている
柊さん……
ーーあっ、そうだ、柊さんは!?
もう一度紙に目を向け凝らして見てみると、柊さんは三番の番号が振り分けられていた。男子の三番は誰だ。
三番、三番……や、矢野だ……