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第49話 みんなでご飯

「リュウよ。身体が痛いのに動かさせてしまって悪いのぉ」


 セバスさんに言われて思い出した。身体に激痛が走る。なんだかんだ言ってアドレナリンが出ていたせいか身体が打撲状態だったのを忘れていた。


 思い出した体は急に重くなり、鈍痛が走る。食堂に使用人も集まり、トロッタ煮が運ばれてくる。それ以外にスープも料理長が作ってくれていたらしく、それも運ばれてきた。そんななか、一人で痛みに悶えている状態だ。


「リューちゃん、たべさせてあげようか?」


 ミリアが顔を覗き込んでそんなことを口にする。それは、断固としてさせるわけにはいかなかった。そんなことさせてしまっては、完全に介護ではないか。俺も確かにいい歳だ。五十を過ぎて少し経つ。だが、まだ介護をされるほど衰えてはいない。


 こんな痛みの一つや二つ。大丈夫さ。自分にそう言い聞かせて「大丈夫だ」とミリアに答えて無理やり身体を動かす。動かせないこともない。ただ、ちょっと動かすだけで全身に痛みが走る。


 ミリアが残念そうに箸を下ろすが、まだ介護なんてさせるわけにはいかない。こんなに小さいのに。気合で食べるさ。


「大丈夫だ。みなさん、これからお世話になります。こうやって、たまに料理を振舞わせて頂きたいので、お口に合うかわかりませんが、食べてみてください」


 使用人の皆さんへと頭を下げる。それには、使用人の方が驚いて目を見開いていた。あまり使用人に頭を下げる人はいないんだそうだ。小声でセバスさんが教えてくれた。


 ただ、好印象だったようで、皆さんが頷きながら拍手をしてくれた。そして、「いただきます」と手を合わせて食べ始めたのだ。なぜ、この作法を知っているのだろうか。


 今度はこちらが驚く番だった。セバスさんへ目を見開いたまま視線を送ると、にこやかな笑顔が返ってきた。


「リュウさんといったか。お主の居たところとワシの先祖は同じところの出のようじゃな」


 その言葉を自分の中で咀嚼して考える。祖先が、日本の出身だということだろうか。


「ご先祖様は、日本の出身ですか?」


「あー。にほんというのか。それは、知らなかった。祖先は元勇者なんじゃ、転生者というものじゃの」


 なんだか、テレビで最近そんな感じのライトノベルが流行っているというのを見たことある気がする。俺の場合は、異世界転移なのだろうけど。


「だから、強いんですか?」


「んー。そうじゃのぉ。まぁ、魔力の多い家系となったから、血のせいもあるんじゃろうなぁ」


 俺とセバスさんが話していると、ミリアが食べたそうにうずうずしている。


「ミリア、食べていいぞ?」


 華やかな顔になり、嬉々としてトロッタ煮を口へと運んでいく。美味しいと言いながら食べているから、いつもと同じ味が出せたのだろう。初めての厨房だったが、うまく作ることができてよかった。


 俺も食べようと、腹に力を入れて身体を動かす。トロッタ煮を口に運び、いつも通りの味が出せていたことにホッと一安心する。


 味見はするが、肉の欠片を食べるのでガッツリ食べた時の味はまた違ってくるのだ。濃すぎてもしょっぱくてダメだし。薄いと物足りないし。


 ご飯をかき込む。身体にお米の糖分と肉の栄養分がいきわたり、力が漲ってくる。動けるぞと体が訴えてきた。片付けもできそうだ。


「えっ……おいしっ!」


 メイドさんの一人が声を上げた。すると、料理長の方を見て申し訳なさそうに縮こまった。俺としては嬉しいが、料理長の立場がないと思い、気を使ったのだろう。


 だが、ここの料理長はそんなに心の狭い人ではなかった。


「気にするな。美味いものは美味いと言って間違いはない」


 料理長がそう口にだしてみんなへ通達したとたん、みんなから声が上がった。


「これ、めちゃくちゃ美味しいです!」


「こんなの食べたことないです! トロトロじゃないですか!」


「これ、毎日食べたいです!」


 口々に使用人の人たちが声を上げた。よかった。みんな気に入ってくれたみたいだ。心が温かくなっていくのを感じながらトロッタ煮を口へ運んでいると。横にいるミリアが視界に入った。凄く嬉しそうにニヤニヤしながら食べている。


 そんなに俺の料理を褒められたことが嬉しいのだろうか。ミリアが嬉しそうにしていることが俺は嬉しかった。自分のことのように喜んでくれている。それが家族なのかなと気持ちが高揚してきた。


 サクヤとアオイもどこか得意げだ。その横に陣取っているリツは夢中になってトロッタ煮を頬張っている。


「やっぱりリューちゃんのごはんは、おいしいね!」


 リツが大きい声でそう言い放った。いつも食べているものだと思うが、今食べるとうまさも一入ということだろうか。あんなことがあった後だものな。俺には何もできなかった。ただ、料理を作って喜ばせることができるのだと再認識した。


 イワンがリツの頭を撫でて微笑ましそうに食べているところを眺めている。イワンの前にある器は、空である。もう食べ終わったのは少食だからということもあるだろう。あまり食べなさすぎるのも心配になるときがある。


「ホッホッホッ。料理長も形無しじゃな? リュウの料理は美味いじゃろ?」


「えぇ。セバスの旦那も人が悪い。こんな腕のいい料理人を連れてくるなんて」


 苦笑いをしながら頬を掻いている料理長。困ったようにトロッタ煮を頬張る。頷いて食べ進めていた。その姿をセバスさんは自慢気に鼻を膨らませて見ている。


「料理長、上には上がいるじゃろう?」


「へい。それをリュウのおかげで目の当たりにしやした」


 使用人の人たちも口々に美味しいという言葉を発しながらトロッタ肉を口へと運んでいる。


 この皆が料理を食べることで満たされていくような雰囲気が、たまらない。すごくいい気が充満しているような気がする。俺の気のせいかもしれないが、これが幸せ空間というやつだろうか。


 これはこれでよかったのかなと、そんなことを思うほどに楽しい時間だった。

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