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第47話 厨房での試験

 応接室のようなところから、自分たちの部屋へと案内してくれた。俺は、ミリアとの二人部屋。サクヤ、アオイ、イワン、リツは四人部屋だ。その割り振りが一番いいだろう。


 部屋へ入ると大きなベッドが二つある。ベッドは味のある木材が使われている。所々に竜を模したような彫刻が刻まれており、こんなのこの世界に来てから初めてお目にかかった。基本的には薄い布団を敷いて寝るのが普通のようだった。


 セバスさんのような生活を送っている人は庶民ではいないのだろう。さすがはS級冒険者といったところか。住んでいる家も豪華なら、家具も豪華だ。こんなところに泊まらせてもらうなんて申し訳ないな。


 ベッドの奥には化粧台のようなものがあり、鏡がミリアを映し出していた。興味津々のミリアは鏡に釘付けだ。


「わぁ。これがミリアなの?」


「そうだぞ? 自分の顔を見たことがなかったか?」


 ミリアは頭を縦に振った。自分の姿をしっかりと見たことがなかったということだろう。いつも住んでいた居住スペースにも鏡はなかったからなぁ。ただ、窓に映る自分はボンヤリと見たことはあったと思うのだが。


 はっきりと見たことがないということだろう。鏡へと自分の顔を近づけてマジマジと観察している。その顔はまんざらでもない様子だ。何を考えているのかはなんとなくわかる。


「ミリア、かわいいね」


 自分で言うなと突っ込んであげようと思ったが、自分が可愛いと思うことの何が悪いのかわからなくなったために、その突っ込みは飲み込んだ。ポジティブなのは良いことだと思おう。


 俺から見てもミリアは可愛いと思う。だけど、自分で自分のことを可愛いという部分は、ちょっと将来が心配になってしまう。女の子の親というのはこういう気持ちになるものなのだろうなと、なんとなく納得した。


「なんか作ろうか」


「リューちゃんのりょうり? たべるー」


 こんなに大きなお屋敷だから厨房があると思う。そこの料理人さんにお願いして作らせてもらおうかな。作らせてくれるだろうか。


 部屋を出ると誰もいない。それはそうだろう。ずっと部屋の前にいれるわけでもないだろうからな。ちょっと悪戯心が疼いた。もしかして、あれをやったら執事さんが来てくれるのではないかと思ったからだ。


 恐る恐る胸の前で手を合わせる。そして、昔に何かで他人を呼ぶときに見たように、手を二度叩いて見た。


「お呼びでしょうか?」


「うおっ!」


 どこから現れたのか気が付かなかったが、後ろから声をかけられて驚いた。この屋敷の人たちは隠密行動ができるように鍛えられているのだろうか。でなければ、この気配のなさは説明できない。


「執事さん、ここの厨房をお借りすることはできますか?」


「カミュと申します。そのままでお呼びください。厨房をお貸しすることはできます。ですが、料理人がおりますので、夕食はご用意しますよ?」


 俺が料理人だということは何も言ってないからわかるわけもないか。セバスさんが伝えているかもと思ったけど、違ったみたい。別に言わなくてもいいことは言わない主義なのかもしれない。


「実は、俺も店を出しておりまして、ミリアが俺の料理が食べたいと言ってくれるもので作りたかったんです」


「おやおや。料理人でしたか。これは失礼しました。どうぞ。こちらです」


 なにやら奥の方へと進んでいく。立ち止まったのは壁の前だ。

 何もないところでどうしたのだろう?

 カミュさんが手を上げる。その手からは僅かにだが光が放たれている。


 直後に空気の抜けるような音が鳴り響き、壁が横へとスライドして奥へと向かう口を開いた。その先にはまた白い空間が広がっていた。ここが厨房か?


 正面にはカウンターがあり、そこを跳ね上げて中へと入ると光り輝いている洗い場が現れた。手入れが行き届いているということがすぐにわかる。俺も水回りは重点的に掃除をしたものだ。


 水回りが汚いと、その店に行きたくなくなったりするからだ。『わ』なんかも厨房が見えるから汚く見えないようにと気を付けていた。


 左へと部屋は広がっていて、一番奥には魔道コンロがある。これはウチにあるものと一緒だ。セバスさんが魔石は取ってくるだろうから経費としてはほぼタダのようなものだろう。それは、素直に羨ましかった。


 欲しいですなんてずうずうしいことは言えない。助けてもらったのに、さらにセバスさんの買っていたものを「それいいですね。ください」というすごく失礼な感じでもらうことになってしまう。


 作業台の前に立っているのは、タオルのような布を頭に巻いた肌の黒い男性が鍋を振っていた。肉野菜炒めのようなものを作っているようだ。セバスさんの夕食だろうか。


「料理長、今日からしばらく泊まることになったリュウさんです。厨房を貸してあげてもらえますか?」


 火を止めて鍋を置くとこちらを見据える。目を離すことができないような感覚で、ずっと視線を交わせてしまっていた。何か言いたいことがあるのだろうか。


 鍋から出を話すと、鍋を指した。一体どういう意味だろうか。なんか、鍋を振れなかったら即刻今日の夕食はなしになるかもしれない。そんな訳の分からないことを真剣に考えてしまった。


 鍋の前に立つと、コンロへと火を入れる。俺の野菜炒めの場合だと、高火力な上に高速で鍋を振りながらシャキシャキ触感を残したまま火を通すという昔からしている方法になる。それをやってみよう。


 テンポのいい金属が擦れる音。その後に肉と野菜が宙を舞う。鍋を振りながら周りにある調味料を把握する。醤油にみりん。味噌に油。その他にもカラコやワサビなど、沢山の調味料がある。


 炒めるのに使っていたお玉で調味料を取る。味噌を少々とカラコ。後はみりんと酒入れて振り上げた酒に火が引火したのを確認して、炎を鍋に纏いながら肉と野菜を振るう。


 香ばしい香りと味噌の甘い香りが立ち込める。この匂いがあがったら、終わりだ。火を止めて近くにあった皿へ盛り付けていく。


 その光景をミリアが横で心配そうに見守っていた。俺と料理長のやりとりもいまいちわからなかっただろう。だけど、俺にはわかるのだ。こういうのは料理人同士、通じるものがあるのかもしれない。


 料理長は一つの野菜を箸でつまみ、口へと運ぶ。俺は自信満々でその様子を見守っていると、料理長は頷いて俺の肩へ手を置いた。


「うまい。厨房は好きに使え」


 なんか、認めてくれたみたいだ。ホッと胸を撫でおろす。これでダメだと言われていたら俺はここで飯を作ることができなかっただろう。


「ミリア、何が食いたい?」


「みんなトロッタがたべたいんじゃないかなぁ?」


 トロッタ煮のことだろう。それを聞いた料理長は冷蔵具を開けるとトロッタの肉を取り出してくれた。あまり話すことはしないが、すごく優しい人なんだと思う。


「料理長。有難う御座います。ミリア、わかった。さっそくとりかかろうか」


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