店の焼かれる光景を目にし、焦げ付く匂いをいやでも吸い込みながら。みんなを「俺のせいですまんな」と謝りながら抱きしめていた。俺にはもう謝ることしかできない。
きっとどうにかなる。絶対にまた店を再開させる。俺は諦めない。料理人だって、この世界に来てからも諦めなかったんだ。こども食堂だってやれた。
家族も増えた。やれることも増えている。まだまだ、世界は終わってないさ。悔しい。悔しいけど、俺には戦う力はない。
さっきは、気の迷いでセバスさんに弟子入りして復讐をすることを考えた。けど、復讐なんてそんなのしても仕方がない。
そもそも、この火事が領主のせいなのかどうかも分からない。そんな中で手を出せば、社会的に抹殺されかねない。
まだだ。ゆっくりと情報を集めて確実に潰さないといけない。力でどうなるような問題でもなくなっている。皆の協力が必要不可欠だ。
お先真っ暗。家族だけだと限界がある。誰か協力してくれないだろうか。抱き合って呆然としていると人が続々と集まってきた。
「おやっさん! 大丈夫でしたか!?」
声をかけてくれたのは、冒険者で剣士のシンさんだった。シンさんにも、寄付してもらって応援してもらっていたのに、こんなことになって申し訳ない。暗い顔を見せないようにしながら顔を伏せた。
「みんな無事だった。アオイ達の家もやられたらしい」
「無事で良かった。……許せねぇ」
歯の食いしばる音が聞こえ、口にした言葉が俺は嬉しかった。『わ』がみんなに愛されていたんだと、そう実感できたんだから。許せないと思ってくれたということは、それだけ愛着を持ってくれていたということだ。
周りには、常連さんが囲んで燃え盛る店を見て呆然としている。中には恨み言を言う人もいた。そう思ってくれるのは嬉しい。嬉しいが、そんな悲観的な思いは持ってほしくない。
俺の心に灯った炎は、皆にもう一度料理を提供したいという熱い思いからくるものだ。だが、現状俺一人ではかなわない。なぜなら、領主から横やりが入るからだ。それをどうにかしないことには……。
「俺は、諦めません。絶対に、『わ』を復活させます」
呟くように口から出た言葉は、赤く染まった夜空に響いた。
「おやっさん! よく言ったっす!」
「そうだ! ぜっったい復活させるぞ!」
「私たちは、負けない!」
「こんな目にあっても諦めないぞ!」
「おやっさんの味をもう一度食べるまでは死ねねぇ!」
常連さんたちは、口々に声を上げてくれた。こんな嬉しいことはない。俺の思いを、みんながくみ取ってくれて、負けないぞという気持ちでいてくれる。
肩に手が置かれる。手を置いている人の顔へと視線を上げると。顔を赤く染めたセバスさんだった。歯を食いしばって怒りをあらわにしているようだ。
「ワシはのぉ。弱いものを武力をもって従わせるやり方は気に入らんのじゃ。リュウよ。ワシのところへ来い。そして、復活の時まで料理の腕を磨くんじゃ。あやつはワシがなんとかするわい」
店を見つめるその目には憎悪と怒りが含まれているように思えた。店への思いとは別に、サクヤ、アオイやイワン、リツ。そして、ミリアまでもが危険にさらされた現実が許せないのかもしれない。
そこまでこの子達のことを考えてくれたことが本当に嬉しい。手を差し伸べてくれたセバスさんに感謝しないとな。でも、ワシのところへ来いと言われても、一人で暮らしているんだよな? 俺たちがいけるところなんてあるんだろうか?
セバスさんのところへ行けたなら、世界で一番安全なところなのではないだろうか。何と言っても、冒険者の頂点に位置するS級冒険者なんだから。そこにいていいなら、皆が安全だ。願ってもないこと。是非、お願いしたいところだ。
「今、案内するからのぉ。リュウを慕う者たちよ! いったん、リュウの一家はワシが預かる。ワシと動いてくれるものは後で名乗り出てくるんじゃ。しかるべく時まで安全なところに匿うでのぉ」
周りの人たちはセバスさんに視線を集め、各々が頷いている。目をギラギラとさせて今にも飛び出していきそうな勢いだ。中には興奮して鼻息を荒くしている人もいる。それをセバスさんがなだめているところだ。
この店に火を放った人は、まだ特定できていない。ということは、一応犯人は誰かわからないということだ。それなのに領主を疑ってかかってはダメだろう。
その辺をセバスさんは皆で洗い出して、どうにかしてくれるということだろう。セバスさんは皆に目配せをすると、頷いて俺たちを抱きしめて案内してくれた。
領主が住んでいるところとは反対方向の街はずれへと行く。実は、そこは冒険者や事業の成功者が住む富豪の区画のようだった。セバスさんに聞いたところ、ダリル商会のマルコさんもこの区画に家を構えているようだ。
そんな豪邸が並ぶ街並みの奥の方へと行くと、ひと際大きくて周りを高い塀で囲まれているのが目の前の家だ。
もしかしてここか?
こんなデカいのが家?
重厚な扉の横に触れると、腹に来るような重低音が響き渡り、分厚い扉が開いた。入るように促されると、みんな恐る恐る入って行く。こんなところに住むのか。確かにここならば、俺たちは安全だろう。
「ここにはゴロツキは入ってこられないから安心せぇ。変な奴はこの街の入り口に入った時点で排除されるからのぉ」
「セバスさん。この御恩は必ずお返しします。貸しというこ──」
「──リュウよ。ワシは、お主の料理が好きなんじゃ。だから、手伝っているだけにすぎん。礼は言葉だけで結構じゃよ。腕を磨いて、おいしいものを食べさせてくれればいい」
「ありがとうございます」
俺は深々と頭を下げる。体が震え、目頭が熱くなってくる。
「「「ありがとうございます!」」」
子供達みんなが、頭を下げた。
セバスさんが手を差し伸べてくる。
俺も手を出して握るとセバスさんは軽く握って笑顔を見せた。
「ワシが付いてる。安心して、料理を作ってくれい」
その温かい手は、俺の心まで温めてくれる。
心へ灯った炎に油を注いでくれたのだった。