実は、『オヤジの協力者を求む』という張り紙を弁当の売っているテーブルの下へと書いていたのだが、あまり反応がなかった。そんななか、声をかけてくれる人が現れた。
「すみません。この張り紙、どういう意味でしょうか?」
ほんわりとした髪でやわらかい雰囲気の若めな女性が声をかけてくれた。可愛らしい感じだ。
「俺が、この子達や食事に困っている人たちに食事を無料で振舞っているんです。食事をとることが困難な人、自分で作る時間がない人、一人で寂しいという人。いろんな人とみんなでご飯を食べるんです」
「わぁ! それ素敵です! 私も協力させてください!」
協力したいと言い出してくれたのは、非常にうれしかった。でも、いったい何を協力してくれるのだろう?
「ちなみになんですけど、協力とはどういった?」
「私、パン屋をしているんですけど、余ることがあるんですよぉ。それって、捨てることになるんですぅ。売れ残りでよければ、提供したいんですけど……」
「それは、有難う御座います。全然余り物でかまいません。是非、一緒にこども食堂を運営していきましょう」
その女性はお弁当を見ると、シチュー丼へと視線を巡らせている。
「これ、なんですか?」
「シチューといって、クリーム煮のような感じなんです。女性陣には人気がありまして、一つどうですか?」
「おいくらですか?」
「小硬貨五枚です」
「えぇっ⁉ 安すぎません?」
口に手を当てて目を見開き、驚きを隠せないといった様子。だけど、うちはその値段設定だから人気があるんだと思っているんだ。だから、変える気はない。それに。
「さらに、器を返してくれたら小硬貨一枚お返しするんですよ」
目をパチパチさせると、目を急に吊り上げた。
何か失礼なことをしただろうか?
「あのっ! せっかく素晴らしい活動をしているのに、こういう資金源になるところで安くしたらダメじゃないですか? お店が持ちませんよ?」
腰に手を当てて顔を近づけ、俺のことを叱ってくれているようだった。こういう指摘がしてもらえるのはありがたい。
ここの場合は、大丈夫なんだ。というか、大丈夫になった。ダリル商会のマルコさんのおかげだ。
「ご心配有難う御座います。大丈夫なんです」
「それならいいですけど、ちゃんとご飯振舞えるように儲けてくださいよ?」
「はははっ。大丈夫です。子供達の美味しそうな顔。忘れられません……」
パン屋の女性は、すごく優しそうな顔になった。
「私もみたいです。子供達の顔」
「パンを届けに来てもらったら、一緒に食べましょうよ」
「いいんですか? 是非!」
これで、みんなでパンを食べることになった。協力してくれる人たちには、子供がいい顔してご飯を食べていたり、看板作ったり。そういう時の顔を見てもらいたいのだ。
そのためには、一緒にご飯を食べ、一緒に作業をすることが一番。
その女性を見送り、新しい協力者に喜んでいた。
子供たちも喜んで、パン食べたーいと言ってはしゃいでいる。
一人の軍服の男性が現れた。
「いらっしゃいませー!」
ミリアが大きな声で呼び込みをしたのだが、子供たちには目もくれず、弁当を見ている。
なんか不思議な雰囲気を感じ、同時に嫌な感じが心にへばり付いていた。一体この人はなんでこの店に来たんだろう?
ジッと弁当を吟味し、トロッタ丼を指して口を開いた。
「これをあるだけ貰おう」
「あっ、有難う御座います。器を返していただけたら、小硬貨一枚お返しします」
「結構だ。面倒だから、このまま貰う」
仏頂面のまま端的に言葉を発する。
こちらと会話をする気はない、といったようすだし子供は眼中にもないという感じ。なんか気に入らないな。
布袋に入れて渡すと、八食程あった丼の全てを持って帰った。凄い力なのはわかるけど、一体なんだったのか。
残った漬け丼とシチュー丼を売るしかなくなり、元々トロッタ丼はトロッタ煮を食堂で食べられるからあまり売れ行きが良くなかったのだ。だから、丁度いいといえば丁度良かったのだが。
「あのおじちゃん、みんな持って行っちゃったね?」
「あぁ。まぁ、良いだろう」
あまり気にせず、ミリアを宥める。皆で残りのお弁当を売ることに集中したのだ。
子供たちは一生懸命呼び込みを行い、主婦の人が来てくれたり、ご老人が買ってくれたりした。本来の目的である、食事に困っているような方は来なかった。
だが、これでお弁当が売れるということはわかった。
お弁当を売ったことで、食べた人たちからなにかお話を聞けるといいんだけど。おいしかったかどうか。冷めた状態でのお弁当はまだ食べていない。
実際に冷めてしまった後に食べた人はどうだったんだろうか。この世界には電子レンジはない。だから、温めて食べるということは難しいだろう。
シチュー丼などは、冷めるとちょっと食べづらいかもしれない。ただ、すこしサラリとした感じのシチューにしているから、あまり粉っぽさはないと思う。
感想を聞くのが楽しみだなぁ。
師匠たちも買っていったから、少し感想を聞けるといいなぁ。
器を返して来てくれた時にでも聞いてみようか。
この時の丼を売ったことで後々厄介なことになるとは、思ってもみなかった。