「そういうことなら、アッシが協力します」
張り紙の効果がなかった謎を解明してくれたゴウさんがそう口にした。
協力者第一号である。
「冒険者なら、協力してくると思うっすよ。寄付金は、魔物を狩ったときの素材を売った売り上げの二割でどうっすか?」
売り上げが大硬貨一枚でも、中硬貨二枚が寄付されるということか。それは、かなり助かる。
「それで、大丈夫です。けど、そんなに寄付してもらって大丈夫ですか?」
「波はあるんすけど、一応アッシ、B級冒険者なんっすよ。割りと稼いでる方なんっす」
階級はよくわからないけど、B級はかなり上なんじゃないか?
「すごいですわ! B級冒険者は、冒険者の中の一割くらいしかいないですわよ!」
アオイは何気にそういう情報には詳しいようだ。
冒険者が好きなのかもしれないな。
「いやー。照れるっす。アッシも他の冒険者仲間に話しておくっすよ」
「有難う御座います。助かります」
結局口コミになってしまった。
でも、誤解がとければ協力者は現れてくれるだろう。
「こちらこそ、感謝してるっす。母ちゃんに会ってよかったっす」
「お母さんと、ご兄弟、大切にしてあげてくださいね」
「もちろんっす」
お父さんのことは聞かなかったけど、何か事情があるのだろう。そのうち話してくれることがあるかもしれない。それまでは、待とう。
ゴウさんは、トロッタ煮を食べて帰っていった。
仕事が終わるたびに寄付へ来てくれるとのこと。
有難いことだ。
その後に来た常連の剣士風の冒険者二人組に声をかけられた。
「おやっさん! 水臭いじゃないですか!」
「はぁ。何がでしょう?」
「こども食堂っていうの、やってるの知ってたけど、資金繰り大変なんでしょう? おチビちゃんにお昼ご飯食べさせたくらいじゃダメだったんじゃないですか!」
「その節は、有難う御座いました。ただ、なんとお願いすればいいか悩んでいて……」
お金くださいというお願いなのだから、あまり大っぴらには言えない。
今回、張り紙に踏み切ったのも思い切ったのだ。
「助けて欲しいって、そう言ってくれればよかったのに。ゴウさんから話を聞きました。俺たちは、C級冒険者ですけど稼ぎは十分にあります。素材を売った額の二割を寄付します」
ゴウさんと同じような条件である。
そんなに渡してもらって大丈夫なのだろうか。
俺が浮かない顔をしているのが気になったのだろう。
「あっ、もしかして本当に大丈夫かとか思ってます?」
「えっ? えぇ。ゴウさんもですけど、そんな二割も渡してもらっても大丈夫なんでしょうか?」
その剣士はニヤリと笑い、腰に手を当てた。
「大丈夫です! 魔物の素材は、C級くらいにもなれば一回の討伐依頼で大硬貨二十枚はいきます」
一回で二十万か。でも、パーティだろうし。報酬を分けたりするだろう。
「その他にも、依頼達成の報酬がだいたい大硬貨五十枚くらいです」
おぉ。それは凄いな。冒険者って強ければ稼げるんだな。
「だから、素材の売却金額の二割は問題ありません。おやっさんが心配するようなことは、なにもないんです」
なんでこんなに良くしてくれるんだ?
最近、この店を出したばかりの俺に。
「なぜ、そんなに助けてくれるんです?」
「ここのお店の雰囲気が好きです。ここの料理に惚れました。そして、おやっさん、チビッ子、サクヤちゃん、アオイちゃん。みんながいい人です。だから、何かあった時には助けたいんです」
「有難う御座います。助かります」
頭を下げると、剣士の人は手を叩いて何かを思いついたように声を上げた。
「あのっ! 契約書とか作りましょうか?」
その提案には目を見張った。
真面目な契約として扱おうとしてくれているのか。
うれしいけど、これはあくまでご厚意だ。
「それだと、あなた方を縛ってしまうじゃないですか」
「俺たちは、それだけ本気だということです」
その言葉に感謝しながらも、首を振った。
「いいんです。有難いですが、寄付できるときにしてもらえれば、それで十分です。有難う御座います」
再び頭を下げると、なにやら不満そうにしている。
「シンです」
「えっ?」
「俺の名前はシンっていいます。これから、『わ』を支える男です」
なんだか大層な宣言をされてしまった。
そんなに気に入ってくれていたんだな。
「あわよくば、サクヤちゃんか、アオイちゃんのどちらかとお近づきになりたい」
「ほぉ。下心が駄々洩れですけど、大丈夫ですかい?」
「いいんです。夢はでっかく!」
まぁ、別に無理ってことでもないんだろうが。
サクヤもアオイも、シンさんに悪いイメージはないだろう。
もちろん、それは俺も同じだ。
「当たって砕けろですね」
「砕けたくない……」
何やら落ち込んでしまった。
何はともあれ協力者が二組もできた。
冒険者とのパイプは大事にしたい。
ここから、もっと大きな冒険者ギルドという太いパイプに繋がるかもしれないのだから。
「じゃあ、俺はトロッタの生姜焼きで。コイツはサブの塩焼き」
「あいよ。少々お待ちぃ」
お客さんで来てくれる人たちは、事情が判明すれば協力してくれる人が多いかもしれない。
なんといっても、冒険者のパーティ自体が一つの会社のようなもの。
そこから資金提供することが決まったということだ。
これは、すごいことだぞ。
「リュウさん、よかったですね?」
サクヤが近づいてきて話しかけてきた。
先ほどまでの話を聞いていたようだ。
「あぁ。みんなのおかげだよ。サクヤや、アオイがシンさんに気に入られ、俺の料理が気に入られ。その結果として資金を提供してもらえる」
「そうですね。繋がりって大事ですね」
「それが、人の輪ってやつなのかもなぁ」
思いと思いが繋がり、段々と大きな輪になっていくのを感じ始めていた。