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第24話 言葉って難しい

「んーーーーー」


 カウンターに肘をついて手に顔を乗せ、難しい顔をしているのはサクヤだ。


「どうしたんだ? そんな難しい顔をして」


 ミリアとイワンが厨房に立ってから数日経った。

 あれから、二人はよく厨房で調理をしている。

 昼営業が終わった後、サクヤが難しい顔をしてなにやら考えているようだ。


「なんかぁ、リュウさんが頑張っているのはわかっているんですけどぉ」


「うん? 何かあるなら言ってくれ」


「ええっとぉ、もう少しリュウさんが楽になる方法、ないのかなぁと思って」


 言っている意味がくみ取れず、首を傾げてしまう。


「楽になる方法?」


「だってぇ、こども食堂の食費、普通にかかってるじゃないですか。食堂が繁盛している証拠なんですけど。余りが出なくなって、余分に注文してますよね?」


 それは、バレない様にしていたことだったのだが。気が付かれていたか。


「そうだな。だが、なんとかなってる」


「リュウさん、こども食堂の時以外で食事してます?」


 思わず目を逸らしてしまった。

 そんなことまでバレていたとは。

 なんで一食しか食べていないことが知られたのか。


「ミリアちゃんが話してくれましたよ? なんでも、ミリアちゃんには食事を出すけど、自分は食べてないらしいじゃないですか?」


「うっ……それはだなぁ」


「生活がきびし──」


「──減量だ」


 思わず、咄嗟に口から出てしまった。


「えっ?」


「痩せようと思ってな……」


 話した後に、いかにも嘘くさいなぁと思ってしまった。

 サクヤは眉間に皺を寄せてこちらを見ている。

 視線を泳がせてしまい疑惑を深めてしまったようで。


「ミリアちゃんは騙せても、ウチは騙せませんよ?」


「……はぁ。そうだ。ちょっと厳しくてな」


「やっぱりぃ。はぁ。ウチとアオイにお給金なんて払っている場合なんですかぁ?」


「いいんだ。それは、俺が決めたことだ」


「頑固ですねぇ」


 サクヤは口を尖らせると呆れたようにため息を吐いた。それで悩んでくれていたのか。何か方法はないかって。


「いやぁ。まだ老紳士からもらった大硬貨には手を付けてはいないんだ。でもな、継続的にお金を回せてないと駄目だと思うんだ」


「だからって……」


「そうだな。この前、ゴウさんへお説教したような状況に自分もなってしまっている。どうにかしないとな……」


 カウンターにもたれかかるサクヤ。

 下を向くと、何かを閃いたように目を見開いた。


「そうだ! 張り紙しましょうよ!」


「なんて?」


「んー。『協力者求む!』とか?」


 確かに、張る内容によっては効果が期待できるだろう。だが、なんと書くべきか。

 協力者を求めるという内容だと、なんの協力者かわからない。

 だが、そのくらい簡潔な方が目につくな。


「たしかに、いいかもな」


「ですよね! だって、長々とこども食堂の運営が厳しいですとか書いても目に入らないじゃないですかぁ」


 サクヤの言うことは正しい。長文で書いても読んでくれる人はいないだろう。うん。いいかもしれない。


「そうだな。じゃあ、『オヤジの協力者求む!』にするか。そしたら、俺に声かけてくれるだろう?」


 手を叩いて頷いたサクヤ。


「そうですね! そうしましょう! さっそく、書きましょう!」


 店奥の居住スペースから紙を持ってくる。

 そして、筆のようなもので文章を書きあげ、厨房側の壁に張る。


「いいですね!」


 これで、少し協力者が出てくるといいのだが。

 そのまま夜営業になった。

 だが、声をかけてくれる者はいなかった。


 みんないい人のはず。

 声をかけてくれると勝手に思い込んでいた。

 何がいけなかったのだろうかと、悩みながら寝付くことになってしまったのだ。


 次の日、アオイがやってきて張り紙を見る。


「こんな大々的に書いてたのに、声をかけてくれる人がいなかったんですの?」


「あぁ。そうなんだ。何がいけないんだろうか?」


「夜営業だから、見てなかった可能性もあるんじゃないかと思いますわ」


「そうかなぁ」


 昼営業が始まったのだが、その張り紙に触れてくれる人はいない。自分から宣伝するのもなんか強制力があったら嫌だしなぁ。


 そんな時、カウンターに座った人が声をかけてきた。


「おやっさん。この前は、有難う御座いましたっす!」


 厨房から顔を上げると、座っていたのはゴウさんだった。


「おぉ。ゴウさん。お母さんとは、話できましたか?」


「はい! 俺の姿の見たら、母ちゃん泣いちゃったんす。そんなに痩せてどうしたんだいって。事情を話したら、自分がバカだったって謝られたっす」


 ゴウさんのことを大切に思ってくれていたからこそ、その反応だったのだろう。よかった。


「わかってもらえて、よかったですね」


「はい。アッシが物凄く稼いでいる冒険者だと思ってたらしいっす。周りにも自慢してたんだそうっす」


 自慢の息子だと思っていたんだろう。

 誇らしかったんだろうな。


「これからは、少し余裕をもって仕送りした方がいいですね」


「そうするっす。それで、張り紙のことなんっすけど……」


「あぁ。実は、困っている人たちに無料で料理を提供しているこども食堂に協力してくれる人を募っているんですけど、なかなか協力者がいなくて……」


 そう話していると、ゴウさんはプフッと笑っていた。一体どうしたのだろう。


「そういうことだったんっすね! みんな、おやっさんと料理を作らないといけないと思ってるっすよ?」


 これは、俺も思わぬ事態だったため、目を見開いて固まってしまった。


「みんな噂してましたけど、従業員の募集だと思ってるっす!」


 笑いながら、そう話してくれたゴウさん。これで謎が解けた。そういうことか。

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