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第6話 サクヤの接客

 最初のお客様が食べ終わり、お会計を済ませた。


「また来るよ」


「お待ちしてます。有難う御座いましたー!」


 この上ない嬉しいお言葉を頂けた。

 これで一人のリピーターをゲットしたことになるな。

 気に入ってくれて胸が躍る。


 出て行ったすぐ後に入ってきたのは、冒険者風な男性二人。


「いらっしゃいませー!」


「おぉー! 可愛いお姉ちゃんだ。いいねぇ」


 剣を背に下げた男が軽口をたたく。


「ふふふっ。ありがとうございます! そちらの席どうぞー!」


 一瞬身構えてしまった。

 サクヤに何かするようならすぐに出ていかなければ。

 そんな風に構えていたのは俺だけだった。


 サクヤはちゃんと対応してメニューを紹介している。


「ここって新しくなったんだよね? なんか新メニューでおすすめとかある?」


 その質問は来ることを想定している。

 サクヤには覚えてもらっているから心配ない。


「新メニューのおすすめは、トロッタの生姜焼きです! 生姜のパンチが効いていておいしいですよ?」


「じゃあ、俺はそれにしようかな」


「僕は無難にトロッタ煮にしようかな」


 剣の方が生姜焼き、杖の男がトロッタ煮だな。


「トロッタ生姜焼きとトロッタ煮でーす!」


「あいよ」


 素早くトロッタのロースへ薄く薄力粉をつける。

 そして、鉄鍋へと並べていき、ざく切りにしていたタマネギのようなタモネギを投入。


 食欲をそそるようないい音と香りを出しながら炒めていく。

 ピンク色の部分がなくなったのを見計らってタレを投入。


 ショウガのすりおろしと醤油、砂糖、この世界のテクルというテキーラのような強い酒を入れたタレが香ばしい香りを更に引き立てる。


 これはおやっさんに勧められたんだよな。これなら肉がやわらかくなるんだと。


 同時にトロッタ煮の方も煮ながら進める。


「この店って今日からなの?」


「そうです! ウチも今日から働いてます!」


「だよねぇ、前はじいさんとばあさんだったもんね。今度ご飯とかどう?」


 手を動かしながらその会話を聞いていて、身を乗り出した。


「ウチ、家に小さい子供がいるのでそういうの、いけないんですー。すみませーん」


「まじか。そこの店主との子?」


「内緒ですー」


「マジかよー」


 チラリと横目で見ると頭を抱えている剣の男。


 まったく、さっそくサクヤを誘うとはけしからんな。

 可愛いから仕方がないとはいえ、見逃せないぞ。


 出ていこうと思って身を乗り出してしまったが、杞憂だったな。

 俺なんかより、よっぽど上手に対応してるじゃないか。さすがだ。


「持ってってちょうだーい」


 元気のいい返事をしたサクヤが料理を取りに来てそれぞれへと料理を配る。

 どっちが何を頼んでいたのかをしっかり覚えているみたいだ。

 この子はすごいな。かなり仕事ができる子だ。


「えっ⁉ うまっ! これ、うまいぞ! 食べたことない!」


 この世界は日本の調味料は普及しているのに、日本料理はそこまで普及していないようなのだ。それはおやっさんの話を聞いていた。


 だから、何個か俺の得意料理をメニューに加えている。おやっさんもそこを狙ってトロッタ煮を作ったんだ。それが売れてた。予想は間違ってなかったんだよ。


 あっという間に食べ終わった冒険者風の二人は会計を終わらせるとこちらに視線を送った。


「うまかったよ。この子を大切にしてよ? 仲間にもピンク髪の子には手を出さないように言っておくから」


 なんか変に勘違いしてないかな?

 まぁ、いいか。

 なんで仲間にも周知してくれるんだろうか?


「ダンナ、濃密な殺気が出てたぜ? 相当な修羅場潜ってきたんだな。飯食いながらそんなの浴びたくねぇからみんなにも伝えておく。じゃあ、またくるぜ」


 手を振って出ていく冒険者の二人。


 俺が殺気を放っていた?

 そんな、修羅場潜ってないけどな。

 よくわからんけど、まぁいいか。いい方向に転ぶなら文句はない。


 それからというもの、来るお客さんは冒険者だろうと、兵士だろうと。

 とても大人しいお客さんばっかりだった。

 あの冒険者の影響だろうか。


 なんか変な噂が広がっていたら嫌なんだけどなぁ。

 しかも、サクヤとの間に子供がいるということになっているかもしれない。

 客足が途絶えた。時間を見るとあっという間に14時。


「サクヤ、暖簾しまってちょうだい」


「はーい」


 調理場を片付けながら売れ行きの状況を見る。

 やはり、トロッタ煮はすべて売れてしまった。

 なんとか足りてよかった。予測が甘かったな。


 新メニューもわりと出た方だな。


 あまっている料理を何個か作っていく。

 これからやってくるであろう子達の飯だ。


「サクヤ、嫌な思いしなかったか? 飯に誘われていただろう?」


「大丈夫です! あんなの、前のバイトの時はいつもでしたから。身体触られても何も言えない職場だったから本当に嫌でした」


 どんな職場だよ? それは。

 またフツフツと怒りが湧いてくる。

 ったくなめた職場だ。


 胸の内に気持ちをしまいながら、料理を用意する。


「もし、夜営業でそんなことがあれば、すぐに言えよ? 声を上げてもいい」


「ふふふっ。わかりました。ありがとうございます。そうしますね」


「あぁ。そいつは出禁にする」


「次やったら、ですよね? じゃないと、お金を落としてくれる人が減っちゃいます」


「サクヤが嫌な思いをするくらいなら、そいつから金はもらいたくないね」


「……ありがとうございます」


 サクヤは礼を言いながら、テーブルを拭いていた。

 その目尻に光るものがあったのは見なかったことにしよう。

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