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第3話 それが一番難しいと知っている(イエローの場合)

◇ イエローことすーさんの場合


『つーことでゆうの話をしといた』

「自殺止めとして最強の手札てふだだよな、それ」

『それでも衝動で死ぬ可能性はあるからな……マァ、いいや。暇なら夕飯食おうよ、今日。俺んちで宅飲み二日連続パーリーナイト』

「なんだそれ。いいよ。んじゃまたあとで」

『ん。よろしく、すーさん』

「うぃー」


 水戸みと君との電話を切ってから窓の外を見る。蝉がうるさく、空が高い。

 夏だ。

 帰ったらアイス食べようと決めて顔を洗う。もうすぐ昼休憩の終わりだ。

 タオルで顔をふいて化粧水と乳液で整えておく。男とはいえ接客業だ。見目にはこだわっておいた方がいい。

 目の下のシミを軽くコンシーラーで飛ばして布マスクを装着する。


「マネージャー出られますー?」

「うぃー、いけまーす」


 俺の仕事は電気屋でスマホを売ることなのだが年々難易度が上がっている。ネットで買う人が増えているし、契約パターンも増えているし、景気は悪いし、リピーターが出来るような仕事でもないし、とにかくこの仕事は年々ハードモードになっていてこの先もハードにしかならないだろう。だから飽きたらやめようと思って働いていたのだが、気がついたらそれなりのポジションになっていた。今じゃ気軽にやめられない程度に立場がある。

 とはいえ仕事は仕事だ。プライベートにまで引きずるものでもないし、やっぱり飽きたら俺はすぐにやめるだろう。


「マネージャーは休みなにしてたんですかー?」

「俺? 恋人が『やっぱり私あの人がすきなの!』って言うから元カレのもとへ送り届けた。成田なりたまで車でビューン」

「おお……軽い気持ちで聞いたら爆弾返ってきた」

「で、成田観光してきたからお土産休憩室においてあるよー。あとで食べてね、饅頭」

「あざーす。でも今回は結構長くなかったでしたっけ?」

「そうね、半年? ……俺にしては長いよなあー」

「マネージャー、なんで毎回ふられるんです?」

「なんでだろう。付き合ってって言われて付き合って、別れてって言われて別れてるからかな」

「受け身ー」

「それなー」


 そんなことをメンバーと話す隙間に接客をして、接客の隙間に勘定をして、その隙間にまた雑談をする。そうしている大体一日が終わる。

 その接客において一日に三回ぐらい『爆弾ばくだん』みたいなお客さんも来るのだが、それはそれで爆破処理みたいな気持ちで対応していればその内終わる。


土下座どげざしろよ!」

「あ、警察けいさつ呼びますねー」


 俺の仕事は大体そんな感じだ。


「マネージャー、おつしたー」

「はい、おつおつー」

「つか飲みいきます? フラレ記念に」

「今日はもう別件あるからー木曜日ならいいよ」

「やり。じゃあ木曜日飲みましょうね」

「はいはーい」


 そんなテンションで仕事を終わらせて、やらかしてないといいなあと思いながら水戸くんの家に向かった。



________________________________________

「うあ!」


 水戸くんの家のドアを開けたら聞いたことない一くんの叫び声が聞こえてきた。

 確実にやらかしてることを理解した上で寝室の扉を開くと、ベッドに横たわっているにのまえくんと、ベッド脇に立ちなにかを囁き続けている水戸くんがいた。身体的な接触はないようだが一くんが出している声が完全にピンクなので、つまり完全にアウトである。


「……水戸くん、俺が来たから十八禁・・・はやめて」


 彼のしりを蹴ると「はやかったな」と水戸くんが振り返った。いつも通りの青白い頬だ。とりあえずそんな水戸くんは無視して一くんの様子を見ると、服に一切の乱れはないが、どっかいっちゃってる顔になっていた。


事後じごじゃん」

「俺は指一本触れてません、ただの催眠さいみんです」


 忘れちゃいけない大前提として、水戸くんは人間としての倫理りんりが死んでいるのだ。


「水戸くんの催眠はアウトだよ。ガチだもん。アウトだよ」

「こいつが『そういや水戸さんっていつ続木さんに告白すんの?』とか言うから」

「そりゃそうだよ。俺だって思ってるよ。っていうかアウトだよこの状況」

「局部出してないのに?」

「エロ本基準やめなさいよ。つーか『失恋ファイブ』内はやだって言ってたじゃん」

「優の話するとイライラするから……マァ、でもグリーンに話したときもこんぐらいはやったぞ? グリーンは怒んなかったし、こんなのただの遊びだろ」

「ドクズ……本当にどこまでもドクズ……草も生えない……つづきんにはしてないよな? それやったらまじで望みなくなるぞ」

「してない。あいつの心ははがね過ぎて全く付け入る隙がなかった。……つーか、俺そんなに駄々もれかよ? はー、ないわー……」


 俺は一くんを抱き起こし、水を飲ませてやり、頭を撫でておいた。

 一くんは目を潤ませて顔を真っ赤にして震えていたので「犬に噛まれたと思って諦めな?」と諭したが、目の焦点合わないし、プルプルしている。


「……水戸くん、これ帰ってこれるの?」

「これるよ。色気は残るけど」

「帰ってこられてないよ。それは『開発かいはつされた』っていうんだよ」

「俺は技術職なんだから開発しちゃうのは自明じめいでしょ。つーか……飯買ってくるわ。んで頭冷やす。あと任せた、すーさん」

「ん、いってら」


 水戸くんは軽く俺の髪を撫でてから、出ていった。

 やっぱり、彼としては珍しく機嫌が悪そうだった。彼は外道げどうではあるが人間なので、羽山はやまくんのことを思い出すとメンタルが荒れる。本人も自覚しているみたいだけど、彼はそこまでメンタルは強くない。むしろ彼ほどの寂しがり屋はあまりいない。

 まあ、なんであれ外道だ。

 友人としては面白いがそれ以上の関係になるのは鋼か、鋼のメンタルの持ち主でなければ勧められない。だからレッドとはお似合いだと思うのだが、どうも水戸くんは本命には奥手おくてらしく全く進展しない。多分レッドが本当に結婚したら水戸くんは数年単位で引きずるのだろう。バカなやつである。


「……なにされたの、俺……」

「あ、おかえり」


 そうこうしていたらようやく一くんの目が開いた。彼はようやく俺を視認したらしく、震えながら「……だれ?」と聞いてきた。


「イエローことすーさんだよ。大丈夫?」


 一くんは首を横に振った。


「……ぐちゃぐちゃしてる……頭……なんか、いずりまわってる……なめくじ……」

「うーんと、とりあえず風呂沸かすからちょっと待ってな」


 水戸くんは一回司法しほうつかまった方がいいなと思いながら風呂を沸かした。一くんが立てないというから介助かいじょをして、死にそうというから「よしよし」と慰めつつ、水戸くんの服を着せた。

 そうこうしていたら水戸くんはピザを大量に買って帰ってきた。


「なんでピザ? 水戸くん、ピザ食わないじゃん」

「俺は酒飲むからすーさん食ってて。それをつまみに飲む」

「また血吐くぞ、それ」

「いいよ。俺はもう酒だけでいい……俺の友達は酒だけだ……」


 俺はアル中の水戸くんを見ながら、ソファーの隅に座っている一くんを指差した。


「謝っときな?」

「……うぃー……」


 素直に頷いた水戸くんは一くんの足元の床に膝をついた。


「ごめん。……無視しないで。なんか言って」

「……」

「……でも、その、……殴るよりよくないか? 気持ちよかったろ?」

「謝れ」

「申し訳ありませんでした」

「……犯罪では……?」

「脳が気持ちよくなる音出しただけで犯罪になるの?」

「存在が犯罪では?」

「ごめんって、……八つ当たりした。本当にごめんなさい」


 一くんはのろのろと顔を上げて、深くため息をついた。


「イラついてたなら先にそう言うべきでしょ」

「そりゃもう、本当、おっしゃる通りで……」

「大人の対応じゃないだろ、こんなの」

「本当にそうです、はい……」

「やめてって言ってもやめないし」

「え、それは言われてないし、もっとって言われたからやっ……いてえ!?」

「口答えするな!」

「ごめんなさい! 悪かった、俺が悪かった! 待て待て待て殴るな、暴力はやめよう⁉」


 説教されてる水戸くん面白いなあと思いながら俺はピザを食べ始める。うまい。ピザは大体いつも裏切らない。他のものは大体裏切る。


「水戸くん、ジンジャエール飲んでいいー?」

「いいよ、それ元からお前の分……イッテェ! 待て待て、そのこぶしの握り方だとお前指折るから! ちょっと落ち着けって!」

「うるさい変態‼」

「アイスあんじゃん、これも食っていいのか?」

「いいんだけど一回すーさん、うわっ、一回すーさん俺を助けよう!? いってえ! 左頬ばっか殴るな‼ 差し出してんだから右もやれよ‼」

「意味わかんないんだよ、あんた‼」


 ふたりはそのまま暴れまわっていたが、十分後には落ち着いた。

 というより一くんの体力が切れた。このように全力の喧嘩は長く続かないものなので、基本的に放置が一番早いのだ。


「一くん、ピザ食う?」

「……食います」

「水戸くんは?」

「俺はハイボールだけでいい。あー、口の中切れてーらー……」

「最高のスパイスじゃん。すきでしょ、水戸くん。なまぐさいウイスキー」


 水戸くんは片眉をあげて「マァ、な」と笑った。どうやら機嫌は戻ったらしい。血の気の多い人だなと思いながら、俺はピザを頬張る。


「そもそもピザなら宅配たくはい頼めばよくなかった? なんで持ち帰りしたのよ、水戸くん」

「知らんわそんな制度。俺、ピザ食わねえもん。大学生がすきそうなもんなんてピザと牛丼くらいだろ……」


 水戸くんは一くんの袖を引っ張ったが軽くはらいのけられていた。俺がケタケタ笑うと水戸くんは心底不愉快そうに眉間にシワを寄せた。が、すぐに眉を下げて一くんの脇腹をつつく。


「ねえ、ごめんって。そろそろ目合わせてくんない?」

「ぜってーやだ」

「うわー……まじ? そんな怒ることなのかよ」

「知らない」

「……すーさん、交代して……俺は反省します……」


 水戸くんはハイボール片手にベランダに出ていった。


「あれはねてるなあ」

「……拗ねてんすか、あの犯罪者?」

「水戸くん末っ子だから」

「……だから俺に許せと?」

「いや別に許さなくてもいいと思うけど。水戸くん許されなくても、ずっと一くんと一緒にいるつもりだと思うよ。自分の知らないところで自殺されるのが一番怖いらしいから」


 一くんは長男気質なのか、うう、と既にほださされている反応である。

 とはいえ、水戸くんから羽山くんの話をされたら誰でもこうなる。だって、水戸くんは羽山くんの名前を口にするだけでも明らかに表情が変わる。すきですきで仕方がない、そんな顔をする。なのにもう羽山くんはいないのだ。

 その事実を知ったらさすがに水戸くんに同情するし、催眠にかけられるぐらいに心に隙を作ってしまう。でもその隙をついて本当に催眠をかけてくる辺りが水戸くんのクズさで全く同情の余地はない。

 なのに、一くんは絆されている。若いなと思いながら俺はピザを頬張る。


「……だったらなんであんなことすんですか……」

「その辺の感覚は俺にはわからんわ。水戸くん、挨拶でセックスするタイプだから」

「ボノボじゃん‼」

「いや人だよ。え、人じゃなかったかな?」


 少し考えてから「水戸くんの裸、見たことあるけど人だったと思うぞ?」と言うと「すーさんもボノボですか?」と聞かれた。意味が分からずしばらく考えてから、水戸くんとセックスしたことあるのかという意味だとわかり、「違う違う」と慌てて首を横に振る。


「温泉行ったことあるからさ」

「温泉……湯煙殺人ゆけむりさつじん?」

「死んでない死んでない。俺らは俺らで行くしかないというか……あー、これ今言うことかな」

「なんすか?」

「もう見た方が早いか……」


 説明が面倒になったのでTシャツを脱ぐ。


「『これ』入ってるから、俺ら風呂屋は貸し切りじゃないと入れなくて……」

「ヤクザー‼‼‼」

「俺は和彫りじゃないよ。和彫りは水戸くん……」

「内臓売られる‼‼‼」

「……あー、もういいや、水戸くーん!」


 呼んだ水戸くんが入ってきて俺を見て「なに? 三人でヤんの?」と言うので「水戸くん、そういうところ直しなね?」と返すと、心底不思議そうに首をかしげた。大事なことだから何度も言うが、彼には節操せっそう倫理りんりはないのだ。


「なに? どうしたらいいの俺?」

「背中見せたれ」

「あーはいはい、刺青いれずみの話か」


 水戸くんの背中を見た一くんはそのまま後ろに倒れた。震えている。


「やっぱ水戸くんの方がえぐいよなあ?」

「えぐくねえだろ。優なの、これは。あいつの自由の象徴なわけ」

「思い入れがえぐすぎる」

「お前みたいにサクッスパッじゃねえんだよ、俺は」


 確かにその通り。

 俺には執着しゅうちゃくというものがない。だからこんなふうに体に落書きを入れることもできる。

 水戸くんは俺とは真逆だ。執着故に体に跡を刻み込む。だから彼は背中から尻にかけて鳥の刺青が入っているし、俺は背中から腕にまで幾何学きかがく模様が入っている。

 しかし、一くんからしたらどっちもどっちらしい。


「えー、和彫りのが怖くね?」

「鳥は可愛いだろ」

「たしかに鳥は可愛いけども」

「つかなんでそんな話になったの?」

「温泉行きてえなって感じで」

「あー行くかー。すーさん旅行久しぶりだな。秋ぐらいかな。暇?」

「コテージ借りて釣りしてBBQして花火したい」

「最高ー……なあ、ピンクよ」


 水戸くんが一くんの背中にひたいをつけた。猫みたいだなあと思いながら見守っておく。


「一緒に行こうよ、旅行」

「秋、院試いんしでくそほど忙しいんで」

「来年でもいいから。俺が全部出すから、金ー。すーさんと旅行楽しいよ? 最悪俺おいてっていいからー、なーあー……来年一緒に旅行しよ、な?」

「……はいはい」


 俺はジンジャエールを飲みながら、「じゃあそれまで死なねーってことだよ、ピンク」と付け足すと、一くんは口をとがらせて「わかってますよ」と言った。そりゃそうだろうなと思った。さすがにこんだけ大人に手間かけられたらそうとしか言えないだろう。

 でも、こんなこと言っていても死ぬときは一瞬だ。だから目が離せない。それでも水戸くんは嬉しそうに笑うし、俺も多分似たようなもんだろう。


「じゃあどこにする? 一、どこ行きたい?」

「どこでも俺が車出すし、金は水戸くん出すからなんでもできるぞ?」

「そうそう。金しかないから俺。むしろ金だけならいくらでもあるから。なあなあ、なにする?」

「花火作るか? 盛大に打ち上げるか?」

「うるせー‼ 離れろおっさんども‼‼」


________________________________________


 月曜日、水戸くんの家まで、一くんを迎えに行くと「大学行きたいんすけど」と言うので、「じゃあ俺は聴講ちょうこうするわ」ということになった。


「聞いてもわかんないと思いますよ?」

「わかんないこと聞くの楽しいじゃん」

「そうかもしんないですけど……」

「あ、俺、どこでも楽しめるからあんまり気にしなくていいよ」

「そう言われましても……つーか、まじでひとりにしてくれませんね、あんた方……」

「うん? やだ? いやって言われてもそばにいるよ」

「……別にいいですけど」


 一くんは真面目だなあと思いつつ大学に行くと、一くんは男女問わず声をかけられている様子だ。友達が多いんだなあと思いながら、俺は学食でアンパンとカツサンドを買った。うまかった。


「一、二宮にのみや知らないか? あいつ俺のノート持ったまんま連絡つかねーんだけど」

「あいつ、今、太平洋だわ」

「ざっけんな、まじかよ」

「二週間は帰ってこないぞ」

「うわー……ありがとうー、帰ってきたら殺すわー」


 そんな話をして去っていく学友を見る一くんの横顔を見る。落ち着いているように、俺には見える。


「……なんすか?」

「まじで俺らにしか話してないの?」

「当たり前でしょ。あんたらにも話す気はなかったんです……でもバレたっていうか……いきなり肩つかまれて『お前ピンクな』って任命されたっていうか……あの人、なんなんですか?」

「水戸くんは心理学とロボット工学が専門らしい」

「サイコパスに習わせちゃいけないツートップじゃないすか」


 一くんは頭をかいてから「そんなに俺、死にそうですかね?」と言うので「そうね」と返しておく。彼を拾ってきたのが水戸くんならそういうことなのだ。水戸くんは病んでる人しか拾わない。


「グリーンも死にそうだから拾われてきたんだよ」

楠木くすきさんはなんかわかりますけど、俺は別に……今までと変わりませんよ」

「変わんないからしんどいんじゃね? つーか、俺は一くんがすきだから遊びたいだけ。そこまで心配はしてないから」

「……俺、午後は空きなんでどっか行きましょうか」

「いいねーりしようぜ」

「え、どこで?」

「釣り堀かな」


 一くんに便乗して研究室で魚を見たり、図書館で図鑑を見たり、ハゲているおじさんの話を聞いたりした。ハゲているおじさんが俺を見て「なにこの子、高校生?」と言ってきたときはゲラゲラ笑ってしまった。どうやら俺はまだまだ『大人らしさ』ってやつが身についていないらしい。

 それから学食で昼飯を食おうと天ぷらうどん(冷)を買ったところで電話がかかってきた。


「うわ」

「電話だれからです? 水戸さんですか?」

「水戸くんなら『うわ』とは言わんわ。友達だからね。つーか、一くんは水戸くんのことどんだけ嫌いなの?」

「嫌いっていうか苦手です」

「素直ー」


 などと笑いつつ、別れた元恋人からの電話に出た。

 無事すきな人のところに着いたことやら、話し合いが持てたことやら、あらやこれやの話から、また付き合えないかという話になった。

 またこのパターンか、という感じてしまうぐらい俺はこのパターンが多い。ため息を我慢して口を開く。


「俺はちゃんとすきだったよ。信じてもらえなかったけど、俺はちゃんとお前がすきだったし、今でも幸せになってほしいと思ってる。でもお前を幸せにする……その役目はもう俺じゃない。お前が自分で選んだんじゃん。今さらやっぱり、はない。それだけは絶対にない」


 まだなにか言いたそうではあったけど反論の言葉はなかったのか「ごめん」とまた言われた。二回ふられた気持ちになったけど、それで電話は終わった。ため息を吐くと一くんが「お疲れ様です」と言ってくれた。


「まいるよなあ……別れたんならおしまいだと思わない?」

「……復縁ふくえんしないんですね」

「ずーっと俺だけをすきなやつをずーっとすきでいたいからさー。終わったらおしまい。そんだけだよ」

「……わかります」


 ピンクが神妙しんみょうな顔で頷いた。だからつい笑ってしまった。


「なんで笑うんです? だってそれが一番じゃないすか」

「はいはい、飯食ったら釣りいこう?」

「……はい、行きます」

「たくさん楽しいことしような」

「……ありがとうございます」

「なんで礼を言うのさ?」


 ピンクは「強いっすね、すーさんは」と笑った。そう見せてるだけだと言うのも情けないし、そうだろうと強がるのも違う気がして「かもなー」と笑っておいた。 


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