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勤めている会社のことを親に説明できないまま三年経った。
しかしそれはこの会社が
けれどそれでも親には話せないのだ。
「おはよう! 今日も格好いいね、マイダーリン!」
だって出社して早々いきなりパンツ下げた女の子に出迎えられる会社なんてどう説明したらいいのか。
俺はとりあえず『彼女』の腰をつかみ、自分のロッカーから下ろし、ロッカーから自分の端末を取り出すとフロアを見渡した。誰とも目が合わない。
「誰が彼女のパンツ下ろしたんですか!」
俺の叫びにフロアの同僚たちがこちらを見た。すると先輩の
「そもそも朝からなんで『エッチ』オプション起動させてるんですか!」
「昨日、ローションの材料変えたんだよ。ほら、『
「結果、俺のロッカーベッタベタなんですよ。場所選んでくださいよー」
「あ。それ考えてなかったな……
「やっぱ『
「まあなー……あと『
「ですね。効率だけ考えると……」
と話している横で『俺たちの彼女』こと、この会社のメイン商品である『
今日もいい笑顔で本当に可愛い。
彼女は俺の
「これ、ボディーも固くしましたか?」
「ああ。リアル重視にしてみたんだけど骨っぽいか?」
「悪くはないですけど、あんまり固いと怪我させませんか? それに若干重くなりましたよね? ハンディある人からの需要高いですし、……カスタム出来るようにするとどうなります?」
「値段がヤバイ」
「ですよねーあと
と話していたら別の『彼女』と一緒に我らの社長がやってきた。今日も今日とてハンサム代表の顔をしている俺たちの社長はニコリと笑う。
「おはよう、川辺さん、速川さん。なにしてんの?」
「この間言ってたローションのボディーへの付着確認で……実験室でやろうと思ったんですけど、牧さんに『
「牧さん、『エッチ』オプション反対だからなあ……でもだからってここでやるなよ、ロッカーベタベタじゃん。彼女、掃除してくれる?」
「はい、ダーリン!」
「そっちの彼女は足あげてくれるかな?」
「はーい、ダーリン!」
彼女に足をあげてもらい大の大人が三人揃ってしゃがんで彼女の
「……あー、これ……
「生でやるなって話なんだけどな……ダメだな、これ。ボディが痛む」
「……エッチオプション要ります? やっぱりなくてよくないすか? 今のまんま、やろうとすると『同意のないセックスは犯罪です講座』始めるでよくないですか?」
「でも彼女と添い遂げたいって人がそこそこ出てきてるからなー……ごめんね、ちょっと掃除するよー。痛かったら言ってな?」
水戸さんは『無機物彼女』と
水戸さんは彼女をきれいに掃除すると、ちょうど彼女が俺のロッカーの掃除を終わらせてくれていた。「ありがと」とお礼を言うと「お役に立てて嬉しいわ、ダーリン!」と可愛い返事してくれた。
その横で水戸さんは深く息を吐く。
「このまま俺らの彼女になんでもかんでも出来るようにさせると人類が要らなくなる気がしてきた……んー……ちょっとどっかで会議するか。午後一ぐらいに俺と
「水戸さん、その会議、俺も出ていいですか?」
俺の質問に水戸さんはニンマリと笑う。
「いいよー」
「やった!」
「仕事好きだね、速川さん」
「楽しいですから」
「そ? マァ、従業員が楽しんでんのが一番だな」
水戸さんはそう言ってから彼女にキスをした。
「うっわ、……」
水戸さんは外見は普通にハンサムなのだが口を開けば
一通り確認したのか、彼はキスをやめて彼女の頭を撫でた。
「ここの環境でこれか……あー、やっぱ『エッチ』オプション難易度高いわ。下手すると壊れるし……採点機能つけるか? 下手なやつはできないようにするとかさ……」
「その辺もあとで検討しましょう」
「うん。そうしよう。じゃあ今日も楽しく彼女を作りましょうーよろしく!」
水戸さんはそうフロアの人間に声をかけるとまた研究室に引っ込んでいった。俺たちはそれを見送ったあと「この会社楽しいけどなあ」「代表があれだもんなあ」とため息をついた。
ちなみにこの一ヶ月後に俺の田舎の母が突然上京して「職場見学はできないの?」と言い出して、この会社設立以来最も大きな危機に直面することになるのだが、それはまた別の話である。