◆ 二宮
ニィノが怒ったところを俺は見たことがない。叱りはするけれど怒ることはないからだ。
ニィノはいつも俺を優先してくれるし、いつも俺を立ててくれる。前世で俺はお姫様でニィノは俺に仕える
それを疑ったことなんてなかった。
「ごめん。俺、このあと飲み会はいってる」
「は? ……俺よりそっちの飲み会が大事なのー?」
「つーかお前も既婚者なんだから、いつまでも俺とつるんでないで早く帰れよ」
なのに結婚したからってニィノがそんなことを言う。そんなつもりの結婚じゃなかったのに、ニィノは当然のようにそんなことを言う。大事なものが増えるだけと思ってたのに、結婚したからってニィノが俺から少し遠くなった。
「なんか、ムカつくなー……どんな飲み会だよそれー、俺も行っちゃだめなの?」
「お前だけは絶対に連れていけない、あんな地獄」
ニィノの顔を見る。いつものように表情はない。でも俺は見たらわかる。ニィノは嘘をついているときの顔じゃなかった。つまり本当に地獄みたいなところらしい。
「なのに俺より大事なんだ、それ」
「……比べられるものじゃないだろ。先に約束してただけだよ。変なこと言うな、二宮。……寄り道せずに帰れよ」
「……はぁーい」
その内、潜り込んでやろうと決めた。きっとニィノは驚いたように目を丸くして、そうして俺を叱るだろう。それだけだ。どうせそれだけだ。