田中さんが来てからというもの、なかなか先生と2人きりになれない。というか相手にすらされない。
あたしは先生とキスすらできなくて、身体も心も疼いているのに。
いっそ、先生を呪ってやりたい。大好きな先生があたしを見ないで他の子を見てるんだから。
先生と完全に結ばれない、あたし自身の運命を恨むしかない。
先生が田中さんに付きっきりで、アドバイスするようになった。
彼女は飲み込みが早いからか、直ぐに言われたことを取り入れる。
正直認めたくないが、あたしと同じレベルの絵が描ける子だ。
田中さん、絶対先生のお気に入りになってる。
ああ、イライラが止まらなくなった。
あたしの先生だったのに、なんでよ。
今日は筆が進まないから尚更腹がたつ。
先生が田中さんと居て楽しそうなところを見てると、気が気じゃない。
「鈴宮、心ここにあらずって感じだな」
中村の言葉ではっとした。
あたし、全然作品に集中できてない。
結局今日は上手く描けなかった。
部活が終わったあと、あたしは先生に引き止められた。
アトリエに呼ばれて、今日は2人で一緒に居られるのだと期待した。
先生が手に何か持ってる。手紙のようだ。
「この手紙、絵音さんがくれたんですよ。ふふっ。僕を尊敬してるし、大好きですと書かれてました。嬉しいものですね」
なんで、田中さん、わざわざ手紙を先生に渡したの。あたしの先生を取ろうとしてるの。
「そうそう、鈴宮さんにお話があるんだった。夏休みも今日まで。そろそろ、この関係終わりにしましょう」
え?どうして?
終わりになんてしたくない。
「…なんでよ。あたしより田中さんが好きだから?」
「違いますよ。教師である僕よりも、もっといい人が鈴宮さんには居ると思うんです。ほら、中村君とか。いつも鈴宮さんを見てるみたいですよ」
止めて。あたしには先生だけなの。
先生が大好きで誰よりも尊敬だってしてる。
「嫌!あたしは先生が好き」
「僕は教師であり、結婚もしています。鈴宮さんの人生に責任は取れません」
「今更そんなこと言わないで」
先生の腕を掴もうとすると振り払われた。
「もう、終わりにしたいんです。教師と生徒に戻りましょう。今ならまだ間に合う」
戻れるはずなんてない。そんなの、嫌!!
先生!! 先生はあたしの!!
あたしは近くの机に置いてあった、鋭いペインティングナイフを見つけた。
そうだ。あたしから離れるくらいなら……
ペインティングナイフを手に取り、先生の胸を目がけて何度も刺した。
先生の何もかも全部、あたしだけのものなんだ。
完全に自分のものにならないなんて、憎い。
だから、だから……