セレナリーゼが
「お客様、何かお探しでしょうか?」
レオナルドが声の方に顔を向けると、二十代くらいの
「え?…あ、はい。そうです」
自分だけで見ている分には声なんてかけられないだろうと思っていたレオナルドは少し
「どのような物をお探しですか?」
「お世話になってる
「それはおめでとうございます。
それは質問というよりも確認というニュアンスだった。子供とはいえ、貴族が贈り物をする相手は貴族であることが普通だから念のため
「あ、えっと……」
けれどレオナルドはすぐには答えられず言い
少しだけ考えたレオナルドは、
「……いえ、貴族ではありません」
そう答えたのだった。
「
レオナルドの答えに、女性店員は驚きも見せずに笑顔で接客を続けた。もちろん
「それでは、こちらなどいかがでしょうか?」
そう言って店員が案内したのは
(ああ、そうか。俺は最初から手巾だけは
そこに並ぶ手巾を見てレオナルドは無意識にこれを
『なぜ除外していたのですか?』
(ああ、それはさ、ミレーネは成人祝いとして父上から手巾を
『ゲームでそのような話が?』
どうやらステラは聞かされていなかったようだ。それも仕方がないことかもしれない。レオナルド自身、ミレーネの成人祝いのことと、目の前の手巾を見てようやく思い出したくらいなのだから。いくらやり込んだゲームとはいっても、全部を全部、
(そうそう。話してたらどんどん思い出してきた。実物は出てこないんだけど、ミレーネが
『レオの記憶は
(もう一年前の、しかも前世の記憶だぞ?全部はさすがに無理だよ。それにこうして思い出したんだしさ)
『人間は忘れていく生き物ですものね』
(
『以前言っていた
(そう。もどかしいけど詳細を伝える
そうしてついステラとの会話に集中していると、
「お客様?お気に
手巾をじっと見つめながら固まってしまったレオナルドに、店員が説明を中断して声をかけてきた。
「っ、いえ、そんなことはないです。すみません。ちょっと考え事をしてました」
「私こそお考え中のところをお
店員が頭を下げるのを見て、レオナルドは
「いえいえ、ぼーっとしていたのは俺なので頭を上げてください」
「……ありがとうございます」
「それより続きを聞かせてくれますか?」
「かしこまりました。手巾であれば、普段使いもできますし、手縫いの刺繍によって特別感も出ますのでお
「なるほど。どれもすごく綺麗ですもんね」
刺繍が施された手巾の数々にレオナルドの口から素直な感想がこぼれる。
「ありがとうございます」
「ちょっと見させてもらいますね」
フォルステッドからのプレゼントを思い出したレオナルドだが、店員も言っている通り、手巾なんて普段使いするものは何枚持っていても問題はなさそうだ。自分が贈るものなんて普段使いにしてくれたらいい。
そう考えると、確かにこういった小物はアリだなと思ったレオナルドは一つ一つ見ていくことにしたが自分のセンスには自信がない。
どうしたものかと悩んでいたら、一つの手巾に目が
その手巾は、白地の布に、青色の糸で、おそらくはバラが一輪刺繍されている。が、それだけではない。もう一つ、水色の糸で、複数の同じ花が刺繍されていた。名前はわからないが、なんとなく星のように見える五枚の
「これ、いいな」
なんとなくだが、レオナルドはこれが気に入った。水色というのがミレーネの髪色に近くて、それも好印象だった。
「そちらはバラと少し珍しいですが、ブルースターという花の刺繍になります」
「へえ、そうなんですね。バラはもちろん綺麗ですけど、ブルースター?というのも可愛い花ですね」
「ありがとうございます。そちらは花言葉も素敵なんですよ?」
女性店員が言うには、青いバラは夢が
レオナルドは花言葉なんて全く知らないが、結構いい意味みたいだ。というか、だから刺繍に選ばれているんだと納得した。
信じ合う心というのは自分とミレーネの間には成立しないだろうな、とレオナルドは少し
『あなたは自分への
考えを読み取ったステラがまるでレオナルドをフォローするように言う。
(ははっ、ありがとう。けど俺は
ステラの言葉にレオナルドは思わず
だけど、夢が叶うと幸福な愛、というのはミレーネにぴったりだと思う。ぜひそうなってほしい。主人公と結ばれるかはわからないが、ゲームの結末は
ゲームのミレーネルートでは、精霊を宿したレオナルドが暴走して、ムージェスト王国の名だたる貴族を次々と殺していく。それが終わると王族を
だが、その戦いの中でミレーネは、シャルロッテを狙ったレオナルドの攻撃からシャルロッテを
結末だけを言ってしまえばこんなものだが、そこまでのストーリーがあってからのこの結末は、涙なしには見ていられなかった。不幸なことが多かったミレーネだからこそ幸せな結末を迎えてほしかったのだ。
そんな彼女だからこそ、この世界では夢を叶えて、幸せになってほしいとレオナルドは思った。そもそも今のステラとの関係を考えれば、自分がゲームのようになる可能性は低い、はずだ。それにどのルートに進んだとしても、未来のことは変えていけると信じている。自分はそう考えてずっと行動しているのだから。
(自分勝手な
『そんな言い方をするものではありません』
(……うん)
「その花言葉もいいですね」
『あなたの
(本当にな)
ステラからもお
「ちなみに、これはいくらですか?」
「そちらは金貨三枚になります」
手巾一枚で三十万ベイル。一般人の生活費のだいたい三か月分だ。前世の一般常識が高いと思わせてくるが、貴族向けの商品、それも手縫いの刺繍が入った品であることを考えれば
「決めました。これをいただけますか?」
こうしてレオナルドはミレーネへのプレゼントを決めたのだった。
「ありがとうございます。それではすぐにお
レオナルドは代金を支払い、
いい買い物ができたと少し浮かれながら、セレナリーゼ達の元へ戻るレオナルドだった。