『
時刻はすでに夜中。つい先ほど日付が変わったところだ。しかし精霊はそんなことを気にしてはいないようだ。
「ああ、それは願ってもないことだけど……、その前にさ、精霊さんの名前考えたんだ。聞いてくれる?」
レオナルドも時間を気にしている様子はない。どころか、特訓の前にしておきたい話があった。
『そんなことも言っていましたね。どうぞ、お好きにしてください』
「うん。えっと…、ステラ、っていうのはどうかな?」
『っ…………』
だが、精霊からの反応がない。そのことに不安が
「?…もしかして気に入らなかった?」
『…………
レオナルドの問いにも反応は
「?……ああ、ステラっていうのは前世の世界にあった言葉なんだけど、星とか星光って意味でさ、精霊さんにピッタリかなって」
理由を
『……その名前も、ゲームに出てきたもの、ですか?』
「え!?いや、違うよ?ゲームには精霊さんの名前は出てこなかったから。……説明するのはちょっと恥ずかしかったんだけど、初めて精霊さんを見たとき、白く光る
言葉の意味だけで
『……そう…ですか……』
精霊はそれだけ言うと再び黙ってしまった。
その沈黙をレオナルドは精霊が嫌がっているのだと受け取った。
「あ、あのさ、無理にその名前にする必要はないから、嫌なら嫌って正直に言ってほしい。もう一度考えるからさ」
『っ、いえ。………誰も嫌なんて言っていません。勝手に早とちりしないでください。……ステラで、結構です』
「本当に?無理してない?」
『無理なんてしていません。……今後、私のことはステラと呼んでください』
「わかった。じゃあ、これからよろしくステラ」
『はい』
そこでようやくレオナルドの肩から力が抜ける。
「はあぁ~、よかったぁ~」
どうやら自分で思っていたよりもずっと緊張していたようだ。
『それで、どうしますか?特訓はするのですか?』
そんなレオナルドの様子に気づいていないのか、無視しているのか、精霊―――ステラは、再度訊いた。レオナルドは
「あ、ああ、もちろん。やる、やるよ。けど、どうやってやるんだ?室内でできること?」
『そうですね。あなたはまず霊力を感じるところから始めないといけませんので―――』
ステラがそう言うと、レオナルドの目の前に、光る
「うわっ!?っと、と。ステラ、いきなりこんなもの出したら危ないじゃないか」
言いながら慌てて黒刀を手に取るレオナルド。
『今の状態ではその刀に殺傷能力なんてありませんよ?何も切れないただの
「え?そうなの?」
レオナルドはステラの言葉の
「……本当だ……」
触れた指は薄皮一枚切れることはなかった。不思議そうに黒刀を見つめているレオナルドを無視して、ステラは黒刀を
『その刀を握って、力を感じることに集中してください。それに
「わ、わかった」
どういう意味かよくわからなかったレオナルドだが、ステラの言葉に
しばらく互いに無言の時間が流れる。
(っ!?これは……?)
すると、レオナルドは柄を握る手のひらから温かい熱のようなものを感じ始めた。
ちなみに、ここまでレオナルドは、その方が自分の考えをしっかり伝えられる気がして口に出して話していたが、今は集中力が途切れてしまうことを
『感じましたか。中々早かったですね。それはあなたの霊力に反応して少しずつ体内に広がっていくはずです』
ステラが言った通り、その熱は手のひらから伝わっていき、
(全身が温かい……?)
『それがあなたの中にある霊力です』
(これが俺の霊力……)
『次は今感じた体内の霊力を手のひらに集めるように意識してみてください』
(わかった。やってみる)
レオナルドは今感じた温かな熱を、自分の手のひらへと持っていくように集中力を高めていく。
再び
体内の霊力を動かすという感覚に苦戦しているのか、動いている訳でもないのに、レオナルドの
そうして、どれほどの時間が過ぎたのだろうか――――。
『目を開けてみてください』
突然ステラの言葉がレオナルドの頭に響いた。
ステラの言葉に従い、レオナルドはゆっくりと目を開けていき、自分の握っている黒刀を視界に捉え、その目を丸くした。
そこにあったのは
「なんだ……これ……?」
レオナルドは
漆黒の刀を持っていたはずのところに、純白の刀があれば、驚くのも無理はないだろう。
『あなたの膨大な霊力が刀に流れているんです。それがその刀の本当の姿、とでも言えばいいでしょうか。その状態になった刀を先ほどのように触ってはいけませんよ?通常の武器とは一線を
「あ、ああ。わかった……」
反射的に返事をしたレオナルド。ただ、視線は純白の刀―――、白刀に
レオナルドの中にあるとステラが言っていた霊力、不確かなそれを目に見える形で示されたのだから当然かもしれない。
しかも、自分の霊力を流したこの白刀は、とんでもない強度と切れ味だと言う。自分には戦う力がある、それを証明してもらった気がして徐々に
するとどうしたことだろうか、純白だった刀が今まで通りの黒刀に戻ってしまった。
「え?あれ?」
『霊力の流れが途切れたんですよ。そんなことでは実戦では使い物になりませんね』
「うっ…、ごめん」
レオナルドはバツが悪そうに謝罪した。
『ですが、まあ、元々持っていた力とはいえ、霊力を意識して動かすことはできるようになったのですから第一段階は合格でしょうか』
「そっか…。ありがとう、ステラ」
ステラの言う通り、これはまだ第一歩でしかない。身体強化、さらには精霊術とまだまだ先があるのだ。自分はもっと強くなれる。それがレオナルドにはたまらなく嬉しかった。