シルクのパジャマをゆっくりと剥いでいく。
インナーをたくし上げると、真っ白な肌があらわになった。触れると柔らかく、しっとりと指に吸い付いてくる。
その感触が気持ちよくて、俺は両手で柊の肌を撫でた。細い二の腕、肩、背中。浮き出た鎖骨に唇で触れると「んっ」と小さく柊が喘いだ。
柊の目から涙が零れる。
泣かせたくない。大事にしたい。そう思うのに、俺はこの行為を止めることが出来なかった。
俺は、柊と二人で、上手くやっていける気がしていた。
たとえ彼が仮面を被っているのだとしても、俺に見せる全部の顔が偽物だとは思えなかった。
もしかしたら、多少は好かれているのかもしれないとさえ思った。
でも、違った。
泣くほど嫌なのだ。
だったら、なぜ須王の家に帰らなかった?
同じベッドで寝た?
ああ、そうだ。彼は免疫不全のΩなのだ。
生きるためだ。俺はただ遺伝子の相性で選ばれただけ。
『宗一郎さん、大丈夫ですか?』
『顔色が悪い気がするので』
『まさか、宗一郎さんに朝食を作ってもらえるなんて思いませんでした』
『これ、すごく美味しいです』
『昨日はカルパッチョ風のサラダを食べました』
『スペアリブです』
『宗一郎さんに食べてもらいたくて作りました』
柊は、俺に笑いかけてくれた。
あの柊は、偽物だったのだろうか。
幸せだと、そう思っていた日々が壊れていく。
俺は、ただの獣だった。
明け方近くになり、ようやく小さな体を手放した。
柔らかな髪の隙間から、白い首筋が見えた。そっと髪を梳きながら、逡巡する。
細いうなじの上に、ぽたぽたと雫が落ちる。
俺は、柊のうなじに歯を立てた。わずかに塩味がする。
仮面を被ろう。結婚する前にそう決意した。でも、気づいたら、いつの間にか俺は素のままの自分になっていた。
ありのままの自分だから、それを受け入れられないと知って傷ついている。だったら、偽物になればいい。今度こそ、ちゃんと仮面を被ろう。
俺の本性は獣で、自分だけが傷つきたくないと思う、弱くてどうしようもないαだった。