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第11話 柊の涙

 シルクのパジャマをゆっくりと剥いでいく。


 インナーをたくし上げると、真っ白な肌があらわになった。触れると柔らかく、しっとりと指に吸い付いてくる。


 その感触が気持ちよくて、俺は両手で柊の肌を撫でた。細い二の腕、肩、背中。浮き出た鎖骨に唇で触れると「んっ」と小さく柊が喘いだ。


 柊の目から涙が零れる。


 泣かせたくない。大事にしたい。そう思うのに、俺はこの行為を止めることが出来なかった。


 俺は、柊と二人で、上手くやっていける気がしていた。


 たとえ彼が仮面を被っているのだとしても、俺に見せる全部の顔が偽物だとは思えなかった。


 もしかしたら、多少は好かれているのかもしれないとさえ思った。


 でも、違った。


 泣くほど嫌なのだ。


 だったら、なぜ須王の家に帰らなかった? 


 同じベッドで寝た?


 ああ、そうだ。彼は免疫不全のΩなのだ。


 生きるためだ。俺はただ遺伝子の相性で選ばれただけ。


『宗一郎さん、大丈夫ですか?』


『顔色が悪い気がするので』


『まさか、宗一郎さんに朝食を作ってもらえるなんて思いませんでした』


『これ、すごく美味しいです』


『昨日はカルパッチョ風のサラダを食べました』


『スペアリブです』


『宗一郎さんに食べてもらいたくて作りました』


 柊は、俺に笑いかけてくれた。


 あの柊は、偽物だったのだろうか。


 幸せだと、そう思っていた日々が壊れていく。


 俺は、ただの獣だった。


 明け方近くになり、ようやく小さな体を手放した。


 柔らかな髪の隙間から、白い首筋が見えた。そっと髪を梳きながら、逡巡する。


 細いうなじの上に、ぽたぽたと雫が落ちる。


 俺は、柊のうなじに歯を立てた。わずかに塩味がする。


 仮面を被ろう。結婚する前にそう決意した。でも、気づいたら、いつの間にか俺は素のままの自分になっていた。


 ありのままの自分だから、それを受け入れられないと知って傷ついている。だったら、偽物になればいい。今度こそ、ちゃんと仮面を被ろう。


 俺の本性は獣で、自分だけが傷つきたくないと思う、弱くてどうしようもないαだった。


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