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第7話 朝食

 翌朝、柊はきっちりと身なりを整えてからリビングにやって来た。


「おはようございます」


「おはよう。寝てなくていいのか」


「平気です」


 ニコニコと笑う柊をあまり見ないようにして、俺は彼をダイニングテーブルに座らせた。


「柊はいつも朝、何を食べてた?」


「食欲がある日は、パンとスープとサラダです」


 優雅に朝食をとる様子が想像できた。須王家には使用人がたくさんいると聞いている。おそらく自分で食事の準備などしたことがないはずだ。


 俺は電気ケトルで湯を沸かし、その間に買っておいたバターロールを袋からひとつ取り出した。粉末タイプのスープに沸騰した湯を注ぎ、一応はパンとスープの朝食が完成する。


「サラダはないんだけど」


「ありがとうございます。うれしいです。まさか、宗一郎さんに朝食を作ってもらえるなんて思いませんでした」


 柊がうるうるとした目でこちらを見る。そんな顔をしたって騙されないぞ俺は。こんなもの作ったうちに入らない。


 笑顔の裏では「こんな貧相な朝食をよくも僕に食べさせたな」と憤慨しているかもしれない。俺はちらりと柊を見る。


 彼はマグカップを両手で持ち、一生懸命にスープをふうふうしていた。どうやら猫舌らしい。


 ふうふうする度に、頬がまん丸に膨らんでいる。面白い顔だ。明日からも完全に沸騰した激熱のスープを作ってやろう。


 心の中でニヤニヤしていると、柊がもそもそとパンを食べ始めた。俺なら一口のバターロールを何回も齧っている。


「……ん? あ、これ。バターをぬっていないのに、バターの味がします」


 柊が不思議そうに顔をあげる。


「バターロールだからな。食べたことあるだろ」


「こういったものは初めてです。パンといえば、いつもライ麦パンだったので」


 ライ麦パンは栄養価が高いらしい。ビタミンB類やミネラル、食物繊維が小麦のパンよりも多く含まれているのだという。


「グルテンフリーですしね」


 悪かったな、グルテンフリーじゃなくて。栄養価も低くて。これが庶民のパンだよ。


「……ライ麦パン、買ってくるよ」


 どこに売っているのか知らないけど。普通のスーパーに置いてあるのか? 見た記憶はない。高級な店に行かないと買えないのだろうか。



「いえ、あの。僕、このパン好きです」


「でもグルテンフリーじゃないんだろ」


 少し尖った声が出た。


 あ、これはちょっと嫌味だったな。


「祖父が小麦粉アレルギーだったんです。それで、須王の家ではパンといえばライ麦パンだっただけで……」


 しょんぼりと下を向く柊を見て、騙されないぞと思いながらも心が痛む。俺はガサガサと袋を開けて、バターロールをトースターに放り込んだ。


「……焼いても美味いんだけど、食べる?」


 温めるとパンはふわふわになって、バターがじゅわじゅわとしみ出てくる。「食べたいです」と言う柊に一つ渡す。


「これ、すごく美味しいです」


 ふにゃふにゃと笑う柊に思わず見惚れそうになった。「そうだろ、これが庶民の味だぞ」と言いながら、俺は必死に自分を律しようとしていた。


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