翌朝、柊はきっちりと身なりを整えてからリビングにやって来た。
「おはようございます」
「おはよう。寝てなくていいのか」
「平気です」
ニコニコと笑う柊をあまり見ないようにして、俺は彼をダイニングテーブルに座らせた。
「柊はいつも朝、何を食べてた?」
「食欲がある日は、パンとスープとサラダです」
優雅に朝食をとる様子が想像できた。須王家には使用人がたくさんいると聞いている。おそらく自分で食事の準備などしたことがないはずだ。
俺は電気ケトルで湯を沸かし、その間に買っておいたバターロールを袋からひとつ取り出した。粉末タイプのスープに沸騰した湯を注ぎ、一応はパンとスープの朝食が完成する。
「サラダはないんだけど」
「ありがとうございます。うれしいです。まさか、宗一郎さんに朝食を作ってもらえるなんて思いませんでした」
柊がうるうるとした目でこちらを見る。そんな顔をしたって騙されないぞ俺は。こんなもの作ったうちに入らない。
笑顔の裏では「こんな貧相な朝食をよくも僕に食べさせたな」と憤慨しているかもしれない。俺はちらりと柊を見る。
彼はマグカップを両手で持ち、一生懸命にスープをふうふうしていた。どうやら猫舌らしい。
ふうふうする度に、頬がまん丸に膨らんでいる。面白い顔だ。明日からも完全に沸騰した激熱のスープを作ってやろう。
心の中でニヤニヤしていると、柊がもそもそとパンを食べ始めた。俺なら一口のバターロールを何回も齧っている。
「……ん? あ、これ。バターをぬっていないのに、バターの味がします」
柊が不思議そうに顔をあげる。
「バターロールだからな。食べたことあるだろ」
「こういったものは初めてです。パンといえば、いつもライ麦パンだったので」
ライ麦パンは栄養価が高いらしい。ビタミンB類やミネラル、食物繊維が小麦のパンよりも多く含まれているのだという。
「グルテンフリーですしね」
悪かったな、グルテンフリーじゃなくて。栄養価も低くて。これが庶民のパンだよ。
「……ライ麦パン、買ってくるよ」
どこに売っているのか知らないけど。普通のスーパーに置いてあるのか? 見た記憶はない。高級な店に行かないと買えないのだろうか。
「いえ、あの。僕、このパン好きです」
「でもグルテンフリーじゃないんだろ」
少し尖った声が出た。
あ、これはちょっと嫌味だったな。
「祖父が小麦粉アレルギーだったんです。それで、須王の家ではパンといえばライ麦パンだっただけで……」
しょんぼりと下を向く柊を見て、騙されないぞと思いながらも心が痛む。俺はガサガサと袋を開けて、バターロールをトースターに放り込んだ。
「……焼いても美味いんだけど、食べる?」
温めるとパンはふわふわになって、バターがじゅわじゅわとしみ出てくる。「食べたいです」と言う柊に一つ渡す。
「これ、すごく美味しいです」
ふにゃふにゃと笑う柊に思わず見惚れそうになった。「そうだろ、これが庶民の味だぞ」と言いながら、俺は必死に自分を律しようとしていた。