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第19話 温まる薪風呂

 雪男は妊娠するらしい。なかなかの衝撃だ。エマも妊娠する可能性があると知り、軽くショックを受ける。


 だって信じられない。あのエマが妊娠するなんて。エマの子ども。性行為でエマが子を孕む……。


(ダメだ……!!)


 これ以上想像したら、また頭が熱くなりそうだったので止めた。脱力したままベッドに腰かけていると、小屋の奥から鼻歌が聞こえてくる。


 エマは今、入浴中だ。少し前に俺は小屋を改築して風呂場を作った。DIYは得意だが、さすがに完成までは日数がかかった。


 パン屋をしながらではなかなか作業が進まず、何度か店を臨時休業にしてやっと完成した。作って良かったと思う。エマは薪の風呂を気に入ったようで、毎日入浴している。


「ふんふん、ふ~~ん、ふんふん~~ん、ふんふん~~」


 かなりご機嫌の様子だ。


 一緒に入ろうと誘われたときはビビった。エマにそういう意図はないと思うのだが、ついさっきまで「セックス」だの「子どもができる」だのという話をしていたので、俺は大げさに反応してしまった。「俺はいいから!!」と全身で拒否した。


 風呂場のほうから、ちゃぷちゃぷと湯が弾む音がする。


 それだけで、よからぬ妄想をしてしまう。真っ白な肌に滴る湯。子どもの姿だったときは、骨の浮いた胸元を見たことがあった。今はどうなっているのだろう。少しは肉付きが良くなった気がするのだが、筋肉とは無縁なので雄っぱい的なものは期待できない。


(間違いなく、つるぺたの胸だな)


 エマが風呂に入っている間、俺の妄想が止まることはなかった。


「ウォルフ、マッサージして?」


 風呂から上がったエマは、ほこほこしている。


「自分でしなさい。ちゃんと教えただろ」


 俺はオイルの瓶をエマに押し付けた。


「……教えてもらった通り、じぶんでしてるけど。きょうはいいでしょ?」


 ぷうっと頬を膨らませるエマが可愛い。


「き、今日も駄目だ」


「どうしてだめなの? 前はぼくの足、毎日もみもみしてくれたのに」


「そ、それは、つまり……」


 足を揉んでいると妙な気分になるからとは言えない。


「ずっとぼくのこと、オイルでぬるぬるにして、あんあん言わせてたくせに!」


 確かに、あんあん言わせてたけど!


「エ、エマは大人だろ? 大人はな、自分で出来ることは自分でするものなんだ。だから、な?」


 しどろもどろになる俺を、エマがじろりと睨む。納得がいかないらしい。


 風呂上りのエマはシャツを一枚羽織っただけで、彼シャツ状態だ。マッサージのために足を出しているのは分かるのだが、このままでは湯冷めしてしまう。


「エマ、そんな薄着してたらダメだ。もっと厚着しないと」


「……うん」


「そうだ、新しくセーターを編んだから着てくれるか? 前のは小さくなっただろう」


 ヤク・シープの深い橙色のセーター。特別な意味をエマは知らないだろうと思いながら、けれど渡す瞬間は緊張した。


「これって……」


 エマの表情が強張る。


 まさか、ヤク・シープの意味を知っているのだろうか。そういえば、人間社会のことをトトに教えてもらっていると言っていた。


「……どうして、ぼくがこれを着るの?」


「エ、エマのために編んだからだ」


 エマが意味を知っているなら、ずっと一緒にいたいと言いたい。結婚するとか子どもが出来るとか、そういう話は置いておいて、エマのことをすごく大事に思っていることだけは伝えたい。


(うわ、緊張するな)


 エマを真正面から見る。意を決して口を開こうとした瞬間、「うわきもの!」とエマに怒られた。


「このセーター、本当はぼくのじゃないんでしょ!? ウォルフのばか! うわきもの!」


「う、浮気ってなんだよ」


 まったく身に覚えがない。というより、よく「浮気」なんて言葉を知ってるな。どうせまた、あの一角獣に教えられたのだろう。


「ぼく知ってるんだからね。これを編みながら、女の人といちゃいちゃしてたでしょ!」


「いちゃいちゃ……?」


 女の人ってイザールのことか? 


「ウォルフ、からだに触ってたもん! セーターごと女の人のこと抱きしめてた!」


「だ、抱きしめてはいないぞ!? サイズを確認してただけで……いや、エマ。何でそれを知ってるんだ?」


 まさか。 


「一人で町まで来たのか!?」


 こんなにきれいで可愛くて、でも中身はドジっ子のエマが。どこから見ても「騙してください」と言ってるようなぽやぽやした外見のエマが。


「どうして一人で町に来たんだ! エマは知らないかもしれないけどな、人間の世界には悪い奴だっているんだぞ? どこかに連れ去られたり、売られたりするかもしれない」


 エマの細い腕をぐいと掴む。 


「い、いたい……!」


「路地裏に連れ込まれて、知らない相手にセックスさせられるかもしれないんだぞ」


 想像したら、怒りでどうにかなりそうだった。


「ぼく、そんなことしないもん! せっくすはすきなひととするから!」


 無垢すぎるエマに、苛立ちすら感じた。


「好きじゃなくたって出来るんだよ」


 エマをベッドに押し倒し、腕を頭の上で拘束する。


「こんな風に押さえ付けられたら、抵抗できないだろ?」


 大人の体になったとはいえ、華奢なエマと俺では体格が違い過ぎる。


「ウォルフ……手、いたいよ……」


 エマが苦しそうに喘ぐ。エマは大事な子で、これまでずっと大事にしてきた。この先もずっと大事にしたい。それなのに、ひどく残酷な気持ちになる。


「なぁエマ、どうやるか教えてやろうか。具体的にどうするか知らないんだろ?」


 詳細な説明すると、エマの顔が赤くなった。


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