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第30話『劣勢、反撃』

「村長凄すぎ……」

「わしも思っていた以上に動けてビックリじゃ」


 大狼はヴァーバによって、何度も殴り飛ばされている。

 それはもう凄い攻防で、フェリスが手助けせずに渡り合っているほど。


 しかし被害も拡大しており、最初は解体所だけだったのが、1軒、1軒と増えている。


『グルルルルウ』

「なんであんなに殴られているのに、何度も立ち上がることができるの」

「1発1発、ちゃんと手応えがあるのだがのぉ」


 ヴァーバの言う通り、既に力強い拳撃が10発撃ち込まれている。

 直撃する度に大狼は吹き飛ばされ、着地と同時に辺りに損害が出ていた。


 しかし、その度に異様な――折れたりズレたりしている骨を治しながら立ち上がる。


「村長、魔物ってどうやったら倒せるんですか」

「心臓か脳を潰すんじゃなかろうか」

「それはそうなんでしょうけど……本当にそうだったら、もう倒せているんじゃないですか?」

「ふむ、それはそじゃな」

『グル――こ、こんな感じか』

「え!?」


 大狼もとい魔物は喋り出す。


「村長! この声は」

「……騎士団長のものじゃな」


 あろうことか、見知った声が耳に届くものだから2人は混乱してしまう。


『ああやっぱりそうだ。あのときの匂いと同じだなぁ』

「……」

『男が2人、女も2人。俺に立ち向かってきて、馬鹿なやつらだったな』


 魔物は口角を上げ、よだれを垂らし始める。


『何度嗅いでも美味しそうで仕方がない』

「話が通じるのなら。どうやって結界を突破したのじゃ」

『ったく、あの結界には苦労したぜ。美味しそうな匂いはずっとするのに、通ることができなかったからなぁ。だが、とある剣士が手伝ってくれたおかげで突破できた』

「どういうことじゃ」

『理屈は知らねえが、賭けに出たのさ。依り代の生命を絶たせ、それでどうなるかって』

「……そういうことじゃったか」

『ああ、そういうことだ。いやあ、本当に上手くいくとは思ってなかったけどな』


 高笑いする魔物に対し、フェリスは沸々と怒りが込み上がって来ていた。


「たった今、確信に変わった。あなたがお父さんとお母さんたちを襲った魔物なんだ」

『ああ、匂いも一緒ってのはそういうことだったのか。だったら味は保証されてるってことだなぁ!』

「許さない。絶対に負けるもんか」

『そっちの戦力はある程度わかった。こっちも力を発揮しようじゃないか』


 魔物の地面に、円状の魔法陣が形成される。


『俺の存在を知っているということは、【魔法】が使えるってのも把握しているはずだよな?』


 体毛が逆立ち、体の周囲に次々と電気が走り始めた。


「村長、危ない!」

『遅い遅い! くらえぇ!』

「うがぁっ」

「っ!」


 フェリスは、微量ながらすぐに魔物の【魔法】を防ぐための盾を【霊法】を形成し防御。

 ヴァーバは対処する術を持たず、なんとか半身翻したが腹部を掠ってしまい、脇腹を抑えて跪く。


『さっきまでの威勢はどうした? ほらほら、反撃してこないと死ぬぞ』

「んぐ……」

『それにしても懐かしいなぁ。あのときも、こうして【魔法】を防がれた。反撃も凄いものだった。正直、最初は負けると思ったな』

「私だって負けないもん!」


 フェリスの周りに小粒の氷が形成され、魔物へ飛んで行く、しかし。


『あ? なんだそれ』

「なっ!」

『そんな子供遊びみてえなので、俺を倒せるとでも思ってんのか? お前の親たちは、もっと強かったぞ? ――最初はな』

「くっ!」

『だが、なんていうか……よくわからんが、急激に弱くなったんだよな――ああそうそう、その首から下げているやつを握り締めてたな。なんだそれ、そんなに大事な物なのか。命を賭けるほど』

「……」


 その原因について知りたくても、2人は自ら話題を繋げることはできない。

 首から下げる結晶は、たった今も村を護っている結界に必需品であり、破壊されてしまえばどうなってしまうかわからないから。


『つまらん、本当につまらん。久しぶりに人間と対話だから、もう少し楽しくなると思ってたんだがな。仇だというのに、泣きもせず喚きもせず、命乞いもする気配がねえ』

「お父さんとお母さんが戦ったのなら、私だって戦う。そして、あなたを絶対に倒す」

『どうして強がっていられるのか疑問で仕方がない。そもそも、なぜここまで力量差があるにもかかわらず。こうして話に付き合っているのかわからねえのか?』

「私たちを痛めつけて楽しむためじゃないの」

『はぁ……それは正解だが、違うんだよ、違いすぎる』


 フェリスとヴァーバは、魔物が言っていることを理解できない。

 しかし、話が途切れた今だからこそヴァーバは聞き馴染みのあるに振り返る。

 すると、そこには。


「フェリス! 村長!」


 フェリスも、聞き間違えることのない声に『まさか』と焦りながら振り返った。


「リリィナ……どうしてここに」


 車椅子を自分で移動させるリリィナの姿が。

 そして、魔物は不快なほど悦に浸る笑みを浮かべた。


『美味そうな匂いが近づいてきているんだから、わざわざ話に付き合っていたんだよ』

「なっ……!」

『ああ、この匂いもあのとき嗅いだものと同じだぁ』

「やはり、あなたがわたくしたちの父と母を手に掛けた魔物なのですね」

『随分と勘が良いねぇ。ああそうさ、大正解だ』

「絶対に許しません」

『威勢がいいのもいいねぇ――ん? お前もそれ・・をつけているのか』


 フェリスは首を横へ振り、リリィナへ無言の合図を送る。


『戦いの際中、大事に握っていたもの……後からできた結界……ああそうか、それが結界と関係しているのか』

「どうでしょうね」

『入ったのはいいものの、たぶん結界からは出られないからなぁ。だが、美味い餌にありつけるだけじゃなく、結界もどうにかできそうなんて好都合だ。ん?』

「わたくしも、わざわざお話に付き合ってあげていたのですよ」


 負傷中だったヴァーバが、何もなかったかのように立ち上がる。


『ほう』


 会話の際中、リリィナはヴァーバの傷を癒していたのだ。


「さあて、ここから反撃じゃ。さっきは油断しただけじゃからの」

「リリィナ、村長に防御と回復をお願い」

「任せて」

『やれるものならやってみろ!』

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