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第21話『未熟さは言い訳にならず』

「さて、と。マキナのお見送りも終わったことだし。リリィナ、話の続きを聞かせてもらってもいいかな」


 リリィナから聞かされた衝撃的な内容は、傷の治癒を優先するべく時間に余裕がある時に話をしよう、ということになっていた。


「はい。まずは、あのとき観た内容をそのままお伝えします」

「頼む」

「ユウトさんがスキルを発動した際、私の目には黒いものと白いものが右手に集まって――まるで体の中に入っているかのように見えました」

「……なるほど。なんとも不思議な出来事だし、言葉通りなら得体の知れない何か・・が体の中に入り込んでいる可能性がある、と。不気味な話になってきたな」

「禍々しいとか悍ましい、といった印象は抱きませんでしたが、不思議と恐怖心より既視感が先にありました」

「そのままの意味で捉えると、どこかで見たことのある何か・・ってことになるけど」

「少なくとも私は、そんな不気味なの知らないよー」


 フェリスはテーブルに両手で頬杖を突きながら、足をぶらぶらと遊ばせながらそう答える。


「じゃあ一旦この話題は置いておいて。どうしてリリィナには見えて、フェリスには見えなかったんだ?」

「それに関してはわたくしも初めてのことで驚いているところです」

「もしかして、生まれ持った特殊能力的なやつだったりする? この世界にそういったものがあったらの話だけど」

「ええ、一応はあります。【星降り人】の方々が女神様から授けられるのが【スキル】、地上に人間が何かしらの要因によって獲得するのが【覚醒能力】と言います」

「なんだか凄そうな名前だけど、そのままといえばそのままか。それで、その【覚醒能力】を持っている人ってどれぐらいいるものなんだ?」

「正直、わかりません。わたくしとフェリスはこの村から離れた地に赴いたことはなく、知識は個々に訪れる人々から学んだものだけなので……それに、【星降り人】の方々が必ずスキルを授かっているとわかりますが、【覚醒能力】に関しては本人が口外しなければ誰も知り得ませんので」

「なるほどなぁー」


 じゃあ自分はもしかしたら該当しているのか、と、それらしい出来事を遡ってみるも――マキナにしごかれたぐらいしか思い浮かばず。


「もしかして、そういうのって遺伝的な面があったりするのかな」

「それはどうなんでしょう。あったとしても、結局は当人が口外するかどうかになりますので」

「あれ、そういえば2人のご両親って別のところで生活しているのか?」

「……わたくしたちの両親は、既に亡くなっているのです」

「ご、ごめん……無神経な質問をして」

「今はもう大丈夫だよ。私にはリリィナも居るし、村長も居る。それに、マキナだって友達になってくれたし」

「そうね、わたくしたちは1人じゃありません。互いに助け合っていますし、ユウトさんだって仲良くしてくださっているではありませんか」


 前向きな話をしている2人ではあるが、暗い雰囲気にしてしまった責任を感じているユウトは、今すぐにでも土下座したい気持ちをグッと堪え、空元気を振り絞った。


「あったりまえだ! 俺はフェリスとリリィナを大切な存在だと思ってる! こんな大胆に宣言すると、恥ずかしいけどなぁ!」


 自分にできる精一杯の笑顔と得意気に胸を叩く。


 ユウトが急に大きな声を出すものだから、2人は目を目を丸くするも、つられて笑みを浮かべる。


「ユウトさん、お気遣いありがとうございます」

「ユウトって本当に優しいよね~」

「いや、なんか――恥ずかしいからやめてくれ」


 一気に顔が熱くなったユウトは、両腕で顔を隠す。


「もうこの際だから、全部言っておこうと思うんだけど。リリィナはどう思う?」

「ええ、わたくしもそれがいいと思います。それに、ここで言わないのは不義理と言いますか、除け者みたいにしてしまうので」

「だよね、私もそう思うの」

「できるだけ心臓に悪くない話で頼む」

「ごめん、それは保証できない。少なくとも気持ちのいい話ではないから」

「……わかった」

「私たちのお父さんお母さんは、魔物に襲われて死んじゃったの」

「実はそのときまで村を護る結界がなく、【魔法】と【霊法】を使える両親が結界の研究を続けつつ外敵から村を護っていたんです」


 2人は首元から服の中に手を入れ、細い紐に括りつけて結晶が先にあるネックレスを表に出した。

 どちらも結晶が同じ色で、透き通った水が凍っているような、クリスタルともいえる感じになっている。


「これが結界を維持するために必要な物で、私たちが結界を維持させ続けるっていうより、このネックレスが【魔法】や【霊法】を媒介にして結界を維持し続けるって感じなの」

「なので、わたくしたちが何かをし続けるというわけではないのです」

「ほえー、説明を聞いてもなんとなくしかわからないが凄いのだけはわかった。体とかの影響はどんな感じなんだ?」

「思っていたより負担は感じないですね。でもその代り、2つで1つなのでフェリスが村から離れすぎるとわたくしに負担がかかります。でもその負担と言うのは【魔法】の威力や効果が小さくなる、というだけなのですが」

「最初の頃は私もリリィナの体調が心配だったんだけど、本当にそうみたい」

「負荷や負担っていうより、阻害されている方が正しいってことか」

「たぶん、そういうことになりますね」


 ある程度を理解できたユウトは、もしもの可能性についてを踏まえた疑問を抱く。


「そのネックレスの結晶? みたいな部分がもしも2つとも壊れたとして。片方だけだったらまだなんとかなるとしても、作り直すことはできるの?」

「それが……できないんだよね。お父さんとお母さんたちしか作り方がわからなくて」

「うっわ、それはヤバいじゃん」

「ええ、とてもヤバい状況にはなってしまいます。でも代わりと言っては粗末かもしれませんが、わたくしたちの元々の力を自由に扱うことができるようになります」

「あぁー、それはたしかに。制限が解かれるってわけだから、それはそれで頼もしい話だと思うけど」

「でもさすがに、両親の形見でもありますから、いくら自分を縛る呪いのようなものでも壊れてほしくないはないですが」


 まだまだ日は高く、心身ともに良好。


 ユウトは少ない時間と足りない頭で考えた結果、自分にできる最低限を導き出した。


「いろいろと話を聞かせてくれてありがとう。俺さ、不遇な扱いを受けて――とかうだうだ言ってないで、自分にできることをやろうと思う」

「ユウトは一緒に食材を集めに行ってくれて、こうやって私たちと対等に話をしてくれるだけでありがたいよ?」

「いいやダメだ。それだけじゃダメなんだ。このままじゃ、自分は凡人だからってずっと言い訳し続けるだけで何も変わらない。だから、2人とも俺を鍛えてくれないか」

「え? 私、マキナみたいに剣で戦えないよ?」

「でも採取用のナイフじゃない短剣を持ち歩いているってことは、俺よりも扱えるってことだろ?」

「護身用ってぐらいだけだよ。それでもいいっていうならお手伝いするよ」

「ああ頼む」

「わたくしは見ての通り、動き回ることはできませんのでお手伝いはできそうにありませんね」

「いいや、現状だと俺のスキルを判断できるのはリリィナしか居ない。それに、能力が制限されてるとはいえ2人は【魔法】と【霊法】を使える。俺ができるかどうかわからないけど、もしかしたら使えるようになるかもしれない。だから、その指導をお願いしたい」

「私は全部協力するよ」

「助かる。俺、こんな凡人だからさ、そういうのを使えるようになるのが夢だったんだ」

「わかりました。わたくしもできる限りのお手伝いをさせていただきます」

「ありがとう」


 では早速、とユウトは木刀を握り立ち上がる。


「よし、今から頼む」

「お任せあれ~っ」

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