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第17話『金狐の瞳に映りし事実』

 踏ん張る足が耐えきれず、枝が折れたかのようにユウトは地面へ倒れ込む。


「ヤバい無理、痛すぎる。全身」


 倒れた衝撃で痛みが全身を駆け巡っているというのもあるが、原因はそちらではなく、マキナからの攻撃を受け続けたから。

 辛うじて外への出血はしていないものの、内出血や痣、打撲や捻挫などは込み込みとなっている。


 そして、ここまで痛みを感じているのなら息も絶え絶えに体力不足を悔いるところだが、呼吸が上がることはなく全身の痛みだけを感じる、という不思議な感覚に陥っていた。


「俺の骨、どこか折れてないよな。いや、折れてそうだけど場所がわからねえ」


 ユウトの懸念通りで両肩が脱臼していたり指が変な方に曲がっていたり……となっており、のた打ち回りたいが、もはやまともに思い通り体を動かせない状況。

 意識を保っているだけで不思議な状態ではあるが、緊張感が薄れてきて正常に痛みの波が訪れてしまった。


「うがあああああああああ、痛い! 痛すぎる!!!! いってええええええええええ」

「ごめん、少しだけやりすぎた。あまりにも根性があるように見えたから、つい」

「た、助けてくれええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」


 マキナにその意思がなくとも、死への恐怖が全身を支配するにはそう時間がかかることはなかった。

 それに加え、痛みからくる強烈な吐き気が際限なく込み上がってきてしまう。


「――マキナさん、それ以上はいけませんよ」


 ユウトは激痛に顔を歪ませながら、つい最近聞き馴染みとなった優しい声色の方へ目線だけ動かす。


「え! マキナ、さすがにやりすぎだよ!」


 車椅子に乗るリリィナとそれを押すフェリスの姿が視界に入り、慌てた表情でユウトへ急いで近づく。


「わたくしにお任せください――『世界の理に背き、この者に命の灯を――【ヒール】」


 リリィナの詠唱後、ユウトの体は白い光に包まれて癒えていく。


「あ、温かい……」


 しかし即時回復というわけではないため、ユウトは徐々に癒えていく激痛に顔を歪ませ続ける。


「ちょっとマキナ、本当にやりすぎだよ」

「悪いとは思っているし、ちゃんとユウトへ謝罪はした」

「それはそれ、これはこれだよ。マキナはちゃんと手加減ができるのに、どうしてここまでやったの!」

「本当に悪いと思っている。ユウトも自分で強くなりたいと言っていたから助力してあげたかったんだ。あ、あと【星降り人】というのがどういう存在か少しでも知ることができたらと思ったり……」

「ぜっっっったい、最期のが大半の理由でしょ」

「まあ、そうとも言う」


 フェリスは耳と尻尾をピンッと立たせて怒りを露にする。

 対するマキナは、図星を突かれて返す言葉がなく人差し指で頬をカキカキしつつ、そんな頬を膨らませながら怒っているフェリスもかわいいと思っていた。


 ちなみにユウトは、自分のために怒ってくれているフェリスに感謝を送りつつ、美少女2人から心配してもらえたことに、痛みで顔を歪ませつつも少しだけ口角を挙げていた。

 と、同時に美形な顔をしているマキナへの印象は『あの美人顔の下には鬼が宿っている』、と恐怖の象徴として心に刻まれることとなる。


「さすがにすぐはダメだからね」

「ああ、わかっているさ」

「あとユウトに渡すものができたから届けに来たよ」

「例の木剣?」

「そう。私とリリィナの共同制作なんだ」

「なんとも羨ましい、ぜひ私もお願いできたりしないかな」

「ダーメ。マキナには作ってあげなーい。ユウトを虐めた罰だよ」

「ぐぬぬ……本当に悪いと思っているんだ」

「ダメなものはダメだよー」


 フェリスはツーンと口を尖らせてそっぽを向き、マキナは膝から崩れ落ちて次目で項垂れる。


 そんなこんなしていると、ユウトはやっと少し動けるようになり、情けなく倒れ込んでいるところから地面に臀部をつけて座る。


「ユウトさん、もう少しだけ我慢していてください」

「本当に助かるよリリィナ。それにしても凄いな、これが【魔法】ってやつか」

「はいそうです。ですがごめんなさい、私がもう少し強力な魔法が使えたら傷もすぐに癒せたのですが」

「いやいやいや、本当にありがたいし助かるよ」

「ふふっ、そう言っていただけるとこちらも嬉しいです」


 幸せな空間のところへ、マキナが近づいてきて頭を下げた。


「ユウト、本当にごめん。もう少し手加減をするべきだった」

「まあまあ、次にそうしてくれたらいいよ。こうして珍しいものも拝めたし体験できたわけだし」

「そう言ってくれると助かる。そこで気になったんだが、ユウトが使えるスキル【吸収】というのはどんなものなのだ?」

「あー、どうするかもわからないスキルねぇ。体を動かさずにできるし、今やるよ」

「ユウトさん、本当に大丈夫なのですか?」

「ああ、フェリスが証人だ」

「私も詳しくはわかってないけどね」


 リリィナとマキナはフェリスへ視線を向けると、コクコクと首を縦に振っている。


「まあ見ていてくれ――スキル【吸収】。ほら、何も起きないだろ?」

「たしかに」

「――え」

「ん?」

「ユウトさん、体……特に腕、本当に何も感じないのですか?」

「うん、なんで?」

「だって、魔力と霊気……がユウトさんに集まっていってますよ」

「はい……?」

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