「――なるほどなぁ。そのマキナさんって人が2人の友人ってわけか」
「うんうんっ」
「とても正義感が強い人なのですが、逆にそれが
「実際にそういった人間に出会ったことはないが、なんだかわかる気がする」
(アニメとかでも居るもんな、あまりにも強い正義感は他者に対して壁を作りやすい的な)
ユウトは、軽鎧を装備した紅色の長髪少女を軽く想像してみる。
(うーん、どう考えてもツンとしていそうでしかない。俺が独りでいるタイミングで遭遇しようものなら、警戒心MAXなんだろうな。うー怖い怖い)
しかしこれからはフェリスとリリィナと一緒に行動するのだから、その心配はない――と安堵するユウトは、さらなる疑問を呈する。
「この世界で【役職】ってなんなんだ? 与えられただけで強化人間になっちゃうみたいな感じ?」
「ええ、まさにその通りです」
「マジか」
ユウトの「マジか」という、あまりにも聞き馴染みのない言葉にフェリスとリリィナは首を傾げる。
「ああごめん気にしないでくれ。この『マジか』ってのは、驚いたときにうまく言葉で表現できないとき咄嗟に出ちゃうもんなんだ。『うわっ!?』とか『えぇ!?』的な」
「そういうことでしたか」
「マジか。マジか! マジか!? こんな感じ?」
「素晴らしい応用だ。だがしかし、俺みたいな人間ならまだしも、2人みたいな美少女がそんな言葉を使ってはいけません」
「そうなの?」
「そうなのですか?」
「ああそうだ。というか、少なくともニホンから来た人間にしか通用しない言葉だから、どっちにしても使える場所が限定されすぎているしな」
「たしかに、それはそうですね」
「え~、じゃあじゃあユウト! もっとニホンの言葉を教えてよっ」
「時間はいっぱいあるんだし、また後でな」
嬉しそうに尻尾が左右にふりふりと動いているのがチラチラと視界に入るが、ユウトは話を進める。
「それで【役職】を与えられた人間はどれぐらい強くなるんだ?」
「わたくしも、対面したことがないので正確なことはわかりません。ですが、友人――マキナが言うには、『役職にもよるけど、どれも同じ人間とは思えない』だそうです」
「ほほ~。じゃあ、あの人たちは今頃さぞ優遇された人生を送り始めているわけだ」
「……それはどうなのでしょうね」
リリィナの声色が、一瞬にして曇る。
「例外なく、その役職を与えられた人間というのは自由を奪われるとも聞きました」
「ふむ。その流れからその話題だと、全部言われなくても理解ができてしまうのが悲しいところか。
「はい、まさにその通りです」
「ということは、逆に――俺は幸いにも役職を与えられなかった。と捉えることもできるということか」
「与えられた人間離れしている力により自由を奪われて日々を過ごすか、人間離れした力はなくとも自由を謳歌することができるか。ですかね」
「少なくとも、人生の全てが凡人という枠からはみ出ることすらなかった俺には、有り余る力は逆に不自由で仕方がないからな。そこら辺は女神に感謝してもいいが……本当に、つくづく身勝手な女神ってなわけだ」
ユウトはなんとも言えない感情が渦巻き、胸の前で腕を組んで鼻からため息を漏らす。
「まあ、全て起きてしまったことだからここで考えてもしょうがない、か」
「ですね。とりあえずは今できることをやるしかありませんね」
「2人とも、ここまでしてくれて本当にありがとう」
ユウトは1度、腕を解いて深々と頭を下げた。
「ど、どうしたの急に」
「そうですよ、頭を上げてください」
「――いやさ。俺が【星降り人】っていう存在だから、きっとみんな優しくしてくれているんだろう。もしもそうじゃなかったら、俺はたぶん誰にも相手をされず、今頃どこかで野垂れ死にしていたと思う」
「全然そんなことないって!」
「だというのに、誰もが期待しているような役職はなく、こうして村の人に助けられっぱなしで……凡人が何を言っているんだって話だけど、さすがに自分が情けなくて仕方がない」
「いいんですよ、そんなこと。困ったときに助け合うのは、誰にとっても大事なことです。それに、ユウトさんは既に凄いことを成し遂げてくださいましたよ」
「え? 俺が?」
「はい、そうです。フェリスを見てください。元気いっぱい、笑顔いっぱいですよね?」
「ああ、こっちまで元気になっちゃうぐらい」
「実は、フェリスの笑顔は誰にも心配をかけないためのものなんです」
「ちょっとリリィナ、急に変なことを言わないでよ」
「フェリス。ユウトさんとこれからも一緒に居たいのでしょ? なら、隠し事は失礼だってことぐらいはわかるでしょ?」
「それは……そうだけど……」
「なので、ここまで心の底から楽しくて笑顔になっているのなんて珍しいんですよ」
秘密を暴露されたフェリスは、恥ずかしそうに口角を持ち上げたり戻したりして、同表情を作ればいいのか迷ってしまっている。
「村の人たちは、良くも悪くも――」
「そうだ! どうせだったらユウト、マキナちゃんに戦い方を教わってみたら?」
フェリスはリリィナの言葉を遮り、銀毛の耳をピンッと立てて『名案を思い付いた!』と目を輝かせている。
当然、そんなことを唐突に言い出すものだから目線を一身に集めた。
「どうしたんだよ急に。戦うって言われても、俺の戦闘センスはみんなが思っている通りに残念なものなんだぜ」
「そうなのですか?」
「そりぁあそうよ」
フェリスに負けず劣らず目を輝かせ、ユウトは自信満々にポンッと胸を叩く。
「でもさ、フェリスの言葉で少しだけ実感が沸いた」
「なになに?」
「この世界では、最初に襲われたみたいな獣みたいな魔物みたいなのが存在していて、戦う技術を持っていない人間は逃げることしかできないんだなって」
「そうですね。こちらの世界では、理不尽が日常化していますから」
「諸々含めると、付け焼刃でも戦いの知識ぐらいはつけておいた方がいいのかな」
「うんうんっ、マキナちゃんだったらいろいろと教えてくれるから大丈夫だよ」
「随分と仲がよろしいことで。だがなぁ、なんだかわからないけど少ーしだけ嫌ーな予感がしてならないんだよな」
「そうなの? ユウトって、もしかして未来予知ができちゃったり?」
「いやいや、全然そんなことはない。じゃあまずは、フェリスからご指導を受けさせていただこうかな」
「おーっ! 頑張っていこー!」