心温まる食事を終えたところ、ユウトはふと疑問を言葉にする。
「俺、元々住んでいた世界で得た知識とフェリスから聴いた話だけで理解したつもりになっていたけど、この世界にある【魔法】とか【霊法】ってどんな扱いなんだ?」
「気になるよねぇ、私も気になる」
「え」
「私が知っているのは、前に話した内容が全てだよ。微精霊の力を借りて、【霊気】を使っている感じ」
「なるほどな。ちなみにリリィナも使えるの?」
「わたしくは逆に【霊法】を使用できません。代わりに、【魔法】を使用することができます」
「ほほう。そこに何か違いはあったり?」
「どうなんでしょうね。疑問に思っていらっしゃるのは、『同じ人種なのに、どうして』というところでしょう。そこに関しては、わたくしも理解できていないのですが"霊法を使用できる人はかなり少ない"、ということは把握しています」
ユウトはどう言葉を包もうか悩んでいる最中に、リリィナから疑問を的中させられてしまったことに驚愕を隠せない。
しかし、それと同時にリリィナが表情を変えなかったことから、自身の思考が差別的でなかったことに安堵する。
「ちなみに、霊法と魔法も全員が使えるわけではなありません」
「適性があったり?」
「その通りです。わたくしもすべてを把握しているわけではありませんが、使える人は人生の中で本当に無縁の生活を送ることになります」
「ふむ、なんか理不尽っていうか、それが常識なんだろうけど……あの女神が管理している世界って感じで納得できてしまうのが悔しいところだ」
「フェリスから少しだけお話は伺っていましたが、わたくしたちが存じ上げている女神様とかなり印象が違うのが気になります」
「あぁー」
ユウトは首の後ろに手を回し、「さすがに、崇拝の対象を悪く言うのはマズかったか」と、ほんの少しだけ後悔する。
「大丈夫だよユウト、世界のどこかには崇拝している人が居るかもだけど、私たちは崇拝者とかそういうのじゃないから」
「おう、そうだったか」
ユウトは安堵し、机の上に手を戻した。
「最初、俺を含めた男女が合計で6人居たんだ。そんでもって、俺以外の人たちは全員が役割ありって話で、俺だけなしって感じに」
「なるほど~、本当にそんなことがあったんだね」
「ああ、しかもその人たちは一斉に飛ばされたっていうのに、俺だけ残されてさ。んで、ニホンに戻れるのかなって思ってたら、無理だって言われて。挙句の果てに、よくわからない【吸収】ってスキル? を渡されただけで、この世界にポイって捨てられたってわけ」
「あちゃー、それは災難だったね。ちゃんと信じられる話だからこそ、なんだか報われない話だね」
「あ、忘れてた、【女神ルミナ】から最初に言われたこと」
「なになに?」
「『間違えちゃったみたい』って、第一声で言われたんだよ。ったく、どんだけ身勝手なんだよ」
「うわぁ……」
顔を
「リリィナ、どう? 信用できる話だったでしょ?」
「そうですね。こちらの地に降り立ったばかりであろうときに、見ず知らずのフェリスをどうにか救出しようと、自分でも把握していない【吸収】というスキルを使用した。もしかしたら、獣が自分を襲ってくる可能性があると知りながら――」
「いやいやいや。何も間違ってはいないけど、そこまでカッコいい話でもないって」
「いやいやいや。ユウト、普通の人間だったら絶対にあんな真似はしないってば」
「いやいやいや。残念ながら俺はとんでもないほど"普通"であり"凡人"の枠から出ない人間だ。どれだけ周りから美化されようが、その事実だけはこれからも絶対に揺るぎはしないぞ」
「まあまあ2人とも、落ち着いてください」
前のめりになり始めていたユウトとフェリスは、リリィナの言葉によって姿勢を戻す。
「【女神ルミナ】の存在は、この世界で存在自体は周知されています。ですが、その実態を知る人間はおらず、書物が残されていることも把握していません。もしかしたら王都にはあるのかもしれませんが」
「まあ、それはそうだよな。俺が住んでいた世界でも、いろんな神様が居た。だけど、いろんな書物も存在してはいるが……神という存在を認識し、言葉を交わすことはできない」
「でもでも、ユウトは顔を合わせたんでしょ?」
「そうなんだよな、俺も驚いたけど。けど、まさかの目撃者というか言葉を交わした人間が俺のほかに5人も居るから、少しは信じられる話なんじゃないか?」
「そうですね。ですが……」
「ん?」
ユウトとフェリスは、少しだけ眉間にしわを寄せて顎を触っているリリィナへ視線を向ける。
「ここまで詳細な話をお聴きしたのは初めてなので明確なことを言えませんが……【役職】【役割】【役目】、言葉はいろいろとありますけど女神から任命されるということは重要なもののはずです」
「ああそうだな?」
「毎回、どれだけの人数がニホンからいらっしゃるのでしょうか?」
「どうなんだろう。でも、あそこまでスラスラと言葉が出ている感じだと元々決まっていそうではある」
「なるほど……」
ずっと何かが引っ掛かっている様子のリリィナに、2人は首を傾げる。
「もしも、もしもですよ? その【役職】などが全てだとして。上手な言い方が見つかりませんが、一度に全員分の補充……というのはあるのでしょうか」
「たしかに。可能性としては、前任が年齢を重ねてしまったから、後任を育成するため――とか?」
「なるほど、それであれば納得がいきますね」
「その言い方だと、穏便ではなさそうな理由を思い付いていそうだけど」
「憶測にすぎませんが、同時期……とまでは言わずとも、それぐらいの近さで亡くなられたという可能性もあるのかな、と。それが老衰であれば問題なし。では逆に、それ以外の要因であったのなら、かなりの異常事態では、と。そう思いまして」
「……この状況で、俺を怖がらせる冗談を――というわけではなさそうだな」
「はい、残念ながら。ですが、憶測の範疇から飛び出すことはありませんが」
「ふむ……」
「怖がらせるつもりはないのですが、ごめんなさい」
リリィナが、深々と頭を下げようとした時だった。
「だったらさ、なおさら気に食わないって話だよな!」
「え?」
ユウトはリリィナの行動を止めようと言葉にしてみたが、発言した内容通りにお腹の中が沸々と
「もしかしたら、世界は緊急事態に直面しているのかもしれない。だと言うのに! どうして俺には役割がなく、どうやって使うかもわからないスキルだけって――控えめに言って意味がわからねえって話」
「……それは、本当にその通りだと思います」
「だよなぁだよなぁ? かぁー! どうにかして、あの身勝手極まりない女神にやり返す手段はないものかねぇ」
「あはは……」
「そんなことされたら私だって怒るよ」
「だろ?」
フェリスは首を激しく縦に振る。
しかしすぐに、リリィナの呟きでユウトとフェリスはスッと我に返った。
「――ですが、嫌な側面だけではないかもしれません」
「え?」
「女神様は、ユウトさんに授けた【吸収】をスキルとおっしゃったのですね?」
「ああ、スキル【吸収】って言ってた。それ以外は何一つとして説明を受けていないが」
「であれば、朗報かもしれません」
「な、なんだと」
「わたくしたちの友人が王都に居るのですが、その人が言っていただけなので詳細はわかりません」
フェリスは何かに反応し、耳をピンッと立てて尻尾を激しく左右に振り始める。
「『魔法が使用できる人は霊法は使用できない。霊法を使用できる人は魔法を使用できない。でも、スキルを所持している人は両方を使用できる』、という持論を述べていました」
「な、なんだと」
「先ほどお伝えした通り、わたくしもフェリスも自分で魔法や霊法を使えたとしても、その断りを理解しきれていません。そして、その持論を述べていた人もまた、学者というわけでもないので信用できる資料を提示できるわけでもありません」
「でもさ。持論ってことは、そこに行き着くまでの情報または経験があったからなんだろ? だったら、そこまで的外れってわけでもなさそうだけど」
「わたくしたち庶民や辺境の地には情報が回ってきていないだけで、もしかしたら国のどこかでは結論が出ているのかもしれませんしね。この国ではなく、別の国とかでも」
「うわっ、そうだよな。完全に忘れていたけど、当たり前に別の国があるんだ。ちなみにここって王国? のどこら辺にあるんだ?」
「物凄く端ですね。王都より、国境の方が近いです」
「お世辞とか抜きで、辺境の地って言ってたのか」
「そうなんだよね~。だから、王国の人より他国の通行人の方が村に来る頻度が多いと思う」
「なるほどな」
「ねねっ。そういえば、もうそろそろあの時期じゃない?」
「そうね。フェリスったら、はしゃぐにはまだ早いわよ?」
ユウトはここで初めてフェリスの動作を把握したが、なだめているリリィナもまた同様に耳や尻尾で嬉しさを表現していた。
「もしかして、その友達がこの村に来る的な?」
「ふふっ、大正解です」
「私、名案を思い付いたよ!」
「なんだなんだ?」
「到着する前に、マキナちゃんについて少しでも知ってもらおうよっ」
「それは確かに名案ね」
「お手柔らかにお願いします」
「マキナちゃんわね――」