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第30話『表と裏がある日常を謳歌する』

「うん、これは美味しいね」


 全てが終わり、現在はお昼休み。

 リンが作ってきてくれていたお弁当の味見をしている。


「本当に大丈夫なんだよね」

「若干しょっぱい気もするけど、運動した後にはこぐらいがちょうどいいと思うよ」

「味付けの方は、ちょーっと失敗しちゃったのはわかってるって――……って、ちがーう! 体の方だよ!」

「ああ、うん。さすがに痛かったら顔を歪めてるでしょ? ほら、傷口に塩を塗ったら超痛いだろうし」


 と、何も入っていない口の中をガバーッと開けて見せてみる。


 事件を解決した後、心配していたことにはギリギリなっていなかった。

 だけどまあこればかりは仕方がないんだけど、リンの情緒が大変なことになってしまってなんとか言い訳を信じてもらって今に至る。


 ちなみに大熊さんだけど、ちゃんと生存を確認することができた。

 というのも、実は白い光=守護の力にはどんな可能性があるのか知りたかったから、【破壊と再生】を実験してみた。

 時間が惜しかったからというのもあるけど、失敗したらあのまま絶命していたわけだけど……成功したからいいよね。

 結果的には実験は成功に終わり、『白い光で物体を消滅させる際に再生の能力を付与していると再生する』という感じに。


 でもたぶんこれ、守護の力だけでしか発揮することができない能力なんだと思う。


「それにしても、本当にあいつら救いようがなさすぎるよ」

「まあまあ」


 リンがキレているのは、2人について。

 彼らが原因で今回の件に至ったと思っているリンは、今までの俺への態度を含み腹を立てているんだと思う。

 俺からしたら、喉から手が出るぐらいほしい展開だったから逆に感謝しているんだけど……これまでの全てを加味すると、まあ片側しか知らなかったら怒って当たり前だ。


 そんでもって、個人的には朗報、リン的には悲報なことがあって。

 先生はリンの話を取り合わず、彼らを救護するためにしか行動しなかったことなんだけど。

 これもリンからしたらブチギレ案件ではあるんだけど、俺からしたら途轍もなくありがたい展開だったといえる。

 だからリンにとっては本当に可哀想な話なんだけど、先生は「勘違いで騒ぎ立てるな」と言ってきた。


 俺のために声を上げて行動してくれたのに、本当にごめん、そしてありがとう。


「いろいろ迷惑をかけちゃったし、お礼の意味も含めてお出かけしない?」

「え――! それって2人だけで?!」

「それはもちろん」

「んーっ、くぅーっ! よし!」


 曇っていた表情がパーッと晴れ、満面の笑みでガッツポーズをとっている。

 それほどまでにストレスが貯まっている証拠だし、勉強も頑張っているみたいだから息抜きも必要だからね。


 さて、今回の一件でいろいろと自分の失敗を反省しないと。


 大まかに3点。


 1つ目は、黒と白のもふもふを頼る関係上、人目がつく場所を裏の姿で闊歩してしまったこと。

 結果論から考えたら時間的な猶予はなかったから、あれが最善だと思う。

 だけど、これからの活動方針が定まっていない状況では最悪な選択でもあった。

 まあ、周りの人たちは本当に一般的な通行人だったし、他人は自分が意識しているほど見てないという言葉を信じるなら、そこまで悩む必要はないのかもしれない。


 2つ目は、カナリと直接顔を合わせ言葉を交わしてしまったこと。

 3人と話をしているときも、できるだけ言葉数を少なくしてカッコいい感じに声を低くして話をしているけど、顔見知りかつ普通に話をしている人間に対しては迂闊すぎた。

 この世界にも新聞とかのメディアが機能している以上、世間に露出するのかはすぐにでも検討しなければならないな。


 3つ目は、攻撃跡を残してしまったこと。

 リンに大心配をかける要因となってしまっている、大熊の戦闘したときに木々を吹っ飛ばした跡、それと闇組織がアジトにしていた少し大きめの廃墟にブチ空けてしまった穴。

 攻撃方法が主に魔法だかったから、場所の修復をすることができなかった。

 あればかりは、下手したら指名手配になったりするかもしれないし、魔力痕跡で特定されるかもしれない……とは思ったけど、よく考えたら鑑定とかでバレることってあるのか?

 追跡に関しては、あのもふもふたちがやってみせたからできそうではあるけど。

 まあ、もしかしたら楽観視してもいいのかもしれない。

 なんせ、アッシュは今まで魔法を発現することができなかったわけだし、守護の力を鑑定できるとは到底思えないからね。


「それにしてもアッシュ、凄すぎるよね。私も見習ってもっと体の鍛錬をしなきゃって思った」

「日々の鍛錬の賜物、というのは否定しないけど、俺には魔法が使えないからできることだから。リンはほどほどにしておいた方がいいよ」

「ぐぬぬ……本当にその通りだから何も言えない。せめてもっと勉強を頑張らないとだね」

「体が資本だから、無理し続けると全部できなくなっちゃうから。リンが倒れたら、俺だって気が気じゃなくなっちゃうし」

「えっ」


 今は一緒にお出かけして心身を労わってもらうことぐらいでしか恩を返せない。


 それに問題とか課題は山積みだから、まだまだこれからだ。

 今回の1件で闇組織の構成員を倒したけど、間違いなく氷山の一角だろうし、3人と関りがある連中じゃなかったっぽいし。

 それに、魔法発現を封じる指輪なんて超厄介な物の存在も発覚した。


 しかーし!

 まだまだカッコいい必殺技も編み出したいし、いろんなヒントから導き出した合体技も研究のし甲斐がある。

 決めゼリフとかイカしてる名前もまだまだ考えたい!


「こんなに美味しいんだったら、毎日だって食べたいぐらいだよ」

「えっ! そ、それって、もももももしかして――!」


 よーし! これから表と裏がある日常、どっちも楽しんでいくぞー!

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