さすがに、街中を歩いている最中は恥ずかしかった。
周りの目線的には、「あらあらまあまあ」「かわいらしいわね」「うふふ、癒されるわ」とかって意味を含んだものっては理解しているんだけど。
俺も、このもふもふたちをチラチラ見ていてそう思ったよ? でもさ、このかわいい存在と一緒の類にされているって考えると、さすがに恥ずかしいじゃん。
まだ小学生とかだったら逆に愛想を振り撒いていたかもしれないけど、16歳だよ? 普通に羞恥心の方が勝るって、恥ずいって、冗談じゃなく。
というか、犬の方は珍しくないにしても、狐もそこまで珍しくないのか? すれ違う通行人は誰も疑問視していなかったよな。
それともあれ? なんかもう、かわいい小動物が歩いているってことしか気にしてなかっただけ? ちょっとそれはさすがに不注意と言うものではありませんかね。
あーでも、かーっ! 今思い出しても顔が熱くなる。
帰りはさすがに一目が無いところを進むぞ。
『ハッハッハッ』
『……?』
黒いもふもふは依然迷うことなく進もうとしているが、白いもふもふの方がキョロキョロとしている。
「どうした」
我ながら、吠え返されても意味を理解できないのに、質問しているのがおかしくは思う。
黒いもふもふは「どうしたの?」といった感じに振り返っているのがなんともかわいい。
白いもふもふは「ごめんなさい」と言っているかのように耳を垂らして頭を下げている。
どちらもかわいいのは変わりなくとも、やはり狐の方は追えなくなったようだ。
ここで、ただの推測だったのが嫌でも現実味を帯びてきてしまった。
片方は匂いを追い続け、片方は魔力を追う。
できれば外れていてほしかったけど、なんらかの魔力阻害があるということ。
残念がっている様子はかわいくもかわいそうでもあるが、ここからは相方に役目を譲ってあげてくれ。
「問題ない、先を急ごう」
「ロイツ!」
「ぐっ!」
牢屋から場所は移り、男たちがたまり場としている広間へ。
希望を求め、勝利を欲する4人に――残念ながら形勢逆転という盤面へ変わることなく、あまりにも残酷な敗北の二文字が迫って来ていた。
魔力を封じられたことにより、エリーゼの魔法は一切の発動をすることができず、クライスは魔力による制御ができなくなり強靭な肉体は脆くなり、カナリはそもそもの消耗が激しい。
そんな状況下で、唯一自身の能力を発揮できるロイツであったが、彼女もまた魔力によって身体強化していたため、ブレス以外の攻撃はほとんどできなかった。
「まだ時間稼ぎをしないと次が使えないの」
「おらおらどうした?」
「さすがに白い炎が出てきたときは驚いたけど、そこまで早くねえから広間だったら全然怖くねえぞ」
牢屋での戦闘時はさすがに狭く、どうしてもカナリを巻き込んでしまうためブレスを吐けなかった。
だが、場所が広間へと移ってすぐ興奮のあまり距離があるのにブレス攻撃をしてしまい、結果的に誰にも当てることができず。
なんとか全員で近接戦闘を試みるも、身体的な能力は男たちの方が上で、ブレスを再使用できるまでヒットアンドアウェイ……と言えば聞こえはいいが、実際はほとんどサンドバックになってしまっている。
「そこの嬢ちゃんは傷が残らないよう配慮しなきゃいけねえが、お前たちは別だからな」
「いい声で鳴くから、長引かせたくなってつい手加減しちまってるけど」
男たちはまだまだ体を動かし足りないのか、腕を回したり手の関節をポキポキと鳴らす。
「ごめんなさい、あなたを助けに来たというのに」
「いいのです。こうして一緒に戦ってくださっているだけで、心から感謝しています」
「あなた、強いのね。彼が気に留めていたのは少しだけ納得したわ」
「え……?」
「んがー! ぶっ飛ばーすっ!」
ロイツは責任感と背負い、闘争心を燃やして単身特攻をする。
しかし。
「ぐはっ――」
筋肉隆々な男たちではあるが、俊敏性も兼ね備えており、ロイツの真っ直ぐな攻撃は避けられてカウンターを腹部へ。
強力な打撃をくらったロイツは、3人が待つ場所へ殴り飛ばされてしまう。
「ロイツ……ごめんなさい。私たちも行くわよクライス」
「はいです。意地でも腕に噛みついてみせます」
「私も行きます」
「一緒に戦ってくれてありがとう。でも、これ以上あなたが傷つくと彼に怒られちゃうかもしれないから」
エリーゼは立ち上がろうとしたカナリの肩へ手を置き、痛みに顔を歪ませながら、なんとか笑みを浮かべ制止する。
「でも私はまだ戦えます!」
「大丈夫。私たちはまだ諦めたわけじゃないの」
「え、でも……」
「例え腕を折られ、立ち上がることができなくなったとしても勝利を信じ続ける。命が絶えるその瞬間まで」
「どうしてそこまでして私を護ってくださるのですか」
「そうね、どうしてかしら」
「え」
「ふふっ、冗談よ。彼が目指すと言ったの、【世界の守護者】になるって。正直、おかしな話よね。逆に言ったら、世界を敵に回してもいいって言っているようなものだから」
「規模感が違いすぎますね」
「でも、彼に命を救ってもらって、あの強さを目の当たりにして――この人だったら本当に成し遂げちゃうんだろうなって思えたの。だから、彼の部下なら彼の意思に従わなくちゃっね」
「その人は、凄いのですね」
「ええ、そうよ、想像を絶するほど。そして、彼は絶対にここへ来るわ。だから、最期の一瞬まで信じてみて、彼のことを」
「……わかりました」
全身のあちらこちらから内出血をしている体へ鞭を討ち、エリーゼは立ち上がる。
「クライス、行くわよ」
「はいです」
「はぁああああああああああっ!」
「おりゃああああああああああ!」
「ぐっ――はっ――」
「んぐぅうううううううううう」
「こいつ、噛みつきやがって! クソが!」
「きゃああああああああああ――」
体に拳をねじ込まれても、踏ん張って殴りかかるも検討虚しくエリーゼは鈍い音を立てながら背中から着地。
既に数本の骨が折れており、体内は数か所の出血をし、多量の血液を吐血。
クライスは有言実行をして必死に男の腕へ噛みつくも、少女顎では剛腕を噛み千切ることはできず、髪の毛を鷲掴みにされ投げ飛ばされ体が地面を転がる。
「ぐはっ――ま、まだよ」
「やってやるのです。次は爪もくい込ませてやります」
「――」
(皆さん、ありがとうございます。私は絶対に皆さんの勇姿を目に焼き付けます。そして、最後の最後まで諦めません!)
もはや歩くのもやっとのエリーゼとクライス、激しい体力の消耗と衝撃で気絶しているロイツ。
まさに絶体絶命。
「エルフはそろそろヤベえから、居たくもねえ攻撃は無視し続けるぞ」
「あっちの赤毛はもうちょい大丈夫そうだな」
「がーっはっは! お楽しみはまだまだ続くぜぇ!」
「ん?」
「は?」
――カツッ――カツッ――カツッ――カツッ――。
1歩、1歩と革靴で地面を鳴らしながら着実に足を進める音に、男たちは振り返り、少女たちは足を止める。
陽が射し込んで明るい広間だからこそ、全員が確実に視界へ納められる漆黒の衣装に身に包む男の姿あり。
「神託を授かりし【世界の守護者】が、勝利を確信し脅威と戦う乙女たちの窮地を救うべく――馳せ参じた」