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第12話『想像していた展開とは予想外に』

 さて、放課後になったものはいいものの……登下校の時間を短縮することはできないだろうか。

 ほぼ毎日リンと登下校しているわけだが、どちらのお家的にも馬車だのなんだのって移動手段はあるはずなんだが。

 双方の両親の方針で徒歩以外の選択肢がないという、子供たちの健康を思ってのことなんだろう。

 おかげさまで足腰が頑丈になっているんだから、文句が言えないんだよね。


「どうしたものか」


 集合時刻は17時で残り数分。

 片道1時間はどうしても省けない現状、いろいろと考えなけないといけない。

 夜にこっそり抜け出すという手段はありだけど、バレたときが非常にマズいんだよなぁ。


 てか、あの3人とどうやって付き合っていくかも考えないといけないし……。


「あぁー、俺は正体を隠して人助けをしたいんだけどなぁ」


 目的を果たすことができる力を手に入れたとしても、こうも縛りが多いとあまりにも歯痒すぎる。

 分身体を作ったらどうか、なんて考えてみたけどそれはそれでまた別の問題が出てきちゃうしなぁ。


「約束通りに来たわユシア」

「……」


 そ、そういえば裏名義を設定して【ユシア】って名前にしたんだった、忘れてた!


「それで、私たちはこれからどうしたらいいのかしら」

「ボク、今だったらなんでもやれるよ!」

「わたしも同じくです」

「ユシアが私たちに施してくれた【聖痕の証】のおかげで、今までとは比べ物にならない力がみなぎってくるようになったの」

「そうか」


 何その【聖痕の証】とかいうカッコいい感じの名前、よすぎるでしょ。

 そんでもって、力がみなぎってくるってなんの話? 初耳なんだけど。


「でもこの恩恵を授かったとしても、ユシアの足元にも及ばなさそうだけど」


 3人は改めて見上げたり見渡したりして、既に展開してある【聖領域】へ関心の目線を向けている。


「これは力の一片に過ぎない。それに、把握している通りであれは無害だ」

「無害だったとしても、治療師は魔法を使用できる人間なら知識を得たら誰でもなれる。でも、ここまでの広範囲かつ物体や地形を回復させてしまうなんてことは誰にもできない。文字通り、神の領域」


 え、そこまで凄いことだったの?

 たしかにアッシュの豊富な知識をもってしても、そんな文献はどこにもない。


 あぶねー、人の目があるところで使ってたら神の御業とか崇め奉られていたところだった、セーフ。


「ボスの別の力も見てみたい!」

「よかろう。刮目せよ――【遮断聖域】」


 聖領域と同じ範囲で遮断聖域を展開。

 二重の聖域と領域によって、解除しない限り回復し続けるだけではなく外部からの干渉を完全に遮断することができる。


 せっかくの合わせ技だから名前を考えたいところだけど、今はやめておこう。


「な!? 外の音が何も聞こえない……」

「ボス! 何が起きたの?!」

外界げかいとの一切を遮断した」


 驚愕の表情、歓喜の目線を一身に集めている心地良さを味わっていたいところだけど、実際に効果を試していないからやってみないとね。

 それに、ついでに3人の力も知っておきたいし。


「せっかくだ。手合わせでもしよう」

「で、でも――」

「ボスは太っ腹!」

「主様、本当にいいのですか?」

「ああ、問題ない」


 さてさて、力を増してるって話だしどうなるかな。


「一番乗りはボクだーっ!」


 性格そのままに近距離戦型。

 戦い方は――二本の短剣か。


 回避し続けるのはもったいないから、守護の光を全身に纏って防ぎ続けてみよう。

 3人の戦闘力を測ると同時に自分の防御力も試さないと。


「ふっ、ふっ!」

「どうした、その程度か」

「んがーっ! 全然当たらない!」

「全力で来い」

「もーう! こうなったら――」


 ん、動きを止めて思いっきり息を吸い込んで? 咆哮すると能力向上的なやつか?


「こうだぁああああああああああああああああああああ!!!!!」


 わお、真っ白な髪色と同じ色の白い炎を口から放つのね。

 こんな特大攻撃を至近距離で食らったらヤバい、が、あえて受けきってみよう。


「――ふむ」


 熱は感じるし髪とかがなびくほどの勢いもある。

 しかし、絶対なる防御ともいえる守護の力はあまりにも硬すぎるな。

 てか自信を守護するためにオートヒールがあるから、火傷もしないし熱への耐性もあるのか。


 というか、これって魔法じゃないよね、魔装でもないし。


「うぎゃー! もうダメ~」

「下がりなさい!」

「準備は整いました」


 ボクっ子が後方に退避したと思ったら、とんでもなくデカい魔法陣が展開されてる件。

 さすがはエルフ、想像を飛び越えてくる魔法がぶっ放されるんだろう。


 しかし気になるのはそれだけではない。


 赤毛の少女がなんか知らないけどでっかくてドス黒い大鎌を構えている。

 そんでもって、周囲を囲むような赤い……液体みたいなものが円を描いていり足元を覆っているじゃないか。


 あまりにも得体の知れない攻撃が襲い掛かってこようとしているわけだけど……もしかして、この子たちってかなり強いんじゃない?

 大丈夫そう? 俺?


「面白い」


 実にファンタジー的な戦闘でこっちのテンションも有頂天。

 普通に考えたらヤバい展開だけど、じゃあ逆にこんなスリルある展開はそうあるものじゃない。

 楽しんでなんぼ、ってことで新しい防御を考えよう。


「行きます」


 赤毛の子は大鎌を振り回して――。


「ほう」


 槍ぐらいのリーチを活かして攻撃するだけではなく、デバフの効果をばらまきながらというわけか。

 しかも厄介なのが、攻撃があってもないし触れて防いでいないのに効果に掛かってしまうこと。


 鈍足、重力増加、魔力阻害……パッと感じるだけでもこんな感じか。


「実に器用だ」


 大鎌を振り回すだけではなく、重量や力が流れる方向に体も回転させたりして攻撃を仕掛けてくる。

 ですます口調で大人しい振る舞いをしておきながら、一番のお転婆娘なのかもしれないな。


「しかし、無意味」


 悪いんだけど、守護の力はそれら全てのデバフを自動で無効化してしまうんだ。

 次々に筋力低下や鈍化とか多種のデバフが付与されるんだけど、その瞬間に消させてもらっている。


「え」


 信じられないって表情しているね。

 超理不尽な展開だっていうことぐらいは理解しているつもりだよ。


「甘い」

「きゃぁっ!」


 ご自慢の大鎌に強力な拳をぶつける。

 ちゃんと手加減はしたつもりだけど、結界の端まで飛んで行ってしまった。

 衝撃が凄いだろうけどごめんね。

 だって、あのエルフっ子が放とうとしている魔法に巻き込んでしまいそうだから。


「油断」

「うわっ!」


 ぜえぜえと呼吸を整えてエルフっ子の隣で待機している白髪の子にもぶっ飛んでもらう。

 そして、さっきの位置にパッと戻る。


「あまりにも早すぎる……」

「さて、お前の全力を見せてみろ」

「ユシア――胸を借りさせてもらうわ。【古の大融合魔術】――【断絶の一撃】」


 うっひょーっ。

 何その呪文的な詠唱的な魔法名的な固有名的な感じのやつは!


 エルフっ子の頭上から虹色の大剣みたいなのが出現してる。

 あれが今から俺へ一直線に飛んでくるんだろうけど、攻撃力ヤバそう。

 いよいよヤバそうな展開になってきた。


 防御、防御……結界だと被っちゃうし、大きい盾を作ってみる? いやーでもなー。

 あー、オートガードがあるからそれの性能テストでもいいけど、ここでなんか大技って感じのが欲しい。

 別名義で活動をしているときは、基本的に黒を意識しているから……あっ! めちゃくちゃちょうどいいのがあるじゃないか!


「――【無限黒淵】」


 イケてる名前はまた後で。

 無限黒淵、簡単に言ったらブラックホール。

 細かく言ったら、白い光を黒くして手の平で全部吸収しちゃうって感じ。

 精密な魔力操作によって成せる技だけどね。


 いいよね、こう、右手を前に出して全てを受け止めちゃうみたいなシチュエーション。

 かっこいい!

 空いている左腕はどうしちゃう? 後ろの回しちゃったりしちゃう!


「……力の差が絶望的すぎる」

「いいや、なかなかよかったぞ」

「はっ! 2人とも――」

「問題ない、既に回復済みだ」


 領域内の全員が回復しちゃうんじゃないか、ちょこーっとだけ心配していたけど意識するだけで変更できるようだ。

 融通が利きすぎている気もするけど、地形もまた同じく。


 じゃあ最初にやってみたときのは、意識的に全範囲でやっちゃってたんだな。


「さて、次は少しだけ話をしようじゃないか」


 能力面はある程度わかったから、次は性格とか考えとかを把握しておきたいからね。

 俺がいくらオートガードとかオートヒールがあるとはいえ、寝首を掻かれたり裏切られたりしたら嫌だし。


「……わかったわ」


 あれ、クールビューティーなエルフっ子が緊張しているような、強張っているような表情をしている。


 あー……なんだか見覚えがあると思ったら、これじゃあまるで面接じゃないか。

 間違ってはいないんだけど、そこまで緊張されるとこっちがやりにくいんだけど……あんな実力差を見せつけられた後すぐじゃ無理もないよな。


 ボクッ子と赤毛の子も立ち上がって歩いてきているし、解決策は思い浮かばないからこのまま話すしかない。


「それでは始めよう」

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